「弁護士を変えたい」。
そう決断した瞬間から、本当の地獄が始まることがあります。
昨日まで社長の味方だった弁護士が、解任された途端に牙を剥き、
「手付金は返さない」
「追加で●000万円払え」
「払わなければ、裁判の資料は一切返さない(人質)」
と迫ってくる。
さらには、
「言うことを聞かないと、保釈が取り消されることになるぞ」
という、耳を疑うような脅し文句まで飛び出す始末。
相手は法律のプロ、しかも元検事。
本記事では、暴走する“元”代理人を手なずけ、重要書類を取り戻すための、弁護士同士の
「仁義なき戦い(書面プロレス)」
の奥義と、その背後にある冷徹な計算について解説します。
【この記事でわかること】
• 弁護士が依頼人を「脅す」ときの典型的な手口(留置権)とその弱点
• 「資料の引き渡し」と「カネの話」を切り離させるロジック
• 相手の暴言を「言質」として取り、逆に追い詰めるカウンター技法
【相談者プロフィール】
相談者: 株式会社 剛腕(ごうわん)建設 法務部長 盾山 守(たてやま まもる)
状況 : 前社長が法人税法違反(脱税)容疑で起訴され、公判中。保釈されている。
トラブル: 弁護方針が合わず、前任の元検事・ヤメ検弁護士を解任。後任の弁護士に依頼したが、ヤメ検弁護士が事件記録の返還を拒み、高額な報酬を請求している。
【相談内容】
先生、助けてください。
前社長の刑事裁判が暗礁に乗り上げています。
弁護方針が合わないため、前任のヤメ検弁護士を解任したのですが、彼が
「成功報酬を含めて●000万円払え」
と言ってききません。
しかも、
「払うまでは、手元にある裁判の記録や修正申告書の控えは一切返さない」
と、資料を人質に取られています。
来週には検察庁への呼び出しや公判準備があるのに、資料がないと何もできません。
さらに恐ろしいことに、彼は
「僕との契約を反故にするなら、保釈が取り消されることになるかもしれないよ」
と、暗に前社長を再収監させるとほのめかしてきました。
前社長は恐怖で夜も眠れないそうです。
法外なカネを払ってでも、資料を取り戻すべきでしょうか?
「留置権」という名の“合法的な人質”
盾山部長、落ち着いてください。
相手の術中にハマってはいけません。
まず、相手がなぜ
「資料を返さない」
と強気に出られるのか。
それは民法上の
「留置権(りゅうちけん)」
を盾にしているからです。
「時計の修理代を払うまでは、時計を返さない」
のと同じ理屈で、
「弁護士費用を払うまでは、預かった書類は返さない」
と主張しているのです。
しかし、これはあくまで
「民事上の金銭トラブル」
の話です。
刑事裁判という、被告人の人生がかかった重大局面において、弁護士が資料を人質にとって防御権を侵害することは、弁護士倫理(職務基本規程)上、極めてグレー、いやブラックに近い行為です。
「保釈取消」の脅しは、弁護士としての“自爆スイッチ”
さらに許しがたいのは、
「保釈を取り消させるぞ」
という示唆です。
これは、弁護士が依頼人の利益を守るどころか、
「依頼人を刑務所に送り返すぞ」
と脅しているに等しい。
元検事という経歴をひけらかしているようですが、このような発言は、
「品位を欠く非行」
として懲戒処分の対象になり得ます。
相手は
「脅し」
のつもりでしょうが、実は自分の首を絞めるロープをあなたに手渡しているのです。
反撃の狼煙:「金銭問題」と「書類返還」を切り離せ
では、どう戦うか。
この泥仕合を制するカギは、
「問題を切り分けること」
です。
私がそのヤメ検弁護士に送る通知書のロジックはこうです。
1 カネの話はあとでする:
「報酬については見解の相違が大きすぎる(こっちは過払いだと思っている)。だから、時間をかけて協議しましょう」
2 書類は今すぐ返せ:
「カネの話とは別に、書類がないと刑事裁判の準備ができず、私の防御権が侵害される。これを妨害するのは弁護士としてあるまじき行為だ」
3 脅しは記録したぞ:
「『保釈取消』や『各種手続きをとる』といった威圧的な発言は、すべて記録しました。これらは、本件とは別の『脅迫事件』として、然るべき場所(弁護士会や裁判所)で使わせてもらいます」
「ケンカ慣れ」した相手には、礼儀正しく、かつ冷酷に
相手が
「こっちは元検事だぞ、舐めるな」
という態度で来るなら、こちらもプロとして対応します。
感情的に怒鳴り合うのではなく、
「あなたのその発言、過去にあなたが裁判所から批判された『検察官にあるまじき行為』と同じですね。懲戒請求の証拠として使えますね」
と、氷のような冷たさで伝えるのです。
相手が
「不当な煽動だ! 脅迫だ!」
と騒ぎ出したら、しめたものです。
冷静さを欠いている証拠ですから、こちらは淡々と、
「正当な権利行使を脅迫と呼ぶとは心外です。その発言も記録しておきますね」
と返せばよいのです。
【今回の相談者・盾山部長への処方箋】
盾山部長、●000万円なんて払う必要はありません。
以下の手順で反撃しましょう。
1 内容証明での最後通告
「刑事弁護活動に不可欠な資料の即時返還」
を求めます。
「これを拒否して実害が出れば、損害賠償はもちろん、懲戒請求も辞さない」
という強いメッセージを送ります。
2 「脅し」の無効化
「保釈取消」
の脅しについては、
「そのような発言があった」事実
を現在の弁護団で共有し、裁判所にも
「前任者が不当な圧力をかけている」
と報告しておけば、実際に取り消されるリスクは低減します。
3 別ルートでの資料入手
最悪の場合、相手が資料を返さなくても、検察庁や裁判所で記録の閲覧・謄写(コピー)をし直すことで対応します。
手間と費用はかかりますが、●000万円払うよりはマシです。
弁護士といえども、人の子。
カネに目がくらみ、プライドを傷つけられれば、モンスター化することもあります。
そんな時は、ひるまず、騒がず、その醜態を
「記録」
して、法的な武器に変える。
それが、プロの喧嘩の作法です。
※本記事は、実際の法律相談事例(弁護士間の通知書等)をもとに、弁護士との紛議解決および交渉戦略に関する一般論を解説したものです。
実際の弁護士報酬の精算や資料の引き渡しについては、委任契約の内容や事案の具体的事情により法的判断が異なります。
個別の事案については必ず(現在の)弁護士にご相談ください。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
✓当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ:
✓当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ:
企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
