02103_取引の目的、明確ですか? 弁護士相談の前に考えるべき「契約より大切なこと」

ビジネスを進める際に、細かい点にこだわりすぎたり、準備を先走ったりして、肝心な部分が固まっていないまま弁護士に相談する人は少なくありません。

しかし、そもそも
「何を、どのような形で取引するのか」
が決まっていなければ、弁護士と議論しても意味がないのです。

取引の基本的な骨子が不明確な状態では、いくら法的なアドバイスを受けても、無意味になってしまう可能性が高いです。

ビジネスの一般的な取引の流れを考えてみましょう。

1 まず「何を、いくらで取引するのか」を合意する
2 次に、それが税務上・法律上、問題なく実現できるどうかを検討し、大かな枠組みを作る
3 最後に、詳細を契約書などの正式な文書に落とし込む

この流れに沿っていないと、余計な時間とコストがかかるだけでなく、話がまとまらなくなることもあります。

例えば、
「結婚するかどうかも決まってないのに、結婚式場を予約したり、新婚旅行の手配をしたり、新居を探したりする」
のは早すぎますよね。

相手がまだ結婚に踏み切れない状況で、いくら準備を進めても、肝心の結婚自体が成立しないかも知れません。

ビジネスでも同じことが言えます。

まだ店を開くかどうかも決まっていないのに、店舗を借り、内装を仕上げ、スタッフを使い、チラシまで印刷してしまったら、

「そもそもこのビジネス、本当にやる意味があるのか​​?」
と悩むことになりかねません。

弁護士に相談する前に、まずは
「この取引の目的は何なのか?」
を明確にしましょう。

方向性がはっきりしないまま、契約の詳細や法的なリスクについて議論しても、意味がありません。

時間や費用を無駄にしないためにも、まずは基本をしっかりすることが大切です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02102_企業法務ケーススタディ:「金商法違反だから登録が必要」は本当?—弁護士の助言を鵜呑みにする前に

<事例/質問>

ファンド運営のビジネスを考え、大手弁護士事務所に相談しました。

すると、
「金商法違反だから二種免許がいる」
と言われました。

それって、どういうこと? 本当ですか?

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

結論から言えば、
「金商法違反だから二種免許がいる」
という説明は、必ずしも正しくありません。

正確には、
「特定の業務を適法に行うために、登録が必要になる場合がある」
というのが正しい考え方です。

そもそも、
「金商法違反だから登録が必要」
という説明には違和感があります。

なぜなら、登録というのは、事業を合法的に行うための手続きであり、違反の結果として求められるものではないからです。

つまり、
「二種業者としての登録が必要」
ということ自体は事実かもしれませんが、その理由付けが誤っている可能性があります。

大手弁護士事務所の対応については
「ケチをつけるだけの仕事ぶり」
と言えましょう。

法律の専門家として助言をする以上、どこが問題なのか、具体的な根拠を示すべきです。

しかし、多くの弁護士は
「二種業者の登録が必要」
「金商法の届出がいる」
といった結論だけを示し、その根拠を十分に説明しません。

ケチをつけるなら、そのポイントを明確にするのが最低限のマナーでありエチケットです。

例えば、
「Aさんは嫌い。なんとなく合わない」
では、改善のしようがありません。

しかし、
「Aさんは嫌い。いつもおしりを触ってくる」
と指摘されれば、おしりを触るのをやめれば関係を改善できます。

これと同じように、
「金商法違反だから二種免許がいる」
と言うだけでは不十分です。

・そもそも、その業務が金商法のどの規定に抵触するのか?
・規制を回避できるスキームはないのか?
・適用除外や例外規定はないのか?

こうしたポイントをしっかり議論することが重要です。

例え話:「ドレスコード違反だからネクタイを頭に巻いて歩け?」

「金商法違反だから二種業者の登録が必要」
という説明は、極端な例で言えば、
「Aさんの服装はドレスコード違反だから、ネクタイを頭に巻いて歩く必要がある」
と言っているようなものです。

・Aさんの服装をきちんと理解しているのか?
・ドレスコードのどの条項に違反しているのか?
・そもそも、ネクタイを頭に巻くのが正しい解決策なのか?
・もしかすると、上着を羽織るだけで問題が解決するのではないか?
・さらに言えば、そもそもドレスコードが適用される場面なのか?
・「特定の職種なら例外」というような特例があるのではないか?

つまり、
「違反だからこうしろ」
と言われたときには、本当にその解決策が正しいのか、1つひとつ丁寧に確認する必要があります。

「本当に登録が必要なのか?」を徹底検証すべき

実際、大手法律事務所が
「二種業者の登録が必要」
「金商法の届出が必須」
と主張していた案件を徹底的に検証し、金商法の規制外の私募ファンドとして合法的に運営できた事例は数多くあります。

これは、規制の本質を理解し、正しいスキームを組み立てれば、必ずしも
「二種業者の登録」
が不可避ではないことを示しています。

ファンド運営を考える際(だけに限ったことではありませんが)、表面的な指摘に流されず、具体的な法解釈を踏まえて適切な手段を検討することが重要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02101_弁護士が現場に入ると何が起こる? 弁護士が知るべき組織のリアル

ある会社で、オーナー社長から
「風通しのいい組織をつくるために、現場をサポートしてほしい」
と、弁護士に依頼がありました。

弁護士が現場に入ると、管理職から
「人は信じてナンボ。弁護士は何でも悪意に取りすぎる」
と言われてしまいます。

この時点で、すでに弁護士と現場の認識には大きなズレがあることがわかりました。

さらに、この会社には、次のような文化が根付いていました。

1 保身や派閥抗争・権力闘争のためには手段を選ばない
2 一見温和で低姿勢に見えながら、強烈なコンプレックスを抱えている
3 前例と慣習を盾にして、自己保全と正当化に腐心する
4 実態が見えにくい、閉鎖的な集団である

こうした組織の中で、弁護士が管理職と曖昧な合意のもとで関わると、次のような事態が発生します。

サポートするつもりが、利用されて終わる

管理職と曖昧な関係を築いたままサポートをすると、弁護士の立場は非常に危ういものになります。

例えば、こんなことが起こります。

1 アイデアをパクられる
弁護士が出したアイデアを、管理職がさも昔から知っていたかのように使い、自分の手柄にします。
2 成功は管理職の功績、失敗は弁護士の責任になる
うまくいけば管理職の実績、問題が起これば弁護士のせいにされます。
3 「弁護士がOKした」と勝手に名前を使われる
自分では言いにくいことを、弁護士の発言として利用されることがあります。

このように、弁護士はサポートするどころか、単なる
「都合のいい存在」
にされ、最後には追い落とされてしまう可能性が高いのです。

では、どうすればいいのか?

まず、このような会社においては、次のような事実を前提として認識することが重要です。

1 弁護士は、管理職や社員から嫌われている
2 管理職は、弁護士を追い落としたいと考えている
3 その手段は選ばない(どんな方法でも使う可能性がある)
4 弁護士が考えた企画は、確実にパクられる
5 管理職は、弁護士の発言を邪推し、それを悪意のある形にして追い落としの材料にする

この前提を理解せずに、一般的な
「風通しのいい組織づくり」
を目指しても、骨抜きにされるか、逆に利用されるだけです。

緊張感のある関係を維持するための対策

では、どう対処すればいいのでしょうか?

1 邪推・誤解をされないよう、細心の注意を払う
何気ない一言が、後で「弁護士がこう言った」とねじ曲げられる可能性があります。常に発言や行動の記録を残すことが大切です。
2 利益やコミッションが生じる際は、最初に明確にする
後から「そんな話は聞いていない」と言われないように、あらかじめ条件を文書化しておくことが必要です。
3 オーナー社長との対話では、合理性検証シートを活用し、データ・数字・時系列を整備する
一見、適当に対処しているように見える社長が、実は合理性やデータを重視する場面もあります。
合理性検証シートなどのエビデンスを用意して、感覚ではなく事実を整理して伝えることが重要です。
4 オーナー社長の見かけに惑わされず、真剣勝負で向き合う
「諸事、イージーで、適当に対処している」ように見える社長の言動に油断せず、こちらも全力で取り組む必要があります。

結論:ルールと距離感を整え、緊張感のある関係を維持する

「風通しのいい組織づくり」
という言葉をそのまま受け取ってしまうと、結果的に 利用され、追い落とされるだけになってしまいます。

この会社で弁護士が生き残り、適切に機能するためには、
「明確なルールを設定し、適切な距離を保ちながら、緊張感のある健全な関係を築くこと」
が不可欠です。

本当に「風通しのいい組織」を目指すなら、まず
「今の組織のリアルな実態を見極め、それに応じた戦略をとる」
ことから始めなければなりません。

そうでなければ、
「風通しのいい組織づくり」
は、単なる絵に描いた餅で終わってしまうでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02100_契約書チェックの管理術:リスクを最小限に抑える役割分担_事業担当者・法務担当者と弁護士

契約書のチェックを事業担当者と法務担当者に任せるか、それとも弁護士に依頼するべきか。

その判断には明確な基準が必要です。

契約リスクを最小限に抑えるために、以下のポイントを押さえておきましょう。

まず、事業担当者と法務担当者が契約書のチェックを行う場合、以下の3つの条件を満たしている必要があります。

1 ルーティン取引であること

すでに何度も経験している、内容が明確で前例がある取引であれば、大きなリスクは少ないと考えられます。

2 取引額が適切な範囲内であること

契約の金額が、事業担当者と法務担当者の1ヶ月分の給与相当額以下であることが重要です。

仮にミスをしても、最悪の場合は両名の給与1ヶ月分の返上でリカバリーできる範囲です。

3 契約内容をしっかり読み込めること

事業担当者と法務担当者のそれぞれが、契約書をきちんと理解し、自信を持って
「この内容で問題ない」
と判断できるかどうか。

要するに、
「この契約が自分のお金だったとしても、問題なくサインできるか?」
という視点で考えることが求められます。

これら3つの条件を満たせば、契約書のチェックを事業担当者と法務担当者に任せることは許容範囲内といえましょう。

仮に問題が発生しても、最悪の場合は両者の1ヶ月分の給与を返上させれば済む程度のリスクです。

しかし、以下のようなケースでは、契約書のチェックは弁護士に依頼するのが適切です。

1 新規の取引である

過去に類似の事例がなく、取引相手や契約の内容が未知数である場合は、リスクが見えにくいため、弁護士のチェックが不可欠です。

2 契約金額が大きすぎる

ルーティン取引であっても、契約金額が大きく、もし見落としがあった場合に事業担当者と法務担当者の給与1ヶ月分では補填できないようなリスクがある場合、弁護士のチェックを受けるべきです。

3 契約内容が理解できない

契約書の文言が難解で、何が書かれているのか正確に理解できない場合、単に
「読んだ気になっている」
だけでは危険です。

このような状況では、弁護士に依頼するのが最も安全です。

契約書は、
「何となく読んだ気になっている」
だけでは意味がありません。

リスクを正しく認識し、適切に対処できるかどうかが重要です。

契約のリスク管理は、事業の安定にも直結します。

事業を安定して継続させるには、リスクは最小限に抑えるべきなのです。

以上の基準をもとに、契約書のチェック体制を決めることで、無駄なリスクを避け、適切な判断ができるようになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02099_「香港法人なら節税OK」は幻想?裁判で否認された管理支配基準

むかーしむかし、あるところに、日本で木材の卸売業を営む会社がありました。

会社はたいそう繁盛していましたが、稼いでも稼いでも法人税として半分くらいもっていかれてしまいます。

あるとき、社長さんは
「香港は法人税率がとっても低いらしいと」
いう話を聞き、
「これだ!」
と思いました。

「香港に会社を作って、税率の負担を軽くしよう!」

しかし、日本には
「タックスヘイブン対策税制」
というものがあり、適用を受けるためには4つの要件を満たさなければならない、ということがわかりました。

でも大丈夫。

社長さんの会社は、
・事業基準非関連者基準はまったく問題なし。
・実体基準も、香港にオフィスを構え、従業員を雇い、シッピング等の書類作成業務をさせればいいだろう
管理支配基準は、現地に取締役を常駐させれば、一丁上がりだ!

社長さんは自信満々で香港法人を設立しました。

ところが、税務署から適用除外は認められないとして、更正処分を受けてしまったのです。

争点になったのは管理支配基準。

条文上は、
「その事業の管理、支配及び運営を (香港法人が)自ら行っているものである場合」
となっているのですが、税務署は
「お宅の場合、事業の管理、支配及び運営は実質的に日本法人が行っているので、ダメ」
と解釈したのです。

納得がいかない社長さん、裁判で反撃!

社長は当然納得がいきません。

そこで裁判で争うことにしました。

ところが、裁判では税務署が次のような点を指摘し、社長の主張は退けられ、地裁も高裁も敗訴が確定して終わったのです。

税務署が見抜いた香港法人の現状

・香港法人の取締役会や株主総会は、すべて日本法人の本社で開催されていた。

・香港法人の取締役4名のうち3名は日本法人の取締役を兼任しており、香港法人に常勤している取締役は1名だけだった。

・取引条件の決定、輸送、クレーム処理などの重要な業務はすべて日本法人が行っていた。

・香港法人は日本本社に従い、外形的に契約の当事者となって右木材の売買契約を締結し、代金の決済、差金と称する金員の支払及び融資に伴う諸手続を行っていたに過ぎない。

・日本法人が香港法人の取引先に対する前渡金又は貸付金及び船積みごとの取引金額等すべての取引内容をノートに記帳し、各取引先ごとの債権債務を管理しており、香港法人には独自の管理がなかった。

・香港法人の役員の人事や給与改定は、日本法人の取締役会で決定されていた。その取締役会には、香港法人の駐在取締役は出席していなかった。

・香港法人の事務所の借入変更や内装に関する決定も、日本法人の承認が必要だった。

・日本法人は、香港法人の利益から「ノウハウ利用料」の名で金員を受け取っていた。

つまり、香港法人の行うサービス業務の内容は、いずれも日本法人と取引先との間で取り決められる契約の内容により自動的に確定し、定型的に処理できるものばかりでした。

これらの事実から、裁判所は
「香港法人が日本法人から独立して行う業務というものは全く存在しなかったというべきであり、香港法人が本店の所在する香港でその事業の管理、支配及び運営を自ら行っていたものとはいえない」
と判断したのです。

「100%子会社ならどこも同じ」は通用しない

裁判では、社長さんは、
「100%子会社なのだから、管理監督の状況はどこも似たようなものだ」
という主張をしました。

しかし、裁判所は
「条文にそう書いてあるのだからダメ」
と、にべもなく一蹴しました。

要するに、
「香港法人が独立した経営を行っている」
と証明できなければ、裁判所の判断は覆らないということなのです。

管理支配基準のポイント

このケースからわかる管理支配基準の重要なポイントは、次の2つです。

①日本本社からの独立性の度合い
②重要な意思決定がどこで行われるか

子会社である以上は完全な独立性などはあり得ない一方、
「その事業の管理、支配及び運営を自ら行う」
という、相反する要件を満たさなければなりません。

まとめ:管理支配基準は「存在意義」まで問われる

突き詰めていくと香港法人の存在意義そのものの話になります。

管理支配基準を検討する際には、単に要件的な部分だけでなく、どういう位置づけにしたいのか、またそのための管理支配体制はどうするか、という観点での検討が必要になるのです。

税金対策として海外法人を活用する際には、管理監督基準を留意する明確な戦略を考える必要があるという教訓を、この社長さんは身をもって学んだのでした。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02098_債権回収と「詐欺行為」と「詐欺“的”行為」の違い

債権回収の基本ルールとして、
「お金がないところからは取れない」
「破産者からは期待しない」
というのが大前提です。

つまり、相手が支払い能力を完全に失っている場合、どんな手を尽くしても回収は難しく、法的手続きを踏んでも得られるものはほとんどありません。

また、
「詐欺行為」

「詐欺“的”行為」
は大きく異なります。

「詐欺行為」
は刑法上の犯罪であり、騙した側が100%悪いのが基本です。

しかし、
「詐欺“的”行為」
となると話は別で、通常は騙された側にも50%の非があるケースがほとんどです。

実際には、
「だらしない相手に、だらしない債権者が、だらしない形で信用供与した」
結果として起こる、単なる債務不履行の問題であることが多いのです。

「詐欺“的”行為」
として騒ぐ場合も、その実態はただの貸し倒れであることが多く、法的に
「詐欺」
として追及するのは難しいことがほとんどです。

したがって、貸し付ける側も
「信用供与」
に慎重になり、相手の支払い能力や信用をしっかりと見極めることが重要になります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02097_英文契約書についてスムーズに相談するための弁護士相談前の基本ステップ

契約書について弁護士に相談する際、事前に以下の点を整理することでスムーズなコミュニケーションが可能となります。

契約法務に慣れていない場合は特に重要です。

次に述べるポイントを確認しながら、相談の準備を進めてみてください。

1 契約書を「読んだ」のか「読んでいない」のか

最初に、自身が契約書をどの程度把握しているかを明確にします。大きく以下の2つに分けられます。

(1)「読んだ」と言える状態

契約書にひととおり目を通し、その内容や条項が何を意味しているのか大まかに理解していることをいいます。

仮に、専門的な表現が多く完全には理解できなくても、条項の重要箇所や気になる部分を具体的に挙げられる状態を指します。

(2)「読んでいない」状態

契約書を開いて眺めたものの、内容や条項が何を意味しているか全く理解できていない場合を指します。

この状態は、
「ただ契約書を見ただけ」
に過ぎず、
「読んだ」
とは言えません。

特に契約書が英語の場合、専門用語や法律独特の言い回しにより、契約書の内容が難解で理解が進まないケースが多いです。

この場合、
「読んだつもり」
でも実際は
「読んでいない」
と自己認識することが、次のステップを明確にするための第一歩です。

2 契約書の審査を受ける目的を確認する

次に、弁護士に相談する目的を整理します。以下の3つの目的のいずれに該当するかを明らかにすることが必要です。

(1)代読の要請

契約書が難解で、自分では理解できないため、内容を平易な言葉で説明してもらう目的です。

この場合、特に
「全体的な概要を知りたい」
のか、
「特定の部分に焦点を当てたい」
のかを明示するとよいでしょう。

(2)契約書の確認・把握のみ

契約内容自体は会社や依頼者が既に承認している状態で、特に修正依頼やコメントを求めるわけではないが、弁護士にも目を通してもらい、事前認識を共有しておく目的です。

これは、後のトラブル対応やアドバイスをスムーズにするための準備的な確認作業といえます。

(3)校正や助言を目的とする場合

契約内容に関して具体的な助言や修正依頼を行いたい場合です。

これにはさらに以下の3種類があります。

(ア)リスク・アセスメントの要請

特定の条項が持つリスクを洗い出し、その結果、当方がどのような責任や義務を負うのか明確化したい場合。

(イ)特定条項の起案依頼

条件やリスクを防ぐための具体的な条項を、新たに作成してほしい場合。

(ウ)交渉上の助言や対策要請

責任や義務を負いかねる箇所について、交渉のロジックや対案を作成してほしい場合。

3 自分で契約書を把握するための準備

契約書が英語で作成されている場合、まずは自分自身で内容を理解する努力が必要です。弁護士との相談をスムーズにするためにも、以下のステップを推奨します。

(1)契約書を和訳する

契約書を一旦日本語に翻訳することで、内容の大まかな理解が進みます。

翻訳時にはオンラインツールを利用することもできますが、専門用語や契約特有の表現を誤訳しないよう注意が必要です。

可能であれば、弁護士が理解しやすいように該当箇所にコメントを加えると効果的です。

(2)疑問点や不明点を明確にする

 契約書を読んで分からない箇所を付箋やメモで整理し、具体的な質問としてまとめておきます。

「どこが分からないか」
を明確化するだけでも、弁護士との打ち合わせが効率的に進みます。

4 相談の準備を整える

契約書の整理が済んだら、弁護士に相談する前に以下を準備しておきましょう。

(1)契約書の全体像

契約書の目的や主な取引内容を簡単にまとめます。

「何のための契約か」
が弁護士に伝わることで、より的確なアドバイスを得られます。

(2)気になる条項の整理

自分で把握した上で、特にリスクが懸念される部分や、不明瞭な条項をリストアップしておきます。

(3)具体的な依頼内容を明示

「代読」
「確認」
「リスク・アセスメント」
など、自分の目的に応じた依頼内容を具体的に弁護士に伝えることが大切です。

<例>
・「契約書全体像」として「この契約は○○を購入するためのもので、取引金額は〇〇円」といった基本的な概要を書きます。
•「気になる条項の整理」として、「第5条の納期遅延に関する違約金が不明確に感じられるので、この条項を確認したい」とリスト化する。

まとめ

契約書の相談準備では、契約書をまず自分でどれだけ理解できたかを確認し、その上で
「相談の目的」

「気になるポイント」
を整理することが重要です。

特に英語の契約書の場合、和訳から始めて、少しずつ
「ミエル化」
させることが相談を成功させる第一歩です。

以上は、英文契約書だけでなく、日本語の契約書について、相談するときにも当てはまることは、いうまでもありません。

弁護士とのやりとりを効率的に進めるために、具体的な要望を整理してから臨みましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02096_弁護士を味方にした経営者の成功事例:大株主との交渉を制す秘訣

ある経営者が、法的には
「ひよこ同然」
の状態から、戦い方をしっかり見据え、交渉に臨んだ結果、大株主との交渉を制し、見事に簿価での株式買取を達成しました。

この成功は、相手方との良好な関係を築きながらも、 株式売買契約書へのサインまで結んだという点で、大きな意味を持っています。

鍵となったのは、
「安易に妥協しない」
「時間を味方につける」
「徹底した冷戦状態を維持する」
という戦略的アプローチでした。

この対応が、最終的に相手の妥協を引き出したのです。

一般的に
「大株主と泣く子と地頭には勝てない」
と言われる社会の鉄則を、この経営者は見事に覆しました。

それは、経営者自身の意思と闘志、そして弁護士による厳しい指導(助言)を忍耐強く受け入れたからです。

このような努力と精神力があったからこそ、この成果が生まれたのです。

しかし、これで終わりではありません。

経営者として、事業を安定させるためのさらなる努力が求められます。

そして、段階が変われば、また新たな
「常識では判断できない事象」
に直面するでしょう。

そのときにも、迷わず弁護士に相談することが大切です。

特に、事前に時間に余裕をもって相談することを強くお勧めします。

余裕のある状況では、選択肢が広がり、より効果的なコンサルティングが可能になります。

当然ながら、法的課題やリスクがあれば相談するでしょうが、問題がない場合でも(弁護士と会話する機会を持ち続け、そして)話す価値は十分にあります。

弁護士は、経営者には見えていない課題を発見する力を持っています。

課題の発見こそが、リスク管理において最も重要なステップなのです。

経営を成功に導き安定させていくためには、課題の
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化・フォーマル化」
が重要です。

時間を味方につけ、前もって準備を整えることは、その秘訣です。

経営者にとって、弁護士は重要なパートナーです。

ぜひ、できる弁護士との関係を信頼し、どんな時も相談できる体制を整えてください。

それが事業の安定と発展を支える最大の武器となるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02095_当局対応の基本:勝つための心構えと戦略

当局対応において、物証がない限り、自白はしないことが基本中の基本です。

焦って自白してしまうと、相手の思うツボにハマり、逆に不利な状況を招くことになります。

ここでは、
「当局対応」
の基本的な心構えや戦略について具体的に説明します。

これは、あの手、この手、奥の手を駆使し、時には禁じ手や小技、さらには寝技や反則技まで視野に入れる必要がある、いわば知恵比べの場での鉄則ともいえます。

1  相手のギブアップを見逃さない

「説明しろ」
「報告しろ」
「自白しろ」
と当局が求めてくる場合、それは一種のギブアップのサインです。

「調べきれなかった」
「証拠を見つけられなかった」
という無力感が透けて見えます。

このような場面で、自ら不戦敗を宣言してしまうのは、人としては誠実ですが、戦略的には大きな誤りです。

相手が明らかに追い詰められているのに、自分から手を引く必要はありません。むしろ、ここで突っ張ることこそが戦いの基本です。

2  辻褄合わせよりも、あくまで突っ張る

「論理的に説明しないと納得してもらえない」
と考えるのは子供の世界です。

大人の世界では、辻褄が合わなくても、ひたすら突っ張ることが重要です。

たとえ相手が
「おかしい」
と指摘してきても、堂々と
「弁解しっぱなし」
の姿勢を貫くことが必要です。

例えば、
「確かに今見ると間違っています。でも、ありうるミスですよね。これは事件としての過失ではなく、人として生きていれば当然起こりうる、誰にも責任を帰することができない事故です」

こうした言い方で、あくまで
「事故」
であることを強調することがポイントです。

3  嘘は禁物。ただし、方便としてのストーリー作りは必須

嘘をつくことは避けるべきですが、それと同時に、当局や裁判所が納得できる
「ストーリー」
を構築することは重要です。

ここでいう
「ストーリー」
とは、客観証拠に基づき、起承転結の流れがあり、わかりやすく説得力のある話を作ることです。

たとえそれが厳密に真実そのものではなくても、裁判所や相手方に
「納得」
してもらえることが優先されます。

実際、政府や裁判所ですら、こうした方便のストーリーを日常的に用いています。

つまり、自分が同じことをするのは決して特別なことではありません。

4 裁判は真実を追求する場ではない

裁判という場は、真実を発見するための手続きではありません。

裁判所にとって
「心地よいストーリー」
を選ぶためのプロセスです。

原告も被告も、それぞれが自分に都合の良いストーリーを作り、それをプレゼンし、裁判官に気に入られることを目指します。

このため、どちらのストーリーも必ずしも真実そのものではありませんが、誰もその点を問題視しません。

重要なのは、いかに相手よりも魅力的なストーリーを提示できるかです。

5 戦略的な姿勢を忘れない

当局対応においては、相手がどのような意図で動いているのかを的確に見極め、自分の立場を強化するための行動を取ることが肝要です。

嘘はつかないが、時には方便のストーリーを作り、あの手、この手を駆使する。そして、相手がギブアップしていると判断したときには、断固として突っ張る。

このように、戦略的な視点を持つことで、不戦敗を避け、自分の権利を守ることが可能になります。

まとめ

当局対応は、
「相手の動きに翻弄されない」
「自ら不利な情報を渡さない」
という基本的な心構えがすべてです。

真実や正直さだけではなく、
「ミエル化」
「カタチ化」
「言語化」
「文書化」
「フォーマル化」
といった形で、自分の主張を効果的に伝えるスキルが必要です。

そして、最終的には、あの手、この手、奥の手、禁じ手、小技、寝技、反則技を駆使して、勝利を目指すのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

02094_事実経緯の整理が「攻守の土台」を作る

事実経緯を整理する作業は、感情を抜きにして冷静に行う必要があります。

これは、今後の
「攻撃」

「防御」
のすべての基盤となる重要なステップだからです。

まず、事実経緯をまとめる際に重視するポイントは次のとおりです。

1 登場人物を網羅的にリストアップ

最初に、事件や問題に関係する
「登場人物」
をすべて挙げてください。

相手方だけでなく、間接的に関与している可能性がある関係者も含めます。

名前や立場だけでなく、勤務先や住所などの具体的な情報をできる限り記載してください。

住所が不明であれば勤務先でも構いません。

例:

・相手方A氏:〇〇株式会社勤務、トラブルの当事者
・B氏(第三者):A氏の同僚で、問題発生時に同席
・C氏(証人):トラブル発生時の立ち会い人

このように、できるだけ網羅的にリストを作ることで、物事の背景が明確になります。

2 事実経緯を時系列で詳細に記載

次に、この状態に至るまでの
「経緯」
を細かく、時系列で書いてください。

重要なのは
「細かければ細かいほど良い」
という点です。

日付や時間、場所、発言、行動などを可能な限り具体的に書き出しましょう。

この作業は、言わば、ストーリー作りをするための
「素材集め」
のようなものです。

完成されたストーリーを作る必要はありません。

「これは大したことではない」
と思うような些細な事柄も、意外な形で役立つことがあります。

例:

2024年10月5日:A氏と〇〇カフェで会い、初めて会話する
2024年11月10日:A氏から「△△」という発言があり、気になる内容だった
2024年12月15日:A氏が突然、□□を主張し始める

3 客観的事実に徹する

事実を書く際は、極力
「客観的事実」
だけを記載してください。

病気に例えるならば、医師が
「病名はいいから症状だけ教えて」
と言うようなものです。

感情的な表現や、評価・印象に基づいた記述は避けることが大切です。

ただし、主観的な内容をどうしても書く必要がある場合は、その根拠を示すようにしましょう。

例:

主観的表現の例:「A氏は私に悪意を抱いていると思われる」
その根拠:「なぜなら、〇月〇日のメールにて『△△』と記載されており、また□□の場で直接『××』と言われたからである」

このように根拠をセットにすることで、後に相手方から反論された際に説得力が増します。

4 この整理の目的を意識する

事実経緯を記載する目的は、次の2つです。

・今後のストーリー作りに必要な「材料」を揃える
・相手からの攻撃に対する「反論材料」を準備する

この目的を念頭に置いておくと、必要な事柄の優先順位が明確になります。

弁護士は、そのままこれを出すような愚かなことは勿論しません。

「有利な事実は大きい声で言い、
不利な事実は黙ってスルー、
美しい誤解はそのままに」
ということです。

美しい誤解や曖昧な部分を残しておくことで、後の交渉に活かせる場合もあります。

5 まとめ:冷静に取り組むことの重要性

嫌な記憶や苦しい出来事を振り返る作業は精神的に負担がかかることもあります。

しかし、この
「事実経緯の整理」
は、今後の戦略を立てる上で避けては通れないプロセスです。

冷静に、かつ丁寧に取り組むことで、
「あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技」
といった多様な戦術を組み立てる土台が整います。

このプロセスが、攻撃・防御のすべての起点となります。

焦らず、少しずつ整理を進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所