02095_当局対応の基本:勝つための心構えと戦略

当局対応において、物証がない限り、自白はしないことが基本中の基本です。

焦って自白してしまうと、相手の思うツボにハマり、逆に不利な状況を招くことになります。

ここでは、
「当局対応」
の基本的な心構えや戦略について具体的に説明します。

これは、あの手、この手、奥の手を駆使し、時には禁じ手や小技、さらには寝技や反則技まで視野に入れる必要がある、いわば知恵比べの場での鉄則ともいえます。

1  相手のギブアップを見逃さない

「説明しろ」
「報告しろ」
「自白しろ」
と当局が求めてくる場合、それは一種のギブアップのサインです。

「調べきれなかった」
「証拠を見つけられなかった」
という無力感が透けて見えます。

このような場面で、自ら不戦敗を宣言してしまうのは、人としては誠実ですが、戦略的には大きな誤りです。

相手が明らかに追い詰められているのに、自分から手を引く必要はありません。むしろ、ここで突っ張ることこそが戦いの基本です。

2  辻褄合わせよりも、あくまで突っ張る

「論理的に説明しないと納得してもらえない」
と考えるのは子供の世界です。

大人の世界では、辻褄が合わなくても、ひたすら突っ張ることが重要です。

たとえ相手が
「おかしい」
と指摘してきても、堂々と
「弁解しっぱなし」
の姿勢を貫くことが必要です。

例えば、
「確かに今見ると間違っています。でも、ありうるミスですよね。これは事件としての過失ではなく、人として生きていれば当然起こりうる、誰にも責任を帰することができない事故です」

こうした言い方で、あくまで
「事故」
であることを強調することがポイントです。

3  嘘は禁物。ただし、方便としてのストーリー作りは必須

嘘をつくことは避けるべきですが、それと同時に、当局や裁判所が納得できる
「ストーリー」
を構築することは重要です。

ここでいう
「ストーリー」
とは、客観証拠に基づき、起承転結の流れがあり、わかりやすく説得力のある話を作ることです。

たとえそれが厳密に真実そのものではなくても、裁判所や相手方に
「納得」
してもらえることが優先されます。

実際、政府や裁判所ですら、こうした方便のストーリーを日常的に用いています。

つまり、自分が同じことをするのは決して特別なことではありません。

4 裁判は真実を追求する場ではない

裁判という場は、真実を発見するための手続きではありません。

裁判所にとって
「心地よいストーリー」
を選ぶためのプロセスです。

原告も被告も、それぞれが自分に都合の良いストーリーを作り、それをプレゼンし、裁判官に気に入られることを目指します。

このため、どちらのストーリーも必ずしも真実そのものではありませんが、誰もその点を問題視しません。

重要なのは、いかに相手よりも魅力的なストーリーを提示できるかです。

5 戦略的な姿勢を忘れない

当局対応においては、相手がどのような意図で動いているのかを的確に見極め、自分の立場を強化するための行動を取ることが肝要です。

嘘はつかないが、時には方便のストーリーを作り、あの手、この手を駆使する。そして、相手がギブアップしていると判断したときには、断固として突っ張る。

このように、戦略的な視点を持つことで、不戦敗を避け、自分の権利を守ることが可能になります。

まとめ

当局対応は、
「相手の動きに翻弄されない」
「自ら不利な情報を渡さない」
という基本的な心構えがすべてです。

真実や正直さだけではなく、
「ミエル化」
「カタチ化」
「言語化」
「文書化」
「フォーマル化」
といった形で、自分の主張を効果的に伝えるスキルが必要です。

そして、最終的には、あの手、この手、奥の手、禁じ手、小技、寝技、反則技を駆使して、勝利を目指すのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02094_事実経緯の整理が「攻守の土台」を作る

事実経緯を整理する作業は、感情を抜きにして冷静に行う必要があります。

これは、今後の
「攻撃」

「防御」
のすべての基盤となる重要なステップだからです。

まず、事実経緯をまとめる際に重視するポイントは次のとおりです。

1 登場人物を網羅的にリストアップ

最初に、事件や問題に関係する
「登場人物」
をすべて挙げてください。

相手方だけでなく、間接的に関与している可能性がある関係者も含めます。

名前や立場だけでなく、勤務先や住所などの具体的な情報をできる限り記載してください。

住所が不明であれば勤務先でも構いません。

例:

・相手方A氏:〇〇株式会社勤務、トラブルの当事者
・B氏(第三者):A氏の同僚で、問題発生時に同席
・C氏(証人):トラブル発生時の立ち会い人

このように、できるだけ網羅的にリストを作ることで、物事の背景が明確になります。

2 事実経緯を時系列で詳細に記載

次に、この状態に至るまでの
「経緯」
を細かく、時系列で書いてください。

重要なのは
「細かければ細かいほど良い」
という点です。

日付や時間、場所、発言、行動などを可能な限り具体的に書き出しましょう。

この作業は、言わば、ストーリー作りをするための
「素材集め」
のようなものです。

完成されたストーリーを作る必要はありません。

「これは大したことではない」
と思うような些細な事柄も、意外な形で役立つことがあります。

例:

2024年10月5日:A氏と〇〇カフェで会い、初めて会話する
2024年11月10日:A氏から「△△」という発言があり、気になる内容だった
2024年12月15日:A氏が突然、□□を主張し始める

3 客観的事実に徹する

事実を書く際は、極力
「客観的事実」
だけを記載してください。

病気に例えるならば、医師が
「病名はいいから症状だけ教えて」
と言うようなものです。

感情的な表現や、評価・印象に基づいた記述は避けることが大切です。

ただし、主観的な内容をどうしても書く必要がある場合は、その根拠を示すようにしましょう。

例:

主観的表現の例:「A氏は私に悪意を抱いていると思われる」
その根拠:「なぜなら、〇月〇日のメールにて『△△』と記載されており、また□□の場で直接『××』と言われたからである」

このように根拠をセットにすることで、後に相手方から反論された際に説得力が増します。

4 この整理の目的を意識する

事実経緯を記載する目的は、次の2つです。

・今後のストーリー作りに必要な「材料」を揃える
・相手からの攻撃に対する「反論材料」を準備する

この目的を念頭に置いておくと、必要な事柄の優先順位が明確になります。

弁護士は、そのままこれを出すような愚かなことは勿論しません。

「有利な事実は大きい声で言い、
不利な事実は黙ってスルー、
美しい誤解はそのままに」
ということです。

美しい誤解や曖昧な部分を残しておくことで、後の交渉に活かせる場合もあります。

5 まとめ:冷静に取り組むことの重要性

嫌な記憶や苦しい出来事を振り返る作業は精神的に負担がかかることもあります。

しかし、この
「事実経緯の整理」
は、今後の戦略を立てる上で避けては通れないプロセスです。

冷静に、かつ丁寧に取り組むことで、
「あの手、この手、奥の手、禁じ手、寝技、小技、反則技」
といった多様な戦術を組み立てる土台が整います。

このプロセスが、攻撃・防御のすべての起点となります。

焦らず、少しずつ整理を進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02093_相手方に有利な契約書を見直す! 修正依頼のポイントと注意点

契約書確認や修正を依頼する際には、ビジネスの意図を明確にし、それを契約内容に正しく反映させることが重要です。

実際、漠然とした依頼をする方がいらっしゃいます。

漠然とした依頼の例

「ビジネスの概要としては、A研究所と業務提携契約を結び、基本的に、研究成果は相手方に、ビジネスはこちらが受け取る」
1 相手方から送られてきた契約書を読んで、内容を理解してほしい
2 ビジネスの概要と契約書に整合しない点があれば指摘してほしい
3 契約書に不利な条項があれば指摘してほしい
4 契約書をこちらの意図を反映した形に修正してほしい

無料相談でできることの限界

このような依頼に対しては、無料相談でできるコメントの範囲は限られています。

次のようなコメントにとどまる場合があります。

「契約書を読む限り、『ビジネスはこちらが受け取る』という形にはなっていません。
文書で煙に巻く表現が使われており、最終的に得をするのは相手方です。
このままでは、依頼者にとって不利な契約となる可能性が高いです」

このように、契約書内容が依頼者の意図と異なる場合には、全面的な見直しが必要になります。

契約書修正には、次のようなステップを踏むことが求められます。

契約書修正におけるステップ

1  現状の契約書の問題点を明確にする

依頼者が意図する
「ビジネスはこちらが受け取る」
という内容が、契約書に正しく反映されていない場合、契約内容全体の見直しが必要です。

相手方が作成した契約書は、通常、相手方に有利な条件となっています。

そのため、表現に潜む不利な点を洗い出すことが最初のステップです。

2 法務対応の予算を確認する

契約書修正には、時に
「フルリフォーム」(完全改訂)
が必要になります。

そのため、依頼者がどの程度の法務予算を確保できるか、事前に明確にしておく必要があります。

予算が決まったら、弁護士の関与範囲や優先順位を具体的に設定し、効率的な対応が可能になります。

3 修正に向けたプロセスを進める

契約書修正には、依頼者の意図を具体化する作業が必要となります。

その際、
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化」
のプロセスを活用して、契約内容を明確に調整していきます。

契約書対応をスムーズに進めるためのアドバイス

① ビジネスの意図を明確にする

依頼者が考える
「ビジネスはこちらが受け取る」
という意図を、具体的な契約条項に落とし込む必要があります。

以下のようなポイントを事前に整理しておくと、対応がスムーズに進むでしょう。

・ビジネスの権利を取得する条件とは何か?
・研究とビジネスの権利をどのように選択するか?
・契約解除や成果未達成時の対応はどうなのか?

② 法務対応の予算を事前に確認する

契約書の内容によっては、大幅な修正が必要になる場合があります。

そのため、法務予算を事前に確保しておくことが重要です。

・どの範囲まで修正するのか?
・修正の優先順位をどう設定するか?

③ 契約書リスクポイントを洗い出す

弁護士に依頼する際は、リスクを重点的に確認してもらいましょう。

たとえば注意すべきポイントとして、次のような条項が挙げられます。

・一方的に契約解除を可能にする条項が含まれていないか?
・紛争時、管轄地が相手の地域に限定されていないか?
・過剰に過酷なスケジュールや義務が課されていないか?

④ 修正の具体的な要望を提案する

弁護士に修正を依頼する際には、どの条項を追加・削除・変更したいのか、具体的な希望を明確に伝えることが重要です。

依頼者の意図が共有されていれば、修正作業もスムーズに進みます。

まとめ

契約書対応は、依頼者のビジネスの意図を
「ミエル化・カタチ化・言語化・文書化する」
重要なプロセスです。

相手方が作成した契約書が、依頼者にとって不利な条件を含む場合、全面的な見直しが必要になります。

そのため、依頼者自身が自分の意図や優先事項を整理した上で、弁護士や専門家と協議することが求められます。

契約書の修正は、改訂文書の整備ではなく、ビジネスの方向性を決定する重要なプロセスです。

依頼者が主体的に動き、有利な契約内容を作り上げる努力を惜しまないことが、成功への鍵となります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02092_企業法務ケーススタディ:電話での問い合わせに潜む「有事」のサインと対応策

【事例/質問】

電話で問い合わせがあり、その内容が会社の製品や商品の使い方などの単純なものではなく、答えにくい質問だった場合、弁護士に相談したらどのようなアドバイスが受けられるのでしょうか?

【鐵丸先生の回答/コメント/アドバイス/指南】

答えにくい質問がなされた場合、それは単純な問い合わせではなく「有事」と認識すべきです。

このような場合、弁護士はその事態を
「事件」
として扱い、解決に向けた助言を行います。

基本方針:「有事」の際のルールを徹底する

「有事の際は筆談で対応する」
というルールを確立し、徹底してください。

また、
「相手の要求を満たし、非建設的な方向で打ち返す」
という姿勢が重要です。

そうすることで、不用意に情報を提供して会社が不利な立場に立たされることを防げます。

対応の一例として、次のような文書の打ち返しが推奨されます。

「何か伝えたいことがある場合は、文書で具体的に質問してください。
質問を受け付けた場合でも、回答する義務がない場合もあります。
そのため、回答するかどうかは確証できませんが、いただいた文書については閲読し、検討することをお約束いたします」

このように、交渉を文書化することで、相手の主張内容を
「ミエル化・現実化・言語化・文書化・形式化」
することができます。

後々のトラブルを防ぐための記録として活用できるのです。

具体的な対応方法の選択肢

「有事」
への対応には、コストのかけ方に応じた2つの選択肢があります。

(1)コストをかけない場合

会社内で文書を作成し、それについて弁護士が助言する方法です。

顧問弁護士がいる場合、顧問料の範囲内で処理できるケースが多いですね。

(2)コストをかけてもいい場合

弁護士を代理人として委任し、対応窓口を弁護士に一任する方法です。

この場合、弁護士が会社を代理して対応全般を行います。

事件の規模にもよりますが、顧問割引を適用しても、着手金だけで数十万円以上が必要になる場合があります。

まとめ

突然の問い合わせに対しては、慎重な対応が求められます。

まずは
「有事は筆談で」
という基本方針を徹底し、相手とのやりとりを記録に残すことが重要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02091_裁判は「ストーリー」の競い合い

裁判について、私はクライアントに次のようにお話をします。

裁判の本質:真実ではないストーリー

裁判は
「真実を発見する手続き」
ではありません。

判決は、原告・被告それぞれのストーリーを聞き、どちらのストーリーが
「聞いて心地よいか」
を判断して選ぶ場です。

これは、事実に基づいた冷静な判断というより、裁判官の感覚に響くストーリーを競い合うプレゼンテーションのようなものです。

原告・勝手が語るストーリーとは別に、裁判が独自にストーリーを描くこともあります。

いずれのストーリーも真実とは程遠いが、そのことは誰も気にしません。

裁判のストーリー

このため、重要なのは、
「当方がどんなストーリーを書いたか」
や、
「相手方がどんなストーリーを書いたか」
ではなく、
「裁判所がどのようなストーリーを描いているか」
を捉えることが最重要課題となります。

裁判が描こうとするストーリーは、判決になるまで明確には示されないことがほとんどです。

ただし、裁判の進行中に裁判官の質問や発言から、その意図が垣間見えることがあります。

進行中の段階で意図をはっきり示す裁判官もあれば、終始ポーカーフェイスを貫く裁判官もいます。

この見極めが大切です。

裁判の進め方と対応

まず、
「あまりに事実と異なるストーリーには根本的に納得できない」
という姿勢を示し、
「裁判所はどのような印象をお持ちでしょうか」
と投げかけることで、裁判官の反応を探ります。

この反応次第で、次回以降の戦略を具体化していきます。

ここで注意すべきは、裁判での
「ストーリー」
の意味です。

裁判における「ストーリー」の本質

裁判で語られる
「ストーリー」
は、事実とは異なります。

社会一般では、事実(客観証拠)を元に筋道を立てたストーリーを作ることはよくあります。

政府の公式発表やテレビや新聞での報道にストーリー性があるように、裁判でもそれと似た状況が展開します。

裁判では、
「明らかな嘘をついてはいけない」
というルールがありますが、客観的な証拠に反しない範囲で、巧妙に構築されたストーリーを語ることが許されています。

ただし、原告と被告はそれぞれの利益を守るため、
「客観証拠に反しない限りでのウソ」
もとい
「ストーリー」
を語り、競い合います。

裁判官はこの状況をニコニコと聞き分け、どちらのストーリーを採用するか判断します。

このため、裁判における
「ストーリー」
とは、
「客観証拠に反しない範囲のウソ」
と表現することもできるのです。

裁判で勝つためのポイント

裁判で勝つためには、裁判官が描こうとするストーリーを見極め、それに対応した戦略立案が必要であり、柔軟な手法が求められる、ということです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02090_企業法務ケーススタディ:国際取引トラブルの効果的な対応法:まずは自国での提訴を検討

<事例/質問>

海外取引で揉めています。

顧問弁護士に任せていたら、訴訟地が相手企業の国と考えているようで、心配になってきました。

この方針は、妥当なものなのでしょうか? 

何となく、素人的にアウェイ感が漂うのですが・・・。

進め方での問題があるとすれば、どういう点が考えられるでしょうか?

また、勝率を高めるためには、何をすべきでしょうか?

<鐵丸先生の回答/コメント/アドバイス/指南>

1 まず、国際訴訟では、自国で戦うことを第一に検討すべきです。
これは、基本中の基本です。
アウェーからやってきた訴状は無視し、こちらから訴える場合は、自国で訴え、相手先に訴状を届けるのが、常道です。
ですから、訴訟を提起するとすれば、自国で訴えて、相手を引きずり出すでしょうね。
国際試合で、試合場所の好みを聞かれて、
「じゃあ、アウェーで」
と言う選手はいません。
それと同じです。

2 「理屈と膏薬はどこにでもつく」
ということわざがあります。
相手が責任を認めていない状況であれば、不毛な言い争いが長引く可能性があります。
ところで、お尋ねしますが、
「相手企業に提起する、ということは、御社としては、意味があるプロジェクトだと決断をくだした、ということなのでしょうか?」
これは、ビジネスとしては、とても大切なことです。

3-(1)そもそも、法律というもの自体、サイエンスではなく、イデオロギーです。
イデオロギーの運用を巡る因縁の付け合いのような泥仕合で、勝「率」といった定量的な表現はなじまないと思いますが、それでも、
「勝率を高めるためには」
という質問に答えるならば、裁判官に媚びへつらうことです。
媚びへつらうといっても、札束を与えたり、土下座したり、芸をしたりするわけではありません。
裁判官の好む事実と論理を披瀝し、その指揮に従うことです。
あるいは、媚びへつらいが通用する裁判官なり裁判所をゲーム環境として選択する、ということです。
その意味でも、自国での提訴を再検討されることをお勧めします。

3-(2)ご参考までに、国際管轄が曖昧なケースでも、下記判例のとおり、管轄が認められる場合もあるようです。
=====
【事件番号】東京高等裁判所判決/平成18年(ネ)第906号
【判決日付】平成18年10月24日
【判示事項】韓国法人が日本人に対し日本での子会社の設立を委任したが中途で委任契約を解除したことにより1か月分の報酬相当額を賠償すべきであるとされた事例
【掲載誌】 判例タイムズ1243号131頁
【評釈論文】ジュリスト1384号158頁
      税務事例40巻9号66頁
=====

結論をいえば、自分たちでコントロールできないことをアレコレ考えるのは、時間の無駄ですので、得策ではありません。

自分たちだけで確実にコントロールできることに還元して、
・選択肢の抽出
・プロコン分析
を行ったうえで、判断をくだすのがよいでしょう。

依頼していただければ、当事務所でも受任は検討します。

とはいえ、すでに他の弁護士が関与しているようですので、積極的に依頼されない限り、これ以上、詳細に踏み込んだ助言は控えます。

ご参考までに下記をご一読ください。

00930_企業法務ケーススタディ(No.0250):海外で訴えられた! その1  外国から訴状送達された場合の対応法

00931_企業法務ケーススタディ(No.0251):海外で訴えられた! その2 懲罰的損害賠償の敗訴判決など放っておけ

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02089_企業法務ケーススタディ:脱税と向き合う_税務署からの通知無視の代償_経営者の判断力が試される

<事例/質問>

あるプロジェクトをすすめていました。

私は経営者ですが、別途プロジェクトオーナーがいます。

さて、税務署から
「お尋ね」

「確認のための通知」
が届きました。

このことを、プロジェクトオーナーに相談すべきか、あるいは、顧問弁護士に相談すべきか、悩んでいるうちに時間が経ち、結果的に、税務署からの通知を無視し続けることになりました。

すると、ある日突然、税務署の査察調査を受けることになりました。

その後、調査結果通知書が届きましたが、今度は、資金繰りで悩み、修正申告を先延ばしにしているうちに、税務署から告発通知書が届きました。

どうやら、私は脱税したとして国税局に告発され、事件が刑事事件として捜査機関に引き継がれたようです。

これにより、捜査機関から取り調べを受けることになりそうです。

私は、顧問弁護士にもこのことを言わずに、知り合いから紹介された別の弁護士に助けを求めました。

でも、やはり、どうにもならなくて、元の顧問弁護士に、依頼しなおそうかと思います。

<鐵丸先生の回答/コメント/アドバイス/指南>

脱税したとして、当局からの査察が入ったという
「事件」
そのものは、ひとつの大きなリスクです。

さらに重要なのは、
「事件後の対応」
で判断を誤ることがリスクです。

この2つのリスクを理解した上で、どのように対処するか、よく考える必要があります。

たとえば、リスクの1つとして、次のような分岐例があります。

================

どのような態度で査察対応し、どのような調書に署名をするか?

================

(1)従順対応説
なんでも言うことを聞いて、やってもいないことを
「やった」
と認めたり、あるいは指南役に唆されたにもかかわらず、すべて自分の意思で行ったことにして、調書に署名する方法。
この方法では、一時的に波風を立てずに済む可能性がありますが、不利な調書が後々利用され、結果的に現状を悪化させるリスクがあります。

(2)正直対応説
やったことは認めるが、やっていないことについては毅然と否定する方法。
不当な虚偽事実の署名を強制されたら、抵抗することによって、告発を見送り、あるいは告発されても、起訴・不起訴で戦える環境を作った方がいい、という方法。
短期的には困難を伴うかもしれませんが、長期的には争える環境を整えることができます。

弁護士としては、
「(2)正直対応説」
を推奨します。

この分岐点で、
「(2)正直対応説」
をプロジェクトオーナーに示唆し、プロジェクトオーナーに判断の前提を整え、プロコン分析を提供し、しっかりとしたジャッジをしてもらうことが、経営者のプロとして正しい姿かと思います。

そして、この分析を支援し、判断の前提を整えるのが弁護士の役割でもあります。

仮に、
「(1)従順対応説」
のみしか提供せずに、あたかも、それが唯一かつ最善の方法であるかのように評価する弁護士がいるとしたら、それは
「ろくでもない弁護士」
と言わざるを得ません。

最後に、このような出来事に対処する上で、重要なポイントを挙げておきます。

(A) 状況に変化があれば、「必ず相談する」という約束を守ること
状況は刻一刻と変わります。
そのたびに信頼できる弁護士に相談することが大切です。
自分だけで判断し行動するのは、リスクを高める原因となります。
信頼できる弁護士とのコミュニケーションが鍵となります。

(B) 顧問弁護士との長期多岐な信頼関係を維持すること
本来信頼すべき弁護士に事実を隠し、別の弁護士に相談する行動は、事態を複雑化させ、最適な判断を妨げる原因になります。
依頼し直すことを検討しているのであれば、最初から率直に相談しておくほうが、スムーズかつ適切な対応が可能だったはずです。

専門家との連携を密にしながら、ご自身のすすむべき道を考え、選択してください。

それが、経営者のプロとしての姿勢です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02088_企業法務ケーススタディ:英文契約書チェック:重要な2つのレベル

<事例/質問>

英文契約書に関してアドバイスをください。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

英文契約の場合、
1 言葉が通じないケース
2 話が通じないケース、
3 言葉も通じてないし、話も通じてないケース
が考えられます。

特に、中小企業には、3のケースが圧倒的に多いです。

ということで、前提ですが、

レベル1:言葉が通じているか、の問題

ア)契約書を、御社の誰かが、責任をもって、読んで、理解している。
イ)契約書が送られてきたが、誰も契約書を読んでいないし、今後もきちんと読むつもりはない(画像認識はしても、字義や意味をしっかり認識する、という作業は放棄する)

のいずれでしょうか?

レベル2:話が通じているか、の問題

A)(こちらとして思い描いている)ビジネスモデル・取引条件が明確に認識され、理解されている
B)(こちらとして思い描いている)ビジネスモデル・取引条件は曖昧な状態であり、あるいは共有・理解に至っている。むしろ、相手から出てきたものをみて、こちらとしての取引条件を考えていく。

契約書のチェックやアドバイスとは、
「レベル1のア)」

「レベル2のA)」
を前提として、その齟齬を認識・把握した上で、こちらの思い描くビジネスモデルを契約書に反映させることを言います。

もし、
「レベル1がイ)」
で、
「レベル2がB)」
ということであれば、まずは、和訳して、相手が何を言っているかを把握することが重要な前提です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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02087_企業法務ケーススタディ:根拠なき批判への法的対応:事実確認と証拠の重要性

<事例/質問>

先日掲載されたWEB記事において、弊社製品に対して根拠なく批判的なコメントが掲載されました。

大手量販店の販売員を名乗る人物がインタビューに答える形で、弊社製品品質について、事実無根の批判を展開しています。

記事はWEBサイトの掲載のみならず、雑誌紙面においても同様の記載があるようです。

弊社としては、
・ 出版社に対して、今後このような記事を載せないように牽制したい
・(可能であれば)謝罪等を引き出し、それを対外的に(卸・販売店・消費者に対して)公表できるようにしたい
・  WEBサイト等で、記事に抗議/否定するコメントを掲載し、そのコメントを卸・販売店にも通達したい
と考えています。

これについて、法務的観点でどのように対処すべきでしょうか。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

「弊社製品に対して根拠なく批判的なコメントが掲載されました。」
についてですが、
この
「根拠なく」
という点は正しいのでしょうか?

たとえば、
「畑中鐵丸は山口組の司忍の息子である」
「畑中鐵丸の母は、金正日の元愛人である」
「畑中鐵丸は、強盗と放火の前科がある」
いずれも、事実無根ですので、徹底的に争うことは可能です。

ですが、
「畑中鐵丸はスケベである」
「畑中鐵丸は下品である」
「畑中鐵丸はテニスが下手である」
「畑中鐵丸は嫌われ者である」
といった話ですと、身に覚えがなくはない話であり、
「事実無根だ!」
と争っても、逆に、事実に根拠があることが示されてしまいます。

この種の問題解決の起点となるのは、書かれたことがムカつくかどうか、ではなく、事実です。

それと、争いになった場合、事実には証拠が必要です。

言い争いにおいて、証拠のない主張は、寝言ですから。

以上を前提に、打ち合わせの時間を取りましょうか。

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02086_契約書確認の「緊急対応」が生むリスクと課題

契約書確認は、ビジネスの現場で頻繁に求められる業務です。

しかし、時には驚くほどのスピード感を持って対応を求められることがあります。

この
「緊急対応」
には、実は見えないリスクや課題があります。

緊急契約書確認で起きるリスクや課題

1 表現やロジックの不備がある

クライアントから示される契約書は、表現が不明確でロジックに欠陥や不備があるケースが、多く見受けられます。

2 新規作成に近い作業負担

そのため、
「言いたいことは分かるが、それを明確に表現するには相当行間を埋めなければならない」
という状況となります。
結果として、事実上の新規作成扱いとなり、当事務所指定のタイムチャージやドキュメンテーションチャージ(ラッシュチャージ込み)を頂戴することになります。

3 情報不足を補うための補完

意図や目的や背景についてしっかりとしたカウンセリングを前提としたものではないため、現時点での極めて曖昧で不明箇所の多い前提意図を、弁護士側が忖度し、推測や想像力で補完することとなります。

「リスクを極力抑制しながらクライアントの意図に沿ったもの」
を提供することが求められる弁護士側は、時間とリソースを大きく費消することとなります(他の業務は後回しになります)。

4 現場での修正が前提となる

以上のような状況で作成された契約書(事実上の新規作成扱いとなる)は、当然のことながら、クライアントの現実的なビジネスゴールや、相手方との交渉関係まで把握できるものではなく、実際の使用にあたっては、現場の責任者の適宜の修正等を前提とするものとなります(言わずもがなですが、クライアントには、最初に了解を得ます)。

契約書を「正しく使う責任」

弁護士が作成する契約書は、依頼時点での条件や背景に最適化された
「逸品」
です。

以下は実際に起きた事件です。

あるクライアントが、過去に、特定の状況と特定のゴールにのみ最適化されたものとして当方より提供した契約書を、当方に了解なく、新しい事案において書式として援用し、しかも、全く違った状況や全く違ったゴールであるにもかかわらず、援用した担当者において、所要の修正を図らずそのまま流用しました。

結果、契約相手から
「これを作った法律家はビジネスを知らない。こんな一方的な契約書は、この取引に見合っていない」
と、言われたクライアント(オーナー経営者)からクレームが当方に寄せられる、という事態となりました。

契約書は「ビジネスを守る盾」

契約書は単なる法律に基づく文書ではなく、
「クライアントの意図や目的や背景についてしっかりとしたカウンセリングを前提」
とし、 意図を言語化し、リスクを排除しつつ、目的を達成するために作られた
「盾(特定の状況と特定のゴールにのみ最適化されたもの)」
です。

ビジネスを大きく実現している経営者は、契約書確認に関わるプロセスにおいて、弁護士に時間的な余裕を与え、
「盾(特定の状況と特定のゴールにのみ最適化されたもの)」
を効果的に活用しています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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