00542_仮処分利用のポイントと注意点

辞めた役員が、起業し、持ち出した顧客リストを利用して、競業を始めた場合を例にとって民事保全処分の具体的利用方法を考えてみます。

普通に、上記のようなトラブルに遭遇すれば、
「競業してはならない」
とか
「持ち出した顧客名簿を使うな」
等を求める裁判を提起することが考えられますが(そもそもそういう権利があるのかという問題については一応おくとしておきます)、1年とか1年半かかってようやく勝訴してもその間に競業を始めた相手方にバンバン金儲けされたのでは話になりません。

そういうときのために、正式裁判(専門用語では、「本案訴訟」といいます)の前に、暫定的に
「正式裁判がもうすぐ出て、そちらの行為は禁止されるわけになるのはほぼ確実だから、火事場泥棒のような真似は許されないし、とりあえず、違法行為を辞めなさい」
という仮処分という手続があります。

これは、
「債権者(被害企業)の言い分が正しいかどうかわからないけど、とりあえず、一応の言い分らしきもの(疎明といいます)があれば、裁判が確定するまでの間債権者の言い分どおりのことを債務者(競業を始めた相手方)に仮に命じておいてあげましょう」
という趣旨の手続です。

この手続の利用については、いくつか知っておくべきポイントがあります。

この手続は、建前上は、仮処分は暫定的な手続であるので速攻で判断してくれるということになっていますが、これをそのまま額面どおり受け取ると、エライ目にあいます。

実際は仮処分のうち審尋を経るもの(債務者からも言い分を聞く手続で、審尋事件などといいます。上記仮処分はこれにあたります)は、正式裁判並にタラタラ進むものもあったりします。

ただ、この審尋事件の場合、双方の言い分を聞く中で、裁判所が和解の音頭を取ってくれることもあるので、早期に和解が見込めるような事件の場合、いい結果が得られる場合があります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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