00876_M&Aの基本3:失敗例がことのほか多いM&Aの実体

企業がM&A話をもちかけられている場合、高値づかみして大損しないか、警戒する必要があります。

M&A(合併・買収)が、失敗例が相当数あることはあまり知られていません。

正確な調査をしたわけではありませんが、私の感覚では
「M&Aの失敗例は、芸能人の離婚率とだいたい同じ比率なのではないか(おそらく90%近くが失敗)」
と思います。

ちなみに、日経新聞(2011年4月28日朝刊)によると、世界の歴代金額上位2件は、いずれも買収成立から数年以内に数兆円単位の損失が生じている、とのことです。

また、同記事によると、特に、加工型製造業やサービス業といった川下産業の大型M&Aは、 川上産業に比べて買収後の経営統合作業が複雑になる面があり、失敗する場合が多いそうです。

「カネをもっている」
というのは資本主義社会のプレーヤーとしては最大の強みです。

したがって、買い物というのは、基本的に買い手側が圧倒的に有利なはずです。

なぜなら、さんざん情報をもらって、いろいろ話を聞いて、冷やかして、冷やかして、冷やかしまくった挙げ句、
「やっぱ、や~んぺ」
といってケツをまくる自由と権利を持っているからです。

他方で、買ってくれるかわからない売り手としては、あまり多くの買い手に粉をかけていると、本命の買い手にそっぽを向かれる可能性もあるし、どうしても腰が低くなってしまう。

M&Aにおける企業というのは、どんなに売り手であるオーナーの思い入れがあろうが、ただの買い物の商品であり、
「お金を生み出すマシーン」
であり、一種の金融商品であり、いってみれば通貨のようなものです。

どえらいシナジーが見込めるような場合を除き、金融商品や外国通貨のようなものであると考えると、買い手のスタンスは、投資家のスタンスと同じで、どんなに魅力的であっても、冷静に安くなるまで待ち、安くなってから買い、高ければ無視するという戦略を墨守すれば損したり、失敗したりしないはずです。

また、売る側は売り急ぐ理由はあっても、買う側は買わない自由や買う決定を先延ばす権利があるわけですから、時間的冗長性を確保でき、この点でも圧倒的なアドバンテージがあり、損する理由が見当たりません。

しかしながら、M&Aの場合、なぜか、買い手は焦らされます。

これは一品物、なかなか出ない売り物、これを逃すと買収機会はなくなる、同業者や競合も狙ってる、という有害なバイアスが巻き散らされますが、これに汚染され、時間的冗長性を放棄させられ、勝手に焦り、勝手にパニックになり、経済合理性を喪失し、意地商いをおっぱじめ、絶対的に有利な交渉上の立場を放擲して、アホみたいな会社を、アホみたいな高値で、アホみたいに買って、投資回収もできず、最後に安値で手放したり、挙げ句の果に、連結対象となった子会社がダラダラ損失を出し続けてバランスシートを痛め続けるという憂き目をみたりします。

もちろん、例外的に、上手いこと、安値で買い叩き、早々に投資回収を終え、その後、チャリンチャリンとしこたま儲ける企業もいるにはいます。

ただ、前記のような、残念な失敗をしでかす企業が多いことも事実であり、もしM&Aで買う側に立つなら、愚者の列、敗者の列に加わらないよう、注意と警戒を怠るべきではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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