00878_M&Aの基本5:M&Aを成功させるために必要なスキル(2)PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業

M&Aの成功のためには、

1 「現実的な投資回収シナリオが機能する適正な買収予算」と「予算内の買収を実現するためのハードな交渉」、
2 PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業、
3 全体的な戦略の合理性、

のすべてが必要です。

しかし、これらはいずれも日本企業の“不得意中の不得意項目”といえます。

2 PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業

M&Aを買い物になぞらえて説明できますが、
「人生におけるそこそこ重要な決断で、かつ決断し、セレモニー自体も大変だが、むしろ、セレモニーを行った後の話の方がより重要かつ大変」
という意味において、状況が近似する、
「結婚」
になぞらえて、その難しさや、失敗の根源的原因を探っていきます。

M&Aという結婚自体もそこそこ大変で厄介で苦労続きで面倒です。

散々苦労して取引にこぎつけたのだから、もうこれで、バラ色の未来が描けるだろう、というのが、まあ、普通のM&Aの買い手の認識です。

ところが、結婚もそうですが、結婚するまでに、いろいろな障害や苦労や、あるいは結婚相手に群がる競争相手との競争に競り勝った困難を乗り越えて、さんざん時間とエネルギーを費消したから、といって、そのような
「結婚に至る苦労の大きさ」

「結婚後の生活が楽しく、愉快で、幸せになる」
ということを保障する、というものでもありません。

ちなみに、2013年のデータですが、日本における一般の夫婦の離婚率は31%、とのことです。

これは、恋愛破綻率ではありません。

結婚がぶっ壊れる確率です。

結婚を決めて、結婚式を挙げて、入籍に至るまで、相当な時間とエネルギーとコストを費やしたはずです。

その、膨大な時間とエネルギーとコストの結晶としてのつながりが、3割も解消される、ということです。

離婚に至らないまでも、
「仮面夫婦」
などのような離婚に近い状態の破綻夫婦が、膨大な
「暗数」
として存在する、ということも考えれば、これはこれで、衝撃的な話です。

まあ、一般の方の婚姻となると、気持や感情も入りますし、
「ソロバン勘定」
だけで計算づくでやるわけでもなく、また、
「ビビっと来たので、すべてをなげうって、出会って間もない、素性も不明な相手の胸に飛び込む」
などという合理的に考えて高度の蓋然性を以って破綻が見込まれるリスキーな関係構築もあるわけですから、仕方がない、とも考えらます。

ですが、
「経済合理的な頭脳を有する企業経営者が、プロや優秀な部下を交えながら、純ビジネス的な判断として、熟考の末、行ったM&A」
は、流石に、そんなことはないだろう、と思い、これまた統計データを確認してみました。

同じく2013年に大手監査法人のトーマツが調べたデータによると、M&Aの成功基準達成企業は、全体の36%に過ぎず、M&Aを行った企業のうち、実に、64%もの企業が、やってみたM&Aは失敗、
「やらなきゃよかった」
と考えている、ということが判明しました。

「仮面夫婦」
のように、
「本当は、大失敗しているのだけれども、『このM&A、よかった、成功した、うまく言っている』と強弁している、実体はM&A大失敗企業」

「暗数」
として相当数存在していると思われる、という経験上の事実も併せ考えると、まあ、M&Aは、ほとんどのプロジェクトが失敗に終わる運命にある、ということがいえるほどです。

そういう
「仮面夫婦のような形で、破綻状態で存続するM&A」
という代物ですが、1つには、見栄っ張りで意固地なオーナー経営者が暴走して推進させたM&Aなどにおいて、
「素直に、潔く負けと失敗を認めることができず、損切りするタイミングを逸し、傷口を広げ、あるいは泥沼化する」
という事例です。

もう1つは、例えば、上場企業などにおいては、下手に、自分たち経営陣が自信満々に進めたM&Aが失敗して大コケしたことを、あっさり認めると、株主総会で突き上げを食らったり、最悪、代表訴訟を提起され、自分の立場が危うくなるというケースです。

さらに、先代経営者や先輩・OB経営者が主導したM&Aで、失敗してゾンビ状態になっているものを、失敗したとして終わらせると、どのように文句を言われるかもしれないので、怖くて失敗宣言して清算・撤退できずにずるずる発酵(というか腐敗)させたままにしているケースもあるでしょう。

そんなこともあって、
「夫婦仲が冷えきっても、見栄や沽券や意地や世間体のため、努力によって維持継続する結婚生活」
を続ける夫婦のように、
「論理的に正しくない選択をしてしまったあと、選んだ選択肢を正解にする努力」
というものを尽くして、M&A失敗の表面化を先送りする企業も相当数存在すると思われます。

よく、芸能人が、出会ってまもなく結婚に至る、という例をみかけることがあります。

いわゆるスピード婚といわれるものです。

中には、すでに妊娠しており、早く結婚しないとお腹から出てきた子供の立場が不安定になる、という切羽詰まった状況で結婚を決定し、公表する、ということもあるようです。

企業のM&Aでいえば、M&Aの交渉前に、経営統合が現場レベルではじまって、ジョイント・ベンチャーの子会社までできて、今更、知らん顔もできない、という趣の状況です。

中には、特段、結婚前の妊娠とか、そういう差し迫った事情が見受けられないにもかかわらず、電撃婚、スピード婚に至るような例も見受けられます。

企業のM&Aでいいますと、守秘義務契約を取り交わし、お互い裸になった付き合いが始まってから、デューデリ(買収前監査)をほとんど時間をかけず形骸化したまま進めていき、値段交渉や買収後の取り決めもおざなりにして、一気呵成にM&Aを完遂する、という趣のものです。

電撃婚であれ、スピード婚であれ、ビビっと婚であれ、そういう迅速果断な結婚を行った芸能人が、レポーターから経緯や動機を尋ねられると、
「会った瞬間、ビビッときた」
「すぐにわかった、この人しかいない、と」
という直感なり霊感を重要な根拠として挙げることが多いようです。

しかし、その後、だいたい3年くらいしてからひっそりと離婚する、という例も多いようであり、
「直感とかインスピレーションとかってのもあまりアテにならない」
という例も少なくないようです。

企業も同様で、
「現実や打算や計算を抜きに、天啓や霊感や神のお告げだけでM&Aを猛スピードで敢行するような会社」
で、投資回収がうまくいき、しびれるくらい儲かっている、といったところはあまりないようで、たいていは、
「やんなきゃよかった」
「なんで、こんな企業買ったんだろ」
と後悔することの方が多いようです。

考えてみればそうかもしれません。

俳優の高島政伸氏がいい例です。

高島氏は、あるタレントの方と、交際まもなく、
「この人しかいない、とすぐわかった」
とかなんとかいう直感だか霊感だかにしたがって、スピード結婚しましたが、その後、すぐに離婚したくなってしまいました。

ところが、相手が離婚に応じてくれず、膨大な時間とコストとエネルギーを費やし、ワイドショーでいじられまくられる、“離婚トラブル”に見舞われた、とのことです。

「結婚は自由だが、離婚は不自由」
という私が作った格言がありますが、高島氏は、これをまさしく地で行くような地獄の経験をなさいました。

やってみるとわかりますが、結婚なんて、実はそんなに難しくありません。

結婚式とか披露宴とか二次会とかって、別に法律上必要なわけではありません。双方が合意し、役場に届け出さえすれば、結婚なんて非常に簡単にできちゃいます。

逆に、結婚式とか披露宴とか二次会とか盛大にやって、その後、ヨーロッパに新婚旅行に出かけ、帰国後、婚姻届け出を出す段取りで、新婚旅行中に仲違いして
「別れる」
という話に至った場合、たとえ、結婚式や披露宴とか二次会とかが終わり、カタコト日本語を話す外国人神父の前で永遠の愛を近い、バッカ高い指輪を交換したとしても、
「この結婚式を挙げたカップル」
は法律上は結婚していないので
「アカの他人」同士
です。

「別れる」
「別れない」
といっても、
「離婚」
という話ではなく、もともと無関係のものを、無関係のままとするだけです。

厳密にいえば、婚約不履行の問題にはなり得ますが、まあ、カネの清算の問題であり、身分関係は
「無関係の男女」
のままであり、清算も解消も何も必要ありません。

このように、結婚は、本当にあっさり、というかサックリというか、驚くほど簡単にできます。

結婚は、結婚することそのものより、結婚した後が大変なのです。

したがって、
「結婚するかしないか」
「いつ、誰と、どのような生活設計を想定して結婚するか」
という問題は、もっと、冷静に考えるべきなのです。

この観点からすると、
「ビビっと来たので、すべてをなげうって、出会って間もない、素性も不明な相手の胸に飛び込む」
なんてことをいきなりやるのは、無謀でリスキーで半端なくヤッヴァい行動といえます。

無論、企業間の結婚(ないし養子縁組)であるM&Aも同様です。

統合後、投資回収が成功するまでの苦労や困難、あるいは出口戦略を描かず、うまく行かなかった場合の想定(ストレステスト)を行わず、
「妄想満載のバラ色の未来」
だけを身勝手に思い描きつつ、無警戒に、入り口に飛び込んで、うまくいくはずなどありません。

まず、M&Aを行うほとんどの企業は、当該買収対象企業を、
「買った後どうやって使うべきか」
についてあまり考えていません(出口戦略・シナジーシナリオの不在)。

結婚生活になぞらえると、結婚生活について現実的な生活設計がないまま、若気と霊感の赴くまま、ノリで結婚に突入する、という趣向に近似する傾向です。

あと、企業の立ち上げから現在まで全ての歴史や詳細を把握しているわけではなく、また、企業のすべてを知っているわけでもなく、
「企業独自のルールややり方や“黒歴史”や裏マニュアルや密約やヤヴァイ機密」
などはそもそも文書化・記録化すらされておらず知りようもなく、M&Aの後で、各種瑕疵や想定外に見舞われる、ということも、M&A買い手企業がPMIに失敗する理由として挙げられます。

結婚生活になぞらえると、
言えない過去がある、
多額の借金がある、
実は年齢や身長や体重を誤魔化していた、
重い病気がある、
潔癖症過ぎて共同生活無理、
子ども大嫌いで生むのヤダ・育てるのマジ勘弁とか考えておりすでに家庭設計において致命的な意見の隔たりが内在していた、
などによる結婚生活の破綻です。

そして、このようなことをあまり突き詰めて考えないまま、霊感と神のお告げにしたがい、ノリと勢いでM&Aに突入するものですから、買った後経営統合が出来ない(結婚生活になぞらえると、性格の不一致、方向性が違う、夫婦喧嘩が絶えない、イヤな面が見えてきてしまい生理的に無理といった、結婚当時とは真逆の見解が双方から表明されるなど)、という悲喜劇に見舞われるのです。

前述のとおり、戦後以来、離婚率がものすごい勢いで増加しています。

熟年離婚がテレビ等で取り沙汰されていますが、若い世代の離婚に比べれば、熟年離婚の数自体、必ずしもしびれるくらい多いとはいえないと思われます。

といいますのは、離婚には、相当エネルギーが必要で、年を取って、くたびれきっている世代には、過酷なプロジェクトとなるからです。

加えて、離婚をすると、家計単位が分割されるので、経済的には両者にとってマイナスになります。

2人で暮らしていれば、1つで足りていたテレビやクーラーや冷蔵庫やアパートが2つ必要になる、ということを考えれば明らかに想像できます。

しかも、熟年世代は、年金暮らしあるいは年金支給待機という方も多く、要するに、
「カネ」
がありませんので、不倶戴天の仇敵という関係でもない限り(そんな関係だったら、そもそも結婚したこと自体摩訶不思議というべきです)、理想的なシェア・エコノミーが成立し、効用面でメリットのある生活関係をわざわざ不合理かつ不経済に変更する必然性は乏しいはずです。

で、若い世代の離婚率が一貫して増加傾向にあることについてですが、この理由について、私は、
「特に、女性にとって、悪い方向での想定外が連続するから」
という状況によるもの、と推察します。

シンデレラというお話をご存じでしょうか? 

作者は、ウォルト・ディズニーというアメリカ人ではなく、グリム兄弟というドイツの童話作家です。

かいつまんで言うと、

・ボロを着て、カネも余裕もなく、炊事・洗濯・ムカつくガキの世話等、毎日毎日家事全般させられ、休む間もない赤貧生活をしていた不幸な女性が、
・やがて、悲惨な現実の世界」から「ロマン満ち溢れる世界」へ段階的に移行していき、
・最後は、壮大な結婚式を挙げ、皆の祝福を受け、幸せの頂点に到達する、

という話です。

ところが、日本の若い女性が体験する一般的な結婚生活というのは、この
「シンデレラ・ストーリー」
の、見事なまでの逆回転バージョンです。

すなわち、

・出会ってまもなく、壮大な結婚式を挙げ、皆の祝福を受け、幸せの頂点に到達した女性が、
・やがて、「ロマン満ち溢れる世界」から「悲惨な現実の世界」へ段階的に移行していき、
・何年か後には、ボロを着て、カネも余裕もなく、炊事・洗濯・ムカつくガキの世話等、毎日毎日家事全般させられ、休む間もない赤貧生活に陥る

という、悪い意味での想定外の連続のストーリーを経験します。

こういうことがあると、離婚したくなるのも、うなずけます。

M&Aも、同様の傾向にあります。

M&Aという取引が成立する時点においては、あらゆる不愉快な想定が度外視され、
「この取引が成立しさえすれば、バラ色の未来が訪れる」
というロマンと希望とファンタジーに満ちた想定を関係者全員共有し、取引実現というその瞬間だけを目指して、そこに、カネと労力とすべての勢力を注ぐ熱狂が先行します。

しかしながら、M&A取引が成立し、熱狂が過ぎ去り、
「宴の後」
となった時点以降のプランやシナリオは、なんとなくおざなりになっています。

一応、その種の計画は想定されてはいるものの、華々しい、夢のようなシナジーシナリオを描き、熱狂して神輿を担ぎ、横で声援を送り、脇で踊り狂っていたM&A支援プロフェッショナルは、祭りが終わるといなくなって(別の祭りに行っている)、残ったのは、
「M&A当時は素晴らしく魅力的にみえたものの、よくみりゃ、たいしたことのない、あるいは、お荷物として足を引っ張るしか能が無い、どうしょうもないガラクタ企業」
という状況だったりします。

結婚はともかく、M&Aについては、あまりアホな失敗が続くと、企業そのものが傾きます。

ノリや熱狂も大事ですが、そんなことより、M&Aが終わった後、その後、長く、長く、長~く続く、投資回収までの道のりを、どういう現実的な方法で達成していくのか、ということを、ドライに、クールに、スマートに考えるべきといえます。

ただ、M&Aが下手くそな企業の幹部のメンタリティーは、
「将来的な生活設計も乏しいままノリとアツさだけで結婚に突進した挙句、神の速さで破綻する若いカップル」
のそれとあんまし変わらないせいか、前記のようなドライかつクールでスマートな思考を完全に欠如しているがゆえに、失敗し、失敗し、失敗しまくるのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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