01990_「常識」対「非常識」の戦い_その3

訴訟事というものは、いわば、常識と非常識の戦いです。

たとえば、交わした契約について、更新のたびに、少しずつ書きぶりが変化し、数年たつと大きく変容していた、ということは、ままあります。

弁護士の視点では、相談してきたA氏の状況は、契約の条件交渉でもなく、金額の交渉でもなく、敗戦交渉事案です。

A氏は、ここでまた、
「常識」
と戦うことになります。

「敗戦交渉するのは、単に、武装解除して、白旗上げて、手を上げれば、それで、最低限の尊厳は確保される」
というのは、思い込みです。

負けを悟って降伏した相手を、人間として尊重し、敬意をもって処遇したのは、日露戦争の日本軍か、第二次世界大戦の英米の軍隊くらいで、強盗・レイプ集団と化した、ソ連の満州侵攻や、会津戦争の薩摩兵の狼藉ぶりの方がデフォルトイメージです。

「優位に立った非常識は、常識に遠慮するどころか、ますます図に乗り、のさばり、全てを奪っていく」
という可能性・危険性は、こういう歴史的事象から推察される真実を前提としています。

敗戦交渉するなら、最後まで抵抗する姿勢をみせ、
「いざとなったらいくらでも抵抗し、辟易させる」
と武威を示しつつ、ナメられないようにして、勝ち取るべきものです。

相手の要求したものを差し出せば、それで相手が笑って許してくれる、というものではありません。

「無駄な悪あがきをせず、コスパ重視・自尊心無視で、とっとと相手にひれ伏す」
という一方の極論と、
「たとえ、無駄とわかっても、コストをかけ、時間労力を投入し、徹底して相手にとって面倒で付加のかかる抵抗を続ける」
という他方の極論があり、その間に、
「どっちつかずの中間解がいくつか存在する」
というのが現実です。

A氏が、まずすべきことは、発想を転換すること(マインドシフトをすること)なのです。

・「常識」に囚われずに、「非常識」な事態や相手を理解・想像する
・法という「非常識」にしたがった準備を、してこなかった者は、徹底して煮え湯を飲まされる、という認識にたつ
・訴訟事において、正解はない

これら発想の転換より、
・何か、直面した課題を魔法のように消し去ってくれる、過去の過ちをすべてなかったことにしてくれる弁護士は、存在しない
という認識にたつことが先決やもしれません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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