02081_企業法務ケーススタディ:期限を盾にした交渉術の本質を見抜く

<事例/質問>

ある企業と業務提携をすすめてきましたが、資金面等で話の食い違いが生じ、紆余曲折の末、契約を解除することにしました。

仲介をしたコンサルタントが出向き、契約解除を目指し、交渉を行いました。

ところが、コンサルタントは、先方から以下のような質問を受けてきたうえに、
「先方は怒っている。先方の質問に答えることと、月曜までにカネを振り込めば、私が丸く収めましょう」
と、本社に連絡してきました。

この対応が本当に交渉に必要なのか、先生にご意見をいただきたいと考えています。

以下は、コンサルタントから提示された質問内容です。

1 ●●社に関して
・これまでの交渉の議事録
・問題対策の合意事項と課題
・こちらが示したM月末の契約解除の根拠

2 今後の●●社との交渉に向けて
・誰が事業責任者か
・誰が契約解除を条件にしたのか
・誰が交渉の期限を条件にしたのか
・誰の責任で何が交渉できるのか

以上の内容について、どう対応すべきか、アドバイスをお願いいたします。

<鐵丸先生の回答/コメント/助言/指南>

1 時間的冗長性の確保が最優先課題

コンサルタント氏の行動は、交渉でもビジネスでもなく、
「時間」
を人質にした対応です。

そして、当方を焦らせることによって、
「冷静に考え、対処する」
という機会を奪おうとしています。

人間も組織も、時間的冗長性を奪われ、冷静さを失われれば、一時的に、認知機能を喪失し、偏見が助長され、合理的で戦略的に対処する能力が低下します。

この状況は、
「オレオレ詐欺」
に見られる心理的な操作と本質的に同じです。

例えば、
「お母さん、息子さんが交通事故で人をはね、大変なことになっています。このままでは息子さんはエライことになります。いますぐ示談金を振り込めば何とかなるかもしれません。時間がないんです。月曜までなんです。早く早く」
という状況と酷似しています。

2 疑問点を整理する必要性

まず、以下の点について冷静に疑問を整理し、検討する必要があります。

・「月曜まで」の期限は絶対的なものなのか? 延長の可能性は?
・その期限が絶対で、最後の通告であれば、通常は書面で通告されるはずだが、その文書はあるのか?
・期限を徒過ないし遷延した場合のペナルティやリスクやダメージは、何なのか?

コンサルタント氏は、提示された条件や期限について、根拠とデータを明確に示すべき立場にあります。

そうすることで、当方としても適切な判断を下すための資料が整います。

3 具体的な対応方針

当方としては、詳細がわかるまで、指一本動かす必要はなく、
「期限の遷延や、応答の拒否が、具体的にどのようなメカニズムで、どのような具体的な厄災を招くのか、わかるように、根拠と資料を添えて、(あとからすっとぼけたり、弁解を変遷させないよう)文書で説明せよ。
要求に応じないと決定したわけではないし、詳細が判明し、メリットないしダメージの予防に効果的であれば、合理的な対応として、提案に応じる可能性はあるが、現時点では、說明があまりに不確定であやふやなので、暫時留保せざるを得ない」
と言えばいいだけです。

4 結論

先方の主張内容が明らかになってから、その急所となっているところを崩して窮地に追い込めば、こちらが優勢に立ちますが、先方の主張内容が明らかになっていない段階で、急所もわからず、闇雲に、先方に乗り込んで、探偵ごっこするのは、愚策です。

有限で貴重な資源動員のあり方として、賛成できません。

それよりも、まずは
「時間的冗長性」
を確保し、先方に主導権を渡さず、冷静に交渉を進めるべきです。

また、十分な情報を得るまで行動を起こさないという毅然とした態度で臨むべきです。

コンサルタント氏には、文書での説明を求め、交渉のペースをこちらに引き寄せることで、後々の言い逃れや主張の妥協を防ぐことができ、その後の展開を有利に進められるでしょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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