00018_企業法務ケーススタディ(No.0002):手形の知識もなく、安易に手形を取扱った場合に生じる大きなリスク

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
スーパーフリーダム社 社長 高田 馬場男(たかだ ばばお、23歳)

相談内容:
こんちわ。どうもっす。
オレ、今、学生なんすけど、イベント会社起業して、がんばってます。
親父の会社が先生の顧問先つうことで、紹介したもらったっす。
よろしっくっす。
以前、カネ貸してやったコンパニオン派遣会社の社長がカネ返さねえんで、ちょっと後輩連れてボコりにいったら、
「カネねえから代わりにこれで勘弁して」
って手形を出してきたんすよ。
なんかよくわかんないすけど、額面には1千万円って書いてあって、ま、貸したカネが500万円だったし、
「ラッキー。儲け」
って思って、巻き上げといたんすよ。
でも、これってよくわかんないじゃないすか。
オレ、文学部だし。
したら、この前クラブで開いたパーティーに来てた芸能事務所の社長ってゆうオッサンと意気投合して、手形のこと話したら、
「オレにまかせろ、こういのは裏書ってのをすんだよ。
あとは知り合いのヤクザに取り立てもらうから預けろ」
とか言われたんで、とりあえず言われるがままに手形の裏んとこに署名して、そのオッサンに預けて安心してたんすよ。
でも、オッサンから音沙汰ないしムカついてたら、昨日、突然、全然知らない会社の代理人だっていう弁護士から内容証明来て、
「振出人は倒産しているから、裏書人であるスーパーフリーダム社が額面のカネを払え。
払わなかったら、裁判起こす」
とか書いてあるんすよね。
オレもう、わけわかんなくて。
どうしたらいいんすか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:約束手形の裏書人が負担する過酷な責任
手形を譲り渡す場合、
「手形の裏書」
というものをしますが、手形の裏書人は、振出人の保証人と扱われます。
しかも、手形を誰かに裏書きして渡した場合、それが独り歩きして、当事者間のことを全く知らない(あるいは、知っていても知らないフリをする)第三者の手に渡った場合、その第三者には全く弁解をできない立場に追い込まれます。
このように、手形には、かなり特殊で、かつ効果が強烈なルールがあり、手形のことをよく知らない素人が安易に取り扱うとかなり痛い目に遭います。
もちろん、手形のことを勉強してもいいのですが、この
「手形法」
という代物、相当難解で、ちょっとやそっとで理解できるようなものではありません。
旧司法試験においては、商法の論文試験で毎年1問、手形法の問題が出されていましたが、理論的に難解で、何年勉強しても誤答してしまうリスクがつきまとう厄介なもので、受験生泣かせの科目でした。
そういうこともあってか、新司法試験においては、論文科目からは外されました。
そんないわくつきの法律科目です。
以上のとおり、手形法は、弁護士になるため相当勉強した人間ですら理解が困難であったり、ギブアップすることが予測されるため試験科目としても難解すぎるという理由で排除されるような高度な理論体系です。
一般の経営者が正しく理解して、きちんと取り扱うのはかなり難易度が高いもので、普通に考えれば、近づかないか、取扱うとしても、詳しい弁護士に聞いて慎重に取り扱うべきです。

モデル助言:
まさに生兵法は怪我のもとですね。
今回の件ですが、手形を請求してきた人間と自称芸能事務所社長とはグルの可能性がありますね。
当該社長を詐欺で刑事告訴しつつ、手形を請求してきた弁護士と平行して裁判外で話合いましょう。
騙したヤツが泣きを入れて解決することもありますから。
交渉が決裂したら、相手方は手形訴訟を起こしてきますが、手形の裁判では弁解がほとんど認められない形で判決が下され、即強制執行できる状態になります。
とはいえ、スーパーフリーダム社は即時強制執行されて困るような資産があるわけではないですし、異議申立し、持久戦に持ち込んで、相手の疲弊を誘って、粘り強く和解交渉を続けましょう。
今回、高田君が唯一幸運だったのは、高田君
「個人」
が裏書していなかったことですね。
スーパーフリーダム社なんて高田君個人の営業力と信用だけの会社で、法人自体に特別の価値があるわけではない。
最悪、スーパーフリーダム社については法人のみ破産させて、別の会社を設立して、新しく事業をはじめればいいじゃない。
ま、そのときは、ちゃんと弁護士をつけて今回みたいなトラブルにならないようにしないとね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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