00046_企業法務ケーススタディ(No.0012):はじめてのM&A、どうやって進めるべきか?

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社京葉土建 会長 浜田 幸二(はまだ こうじ、78歳)

相談内容:
ウチの会社は千葉ではまだいい客先つかんで、いまだに売上は伸びている。
いい土地も相当押さえているんで、含み資産も山ほどある。
でもよお、会社継がせようとして一生懸命商売教えてきた娘婿の野郎が他に女作ったばかりか、会社の金も横領してやがったから、告訴は先生にやってもらんだな。
もう後継者育てるのが疲れちまってよお。
海山証券の社長に相談したら、ブラザーだかなんだかっていう、やたらと長ったらしい名前の外資系で、ウチの会社買いたいなんて言っている連中を紹介してきた。
いい値段なら売る気はあるんで
「ワン・プリーズ(ひとつ、よろしく)」
って握手したら、この前、いきなり会社に会計士やら弁護士やらがやってきて、ジュースだかデラックスだか、その・・・、デューデリジェンスやりたいとかぬかして、帳簿見せろとか言い出した。
経理部長もボケてて、税務調査と間違えて
「ここには書類がありません」
とか半泣きしたので、連中も呆れて帰りやがった。
土建屋としてはソコソコやり手だが、何せ中卒だから、小難しいことはわからねえ。
ちっとそのあたり、わかりやすく教えてくんねえか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:デュー・ディリジェンスとは
M&Aというと、
「多額の資金を預かっているアタマの良さそうな方が、動きがトロくて脇の甘い大企業を敵対的に乗っ取る」
みたいなことを想像される方が多いのですが、実際は、本件のような後継者難になっている事業の承継や無秩序な多角経営を再編・統合するため、友好に会社の売買を行うというM&Aが圧倒的に多数を占めます。
M&Aといっても、その本質は売買取引で、売買の対象が、車や不動産ではなく、事業や会社に変化しただけです。
今回問題になっている
「デューディリジェンス」
ですが、浜田会長のような、M&Aど初心者の方でもわかるように、思いっきり会話の水準を下げて説明してみます。
M&Aを結婚になぞらえると、お嫁さんにもらう予定の女性(買収対象企業)が、健康体か、過去の妙な男性関係をひきずっていないか、変な感染症に罹患していないか等、円満な結婚生活にとって障害となるべき事項を調査することがデューディリジェンスに相当します。

モデル助言:
会長、生兵法は怪我のもとですから、何事もきちんと理解して進めてください。
今回の場合、御社は売手側ですので、価額面で折り合えば、買手に比して作業は少ないです。
ただ、買手が外資系企業だと、様々な契約条項を押しつける可能性がありますので、価額面で合意に至っても、契約設計で不利な立場に追い込められる可能性があるので安心しない方がいいでしょう。
また、当然ながら、相手のある話ですから、散々当社の中味を調査した挙げ句、破談する場合だってあります。
交渉するのであれば、破談という事態を常に想定や選択肢から外してはいけません。
特に、会長は、年取って気が短くなっていますので、粘りに負けないようにしましょう。
相手は御社保有不動産にうまみを感じており、是が非でもほしいはずですから、他の交渉相手の存在をちらつかせたり、破談をほのめかすブラフも有効です。
最後に、デューディリジェンスにより御社は丸裸にされて隅から隅まで内部情報を取得されるわけですから、きちんとした守秘義務契約をしてからじゃないと一切応じるべきではないです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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