00054_企業法務ケーススタディ(No.0016):安易な輸出ビジネスをすると、知らないうちに「安全保障上の脅威」に及んでしまい、逮捕されるリスクも生じる

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
コスゲ・インターナショナル社 副社長 ケイン・小菅(けいん こすげ、32歳)

相談内容:
鐵丸先生、アケマシテ、オメデトウゴザイマス。
日本にキテ13年にナリマスが、まだ、日本語、チョト、難しいネー。
近くのホテルで、賀詞交歓会がアリマシタので、チョト、新年のご挨拶方々、立ち寄らせていただきました。
景気も回復し、ウチの会社のメインビジネスの日本製品の輸出もグローイング・エン・グローイング。
ま、特に先生のお世話になることナイケド、近況を、チョト、お話ししますね。
私のダディの、CEO、シャッ長の、ジョー・小菅は、昨年からずーと中東なんすよ。
昔、ダディがロスで空手を教えていたころの教え子の中東の某国の留学生が、母国に帰って商売始めたんですよ。
なんか、日本製品をスゲー欲しがっていて、ちょうど、ウチの会社もインターナショナル・トレーディングやってるもんすから、トントン拍子に話が進んで、ま、今年の終わりにはウチのメジャー・カスタマーになりますよ。
ま、彼の母国は、今、チョト、
「テロ支援国家と関係あるんじゃないか」
なんて話題になっていますが、彼自身は、スゲーいいヤツですし、ノー・プロブレムですよ。
売ってくれって言っているのも、ゴルフクラブとか、シャンプーとか、自動車部品工作用機器とか、インスタントコーヒー製造用装置とかで、人殺せるようなものなんかないですし。
ま、そんな感じで、今年も、先生のお世話にならず、プリティ・クールな年になりそうデスヨ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:外為法による輸出管理規制の補足範囲の広汎さ
9.11のテロ以来、日本は、国際協調体制の中で大量破壊兵器の不拡散を行うべく、厳正な輸出管理規制を行っています。
しかも、最近の大量破壊兵器って、爆弾とか鉄砲とか見るからに物騒なものじゃなくて、民生品も使い方を変えれば簡単に細菌兵器とかに転用可能ということで、一見すると兵器とは無縁なフツーの民生品まで輸出規制品目として上げられています。
たとえば、カーボンシャフトのゴルフクラブですが、炭素繊維がミサイルの重要部品になるようで、インスタントコーヒーを作るためのフリーズドライ装置(冷凍凍結乾燥機)も細菌兵器を作ろうとする者にとっては喉から手が出るほどほしい装置だそうです。
あと、シャンプーに含まれているトリエタノールアミンなんて成分が化学兵器を作る上では重要なネタ成分になったり、自動車部品工作機械のうち特定の機械を使えば簡単にウラン濃縮ができたりするようです。
実際、国際法務体制が相当整備されているべきはずの大手メーカーが、
「農薬散布用のヘリコプターを、許可無しで、アメリカとか中国とか韓国とかの問題なさそうな国に輸出した」
との理由で、外為法違反に問われ、警察沙汰になったという話もありました。
いずれにせよ、新たに、国境を超えてモノを売るような場合、特に、欧米諸国ではなく、非欧米諸国への輸出を行う場合、民生品であっても、注意が必要です。
なお、この規制は外為法(外国為替及び外国貿易法)が根拠法令です。
外為法というと旧大蔵省や日銀とかが所管してそうなイメージがありますが、所管官庁は、財務省ではなく経済産業省ですので、問い合わせや規制状況を確認する際には間違えないようにしてください。

モデル助言:
新年早々、不愉快な助言をしてしまい、恐縮です。
今、確認したところによると、御社輸出品は、すべて許可品目ですし、仕向国が、
「かの有名なテロ支援の疑いのある、某国」
であるとすると、不許可になる可能性が高いですね。
取り急ぎ、経済産業省に早急にアポ入れをして事前相談に参りましょう。
それと、今後の状況によっては、輸出する予定で仕入れていた購入品の契約解除をしなければならない可能性があります。
「経済産業大臣の輸出許可が得られなかった場合には違約金なしで解除できる」
というような条項を仕入契約に入れておきましょう。
最終仕向国に目をつむったふりして、第三国経由にしたりとか、変な小細工は絶対しちゃダメですよ。
この問題では、すでに逮捕者が出ていますし、甘くみると、牢屋行きです。
ま、早く、発見できてよかった。
出だしでケチがついたので、今年は、いい年にならないかもしれませんが、気持ちを切り替えて、最悪の年にならないようにしましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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