00088_企業法務ケーススタディ(No.0042):事業承継の極意!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社菊王ラーメン 社長 林 菊雄(はやし きくお、69歳)

相談内容: 
先生、正直、もう疲れましたよ。
創業以来、40年、この菊王ラーメンの看板を背負って最前線でやってきましたが、もう限界です。
いえね、この間、高校の先輩で、大手寿司チェーン店
「ウタマロ寿司」
の創業者として有名な勝浦歌麿さんと飲みに行ったんですよ。
そしたら、歌麿先輩、
「オレ、去年引退しちゃったよ」
って言うんです。
なんでも、事業承継っていう方法があるらしく、歌麿先輩も、銀行のセミナー聴いて、
「いっちょやってみようか」
って気になったそうです。
歌麿先輩んとこのご長男さんは大手商社に入社して飲食事業を勉強された優秀な方で、争いもなく、すんなり承継ができたそうなんです。
ただ、先輩からは、
「オレんとこみたいに、ほとんどの株をオレが持ってて、後継者も長男に決まってて問題なさそうなところでも、税の問題やら特殊の株の発行やらで、結構時間がかかったよ。
菊ちゃんのところみたいに、後継者の長男さんが頼りなかったり、株を渡したまま喧嘩別れしちゃった弟さんなんかがいると、結構厄介だぜ」
なんて脅かされています。
先輩のおっしゃるとおり、バブル期には銀行出身の弟を専務にして株式公開を目指して頑張っていたのですが、その後株式公開の話が立ち消えになると、途端に弟と仲が悪くなり、彼が株をもったまま会社を辞めて以来険悪な仲です。
後を継がせようと考えている長男ですが、人望がなく、親子関係すら円満ではなく、後を譲った途端、私の面倒を見ずに好き勝手やりそうで、心配です。
どうやったら、うまく事業承継して、楽隠居できるんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:事業承継問題の本質
最近、事業承継がクローズアップされてきたのは、戦後創業された数多くの中小企業の後継問題が原因といわれています。
戦後、団塊の世代が多くの中小企業を創業しましたが、間もなくこの世代の経営者が大量かつ同時にリタイヤ期を迎えます。
大抵の中小企業の経営者は、後継のことを考えずに最後まで現場に踏みとどまって、がむしゃらに猛進されますが、いざ脳梗塞や心筋梗塞でブッ倒れたときや死んだときには、相続人や株主の利害対立が先鋭化し、求心力を失った会社組織が、無残に崩壊することになります。
また、事業承継をした途端、後継者が無謀な経営方針を取り始め、元オーナーの制止を聞かず暴走するケースもあります。
事業承継は、このようなドロドロとした人間ドラマに加え、税の問題、会社法の問題、相続の問題が複雑に絡むのです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:事業承継の極意
事業承継のポイントの1つめは、誰に承継させるかという問題です。
かつては、事業承継と言えば、身内に承継させるのが相場でしたが、最近では、番頭さん格の役員への承継(MBO)や、事業をそのまま第三者に譲り渡す(M&A)ことも検討されるようになってきました。
ポイントの2つめは、会社法の活用です。
近時大改正された会社法は、非常に使い勝手のいい事業承継のツールと言えます。
例えば、議決権制限株式、無議決権株式、黄金株を活用することにより、個々の承継ニーズに応じた企業オーナーシップをカスタムメイドで設計・運用できます。
ポイントの3つめは、税務課題と相続問題への配慮です。
事業承継で厄介なのは、当面の承継が効果的に抑止できたとしても、株式譲渡や特殊な株式発行に絡んで非常な税負担が発生したり、オーナーの死後に親族と後継者の間で
「血で血を洗う相続紛争」
が生じたりするので、注意が必要です。

モデル助言: 
まず、承継先を決める必要がありますね。
ご長男さんが経営者としての器量に欠けるとのことですが、そういうご長男に事業を承継させたところで、京都の某カバン屋さんのように、役職員が離反して大量に退職し、近隣で競業されたりして事業自体が一挙に崩壊することもあります。
お話ししましたように、有能なナンバー2の役員がいらっしゃれば、その方にMBOをする方法や、業界再編を睨んでいる同業者に事業ごと売却する方法も検討されてはいかがでしょうか。
それと、仮にご長男に継いでもらうにしろ、いきなりすべての株式を譲渡するとなると、譲渡益課税が発生しますし、ご長男に買い受けるに足る資金力も必要になります。
加えて、承継した途端、無謀な経営に走ることもあるとのことですので、遺贈の活用も踏まえた段階的な譲渡にするとか、黄金株(拒否権付株式)を手元に残しておく等の措置が必要でしょうね。
あと、会社法を活用して株式の種類をいじろうとしても、弟さんが反対するかもしれませんね。
仲直りが無理であれば、買い戻すか、増資をして弟さんの持ち株比率を下げるような小細工も必要になりますね。
時間がかかりますが、私が提携している会計事務所も交えて、じっくり進めていきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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