00125_企業法務ケーススタディ(No.0079):外国消費者のクレーム対応

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
エトセトラ株式会社 社長 大抜 由美(おおぬき ゆみ、35歳)

相談内容: 
近頃、わが社のアクセサリー
「アジアの純金」
がいい感じなんです。
わざと重くしてあって、ピッカピカの金メッキが純金よりも純金らしいですよ。
ま、お値段はお手頃ですが。
純和風のデザインが疲れたOLの癒しアイテムに大人気なんです。
その上わが社は、輸出や通販はやらず、純粋に国内向けのみの販売戦略をとってますが、それがかえって
「黄金の国ジパングを実際に訪れないと買えない」
って噂になって、最近は、直営店舗に外国人のお客様も増えてきました。
ところが、ひとつ困った問題が起きています。
P国から旅行で来た裕福なお客様が
「アジアの純金」

「愛人のプレゼント用」
にと30個まとめ買いしたんですが、後日、
「重すぎる割に鎖が貧弱で、買ったもののうち18個がすぐに鎖が切れて壊れてしまった。
プレゼントしたのに恥かいたぞ」
ってクレームがきたんです。
非常に繊細な商品なので、ちょっと手荒な扱いをしたら壊れてしまうのはしょっちゅうで、いちいち対応してたら会社がもちません。
売価が手頃なこともあり、わが社では
「ノークレーム・ノーリターン」
という内容で欠陥の責任(瑕疵担保責任)を一切負わない内容の約款をつけてます。
お客様には購入の際に詳しく説明して十分に納得していただいた上で、その場で欠陥がないことを確認してもらってます。
でも、そのお客様は、
「P国の消費者契約法によれば、相当な理由なしに業者の担保責任を排除する条項は無効である」
なんていって、わが社の約款など関係ない、と息巻いています。
裁判も辞さないなんて脅されてますが、おとなしく返品受けた方がいいんですかね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:売買契約の準拠法
場所や当事者などの要素に外国が絡む渉外的な法律関係には、
「どこの国の法律により規律されるのか」
という問題があり、規律する国の法律を
「準拠法」
と呼びます。
わが国の法の適用に関する通則法(通則法)7条によれば、私人同士の契約の成立や効力についての準拠法は、当事者が契約の際に合意した国の法律となります。
仮に契約の際に準拠法を決めなかった場合には、例えば通常の動産売買契約であれば売主側の国の法律が準拠法となります(通則法8条)。
今回の場合、売買契約の際に準拠法が決められていなかったようなので、売主側の国の法律、すなわち日本法が契約準拠法となるのが原則です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:新設された「消費者契約の特例」
ところが、平成19年1月から施行された通則法において、消費者と事業者の間の契約(消費者契約)について、消費者保護の観点から、
「消費者契約の特例」
が新設されました(通則法11条)。
これによると、契約の際に準拠法が決められていなかった場合には、消費者が常日頃生活している国(常居所地)の法律が準拠法となります。
また、準拠法が決められていた場合でも、消費者が、自分の常居所地の法律のうち特定の強行規定(契約当事者同士が適用しない旨を合意しても、強制的に適用されてしまう規定)も適用するよう求めた場合には、その規定が適用されることになっています。
ですから、事業者は、外国人のお客さんと契約の場合、十分注意をしないと、思わぬところで
「アウェーの法律」
に縛られることになります。
もっとも、
「消費者契約の特例」
にも例外があります。
消費者自らが事業者側の国に赴いて契約を締結した場合(「能動的消費者」と呼ばれます)、
「自ら進んで外国の事業者と取引したのだから保護してあげる必要はない」
とされ、適用がなくなるのです。
ただし、事業者が消費者に対し、当該消費者の常居所地で
「勧誘」
を行っていた場合には、
「消費者契約の特例」
が適用されるので注意してください。
この場合は、
「外国の事業者の勧誘に乗っかって取引をしてしまったのだから、保護してあげる必要がある」
というわけです。

モデル助言: 
今回は、P国人のお客さんが日本に出向いてアクセサリーを買って帰ったわけですから、能動的消費者に当たり、
「消費者契約の特例」
は適用されません。
従って、原則どおり日本法が契約準拠法となり、P国の消費者契約法の適用されませんので、問題ありませんね。
御社はウェブサイトで
「アジアの純金」
の宣伝をしているようですが、海外では具体的な販売に向けての電話やダイレクトメール等の個別的な勧誘は一切していないということなので、この程度であれば
「消費者契約の特例」
が適用される
「勧誘」
には当たりません。
それに、18個とはいえ、廉価なアクセサリーのために弁護士費用を使ってまで本気で訴訟を提起するということも考えられませんし、単なるブラフと見ていいでしょう。
とはいえ、それほど大きな額ではありませんし、せっかくいい評判を博している海外で悪い噂をたてられるリスクもありますから、ここから先の対応は御社の
「客商売」
としての経営判断の問題ともいえますね。
ま、
「訴訟となると、18名の愛人の方全員に出廷いただき、具体的な商品使用方法を証言いただくことになりますが・・・」
とか牽制して相手の戦意を喪失させつつ、特別の計らいとして
「最新製品を優待価格で提供する」
というあたりで事態を収束させるのが現実的なところでしょうね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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