00147_企業法務ケーススタディ(No.0102):個人株主叛乱のリスク

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
ダンディ株式会社 社長 伊達 ひろし(だて ひろし、60歳)

相談内容: 
先生もご存知のとおり、もともと薬品卸の当社は、10年前、男性用化粧品「ダンディクリーム」の販売で一世を風靡し、5年前には株式公開にも成功しました。
ところが、2年前に粉飾決算がバレてからというもの株価は下落する一方で、粉飾決算がバレる前には1500円を付けていた株価が、最近では300円を切る始末です。
それに、最近は「ダンディクリーム」も時代遅れみたいで全然売れないし。
それで、思い切って、業績の悪い化粧品部門を知人の会社に売却し、いっそのこと上場なんかもやめて本来の薬品卸に専念して地味に営業していこうと決心したわけです。
とはいっても、化粧品部門を売却するにも、株主総会開いたり何だか面倒くさい手続が必要みたいだし、こんなことやっている間にタイミングを逸しますよ。
先日、独立系ファンド・キッドブラザーズを経営する友人の柴田に相談したところ、柴田のファンドの協力で
「TOB(株式公開買い付け)やって株主数を減らしてから、化粧品部門を売却してしまえばいい。
その時点で残っている株主(TOBに応じなかった株主)から、株式を買い取れって請求されるかもしれないが、TOBの後上場廃止にしてしまえば、株式の客観的価値自体がわからなくなるから、適当に安い株価で買い取ればいい」
なんて言うんですよ。
確かに、反対する株主は少ないほうがいいし、それに安い株価で買い取れるなら万々歳ですけど、そんなにうまくいくもんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:反対株主の株式買い取り制度
会社法は、例えば取締役を選任する場合や新たに株式を発行する場合など、会社における基本的な事項を決めたり変更したりする場合には、一部の例外を除き、議決権の過半数をもって決することとしています(資本多数決の原則)。
もちろん、反対する株主であっても、一度、多数決が採られた以上、これに従わなければなりません。
しかしながら、
「常にかつ絶対的に多数決原理が優先され、反対株主(少数派株主)は、いついかなるときでもこれに従い続けなければならない」
というルールがまかり通れば、多数派が企業価値を下げるような不合理な多数決に及んだ場合、反対株主にとってあまりにも不当な結果を招来しかねません。
そこで、会社法は、株式の権利内容を変更したり、重要な事業を譲渡する場合など、株主権の変更や会社の重要事項の変更を伴う決議に反対する株主について、会社に対して自己の株式を
「公正な価格」
で買い取ることを請求できる権利を付与する旨の規定を設けています。
そして、このような株式買い取り請求があった場合、会社は反対株主と株式の買い取り価格に関する協議を行うこととなります。
しかしながら、反対株主側とすれば1円でも高く買い取って欲しいし、会社側とすればなるべく安く買い取りたいところであり、実際は、互いの利害が相反し、なかなか協議が進みません。
そこで、会社法は、30日以内に当該協議が整わない場合には、会社または反対株主からも申し立てにより、裁判所は、会社の資産内容、財務状況、収益力、将来の業績見通し、直近の株価などを総合的に考慮し、
「公正な価格」
を決定することとなります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:近年の個人株主の動向
これまで、設例のような投資ファンド主導による企業買収のケースにおいて、個人株主等の少数株主が、意に反して予想外に安い価格での株式売却を迫られ、泣き寝入りすることが多かったようです。
しかしながら、昨今では、個人株主がインターネットを通じて同じ立場の個人株主を探し出し、被害者の会を結成するなどして、会社側が提示した株式の買い取り価格に集団で反対を表明したり、場合によっては、前記のとおり、裁判所に対し、株価を決定する手続を申し立てたりするケースが出始めており(旧カネボウ株式買い取り価格決定事件、レックス・ホールディングス株式買い取り価格決定事件など) 、今後、このような傾向が顕著になることが予想されています。

モデル助言: 
御社の場合、TOB(株式公開買い付け)によって株主数を減らしてから化粧部門を売却し、反対する個人株主は、上場廃止後、雀の涙ほどの価格で追い出そうという魂胆のようですね。
そのようなスクイーズアウト策が簡単に実施できたのは、数年前の話で、現在では、しぶとく残っていた株主が、化粧部門売却の際に株式買い取りを請求し、買い取り価格を巡って徹底抗戦してくるリスクを無視できません。
その際、提示した株価が不当に安い場合には、反対株主の申し立てを受けた裁判所がダンディ株式会社の資産内容や将来の業績見通しなんかを高く評価してしまい、予想以上の高い株価を決定してしまう場合もありますので、このあたりのリスクを検証しておく必要がありますね。
というより、そんなに化粧部門の売却を実施したいのであれば、株主をバカにしたような小手先の技巧に走らず、正々堂々と株主の理解を得て、適正な価格と適正な方法で公正に事業譲渡していくべきじゃないでしょうか。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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