00169_企業法務ケーススタディ(No.0124):データベースをパクられた!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社みきみき 代表取締役 藤本 正司(ふじもと しょうじ、35歳)

相談内容: 
先生~、ひどいんですよ。
ほら、俺、結婚したてじゃん? 嫁さんに格好つけたくってさ、最近結構仕事頑張ってんのよ。
仕事? あれだよ、
「車のデータベース」事業。
車って毎年のようにモデルが変わるし、マイナーチェンジも多いじゃん。
ずっと前から、年式や車種から、排気量や走行距離、装備、車の色、外見なんかをサクッと検索できるようなデータベースがあったら便利だろうな、と考えて作ったやつだよ。
今じゃ、普通に中古車販売店なんかはさ、俺の作ったデータベースを利用して、瞬時に客の要望に応えられる仕組みを整えちゃったりして、結構世の中に役立ってんだよね。
相談は、俺のデータベースを導入していないくせに、そっくりなものを使ってる会社が存在するってことさ! もちろん
「どこから導入した?」
って問い詰めたよ。
で、データベースの提供元を探り当てて、やめるようにっていったのに、あいつら・・・。
あいつら、
「誰でも思いつくようなデータベースじゃないですか。
お前には何の権利もねぇよ。
こんなものパクってなにが悪いんすか?」
みたいな開き直りしやがって。
凄まじいまでの単純作業を経て作り上げたデータベース、俺の筋肉のようにビルドアップしたってのに、先生、俺には本当に何の権利もないってのかい? 助けてくれよ。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:データベースの著作物
「情報」
を法的に保護するのが知的財産法といわれる一連の分野です。
今回まず問題になるのは
「著作権法」
であり、その中で、データベースは
「データベースの著作物」
として保護されると規定されています。
しかし、著作権法は、
「創作的表現」
を保護するものであり、すべてのデータベースが平等に保護されるわけではありません。
同法によれば、
「データベースでその情報の選択又は体系的な構成によって創作性を有するもの」
のみが保護されるとされています(同法12条の2)。
条文の文言から明らかなように、
「情報の選択」

「体系的な構成」
に独自の表現が存在することが、著作権法上保護されるための要件となっているわけです。
もう少し砕いていえば、たとえば、車に関するデータベースを考えてみると、
「実際に乗ってみた場合の主観的な乗り心地」
とか
「購入者の職業・家族構成」
のように、車に関するデータとして通常収集される年式・車種等を超えて独自性が認められる指標が存在する場合には、
「情報の選択」
に創作性が存在すると判断される余地があります。
また、
「ある車を検索すると似たフォルムの車が、お勧めとして自動でツリーのように表示される機能」
があったりすると、検索の利便性を独自に高度化しているために、
「体系的な構成」
に創作性が存在するとして、
「データベースの著作物」
と認められる可能性もあるものと考えられます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:額に汗の法理
ところが、著作権法は、上記のようにあくまでも
「創作的な表現」
を保護するものであり、人の努力の程度によって保護する、保護しないを決するわけではありません。
すなわち、ピカソが5秒でなぐり書きをしたスケッチは独創的な絵画としてもちろん著作物とされるものの、本件のように、車についてありふれた条件を収集し、ありふれた体系に整えることに何年時間をかけたとしても著作物とはならず、たとえ、データの個数が100万個を超えていようが保護されないものはされないのです。
この点、
「額に汗をかくぐらい、お金と労力をつぎ込んだものについては、著作物として保護すべき」
という
「額に汗の法理」
が諸外国では唱えられることがあります。
このような法理は、EU諸国では比較的認められることもあるといわれていますが、日本や米国では、著作権法の趣旨に合わないことから残念ながら採用されていません。

モデル助言: 
データベース構築の努力には敬服いたします。
しかし、筋肉のように鍛えれば応えてくれるものとは違い、どれだけデータを収集したとしても、本件では著作権法上の保護を受けることは困難でしょう。
もちろん事業を行う上で、このようなデータベースが高い価値を有していることもわかるのですが、現状では、不正競争防止法による保護を求めることも困難といわれています。
立法論的には、この検索の時代にデータベースの保護にかけること甚だしいと思うのですが、立法が追いついていないという状況にあります。
しかし、本件のように、データベースを勝手に複製していた業者に対しては
「不公正な手段を用いて営業活動上の利益を侵害する」
として、不法行為に基づく損害賠償が認められた例もあり、裁判所も、フリーライドをする者に厳しい姿勢を見せ始めています。
データベースを構築するに当たって費やした人足や外注費等の開発費用、毎年の維持管理に要する維持費用等を精密に算定することで損害額を積み上げ、金をせしめるとしましょうか。
相手方も御社のデータベースを盗用したこと自体は認めていますし、痛い目を見てもらうのも、後進への教育ですよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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