相談者プロフィール:
マジカル・マジック株式会社 代表取締役 茂木井 審司(もぎい しんじ、38歳)
相談内容:
先生、その節はお世話になりました。
お陰さまで、最近では、最新手品グッズ
「スマートフォン用耳型携帯ケース」
の売れ行きもよくて、最悪だった昨年度とは違って、何とか、黒字になりそうな感じです。
それで、今回の相談なんですけど、実は、うちのお得意先にマキセ物販っていうのがあるんですが、昨年、その会社、巨大台風が直撃した際に強風で倉庫の屋根と壁が吹っ飛んじゃって、商売どころじゃなくなっちゃったんですね。
まぁ、昔、世話になったこともあったし、少しでも被害の回復に役に立てばと思って、すぐに、うちの売掛金の一部を免除したんですよ。
他人にいいことすればそのうち自分にも返ってきますしね。
そしたら、この前、今期の決算の打ち合わせの時、先代の茂木井司郎(もぎいしろう)の頃からお世話になっている高齢の税理士の爺さんが、
「売掛金の免除なんかしたら、こっちも税金が掛かるの知らなかったのかい?
坊ちゃん、情けは人のためならず、なんてことはないんだよ」
なんて、ドヤ顔でいうんですよ。
大体、困っている会社を助けてやったのに税金が掛かるなんて、そんなアホな話あるわけないじゃないですか。
先生のところは、税金関係も詳しいんですよね!?
ひとつ、爺さんにバシッといってやってください。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:法人税の考え方
一般に、企業の1年間の活動実績を計測する
「企業会計」
では、法人の1会計年度における
「収益」(売り上げ等)
から、それを得るために掛かった
「費用」(売上原価や販売管理費等)
を差し引いて、
「利益」
を算出することになります。
これに対し、企業の
「担税力」
を計測する
「税務会計」
では、上記の
「利益」と「収益」
に対し、公平な課税目的やさまざまな政策に鑑みた各種の調整を行うことになります。
このような調整を行った後の
「収益」
を税法上は
「益金」
といい、調整を行った後の
「費用」
を
「損金」
と呼びます。
そして、法人税は、大まかにいうと、
「益金」
から
「損金」
を差し引いた
「所得金額」
に所定の税率をかけることで算定されますが、少しでも法人税を安くしたい企業にとってみれば、いかにして
「損金」
の額を多くにするかについて苦心することになります。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:法人間の贈与や債務免除の考え方
個人が個人に対し金銭等の贈与を行う場合、金銭等の贈与を受けた側(受贈者)には贈与税という税金が掛かりますが、金銭等の贈与を行った側(贈与者)には贈与税は掛かりません。
これに対し、企業などの法人が、特定の法人に対し金銭等の贈与を行う場合、まず、金銭等の贈与を受けた側(受贈者)は、法人の純資産がそれだけ増加しますので、前記の
「益金」
として扱われ、法人税を算定する対象となります(受贈者が個人の場合は、原則として、法人からの贈与は一時取得として所得税の対象になります)。
他方、金銭等の贈与を行った側(贈与者)ですが、個人への贈与の場合も法人への贈与の場合も、
「損金」
として算入することが制限されます。
この結果、課税される額も大きくなります。
なぜなら、企業などの法人による贈与等を
「損金」
として無制限に認めてしまうと、
「損金」
を自由に大きくして税金の支払を回避することを許してしまうことになります。
そこで、法人税法は、このような贈与等を
「寄付金」
として、
「損金」
として算入することに一定の制限を設けています(法人税法37条以下)。
なお、個人や法人への
「金銭債権の免除」
といった“消極的な”贈与も、前記と同様の考えから、債務者の資産状況や支払能力等からみてその全額を回収することが不可能であることが明らかな場合などを除き、
「損金」
への算入が制限されております(法人税基本通達9-6-1、同9-6-2)。
モデル助言:
茂木井さんの会社も、マキセ物販に対する売掛金の一部を免除したとのことですが、前記のとおり、法人税上の
「寄付金」
として認定されてしまうと、
「損金」
として算入できなくなる結果、法人税の額が
「でっかくなちゃった」
となってしまう可能性があります。
でも、それでは、せっかくの好意が報われなくなってしまいますよね。
そこで、政策的な観点から、
1 震災や台風などの災害を受けた得意先等の取引先に対し、
2 その復旧を支援することを目的として、
3 災害発生後相当の期間内に、
4 売掛金などを免除した場合には、
その免除した額について、
「寄附金」
とは認定せずに、
「損金」
として算入することが認められています(法人税基本通達9-4-6の2)。
どうやら、マキセ物販は茂木井さんの会社にとって
「得意先」
のようですので、
1 巨大台風の直撃が「災害」に該当し、
2 茂木井さんの会社が「復旧を支援することを目的」として、
3 災害の発生後、「相当の期間内」に、
4 売掛金などを免除してあげたことが
認められれば、
「損金」
として認めてもらえるかもしれません。
あ、御社の税理士さんがご高齢で、このような細部にわたる通達まで知らなそうで心配だ、というのであれば、一応、事前に税務署に確認しておくこともお勧めしますよ。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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