00220_企業法務ケーススタディ(No.0175):ゴミ株主から「競業行為だ」とケチをつけられた!

相談者プロフィール:
株式会社ほっとっと 代表取締役 澤倍 裕(さわべ ゆう、27歳)

相談内容: 
先生、ちょっといいっすか。
俺ね、死んだ親父の跡を継いで、地元の湘南で弁当屋やってるんすけど、それが結構流行ったから、1都6県関東地方でじゃんじゃん店舗拡大したのよ。
んで、今じゃわりかし有名な弁当屋ってわけ。
まぁ規模はデカくなって株式会社になんてしてるし、ウゼー兄貴がゴミ株主としているけど、実際は代表取締役の俺の一言ですべて決まるほぼワンマン会社って感じよ。
それでね、うちの弁当屋も関東だけじゃなくて、関西でも店出して行こうぜって話になってて、関西の弁当屋の動向とかさ、関西人の味の好みとかも結構調べてたわけ。
だけど、俺なんか新しいことしたくなっちゃって、ぽーんと金出して
「もっとっと」
っつう新しい会社作って、メキシカンな弁当屋はじめてみたんだよね~。
メキシカンなら東京より熱いとこのがいいかなーって思って、大阪とか関西地方で3店舗出したんだ。
そうしたら、ゴミ株主の兄貴がケチつけてきやがって。
ロクデナシで死んだ親から勘当されたくせに、お情けで5%だけ株持たされてる
「勇気」
っつう兄貴が、弁護士かなんかに入れ知恵されて、
「競業行為で会社法違反だ」
とか言って騒いでるわけ。
「ほっとっと」
は関西に店舗も出してねぇし、競業とか訳わからないし。
先生、ほっときゃいいよね?

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:取締役の競業避止義務
株式会社の取締役は、会社との間で委任関係に立ち(会社法330条)、会社に対して“善良な管理者の注意義務(善管注意義務)”(民法644条)および忠実義務(会社法355条)を負っています。
簡単にいうと、
「会社は、取締役を信頼して会社の業務執行を任せているんだから、一切の私心を抱かず、誠心誠意、会社の利益のため、犬のように忠実に働け!」
ということです。
その上で、会社法356条1項1号は
「取締役が自己又は第三者のために株式会社の事業の部類に属する取引をしようとするとき」
には、株主総会(取締役会設置会社の場合は取締役会)において重要な事実を開示した上で、その承認を受けなければならない旨を規定しています。
これが取締役の
「競業避止義務」
といわれるものです。
このように取締役に競業避止義務が課されているのは、会社の資金やノウハウを利用して情報を集めまくり、その上で、
「自分の会社を設立して、ちゃっかり自分だけが儲け放題!」
となることを防ぐためです。
しかし、例えば本件の澤倍さんのように若いころから一生懸命お弁当屋さんをやってきて、別の会社を設立しようとしたらお弁当屋さんはできません、というのもなんだか澤倍さんにかわいそうな気もします。
しかし、会社法に明記されており、また、澤倍さんが会社の100%オーナーシップを有していない以上、仕方がありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:競業避止義務に違反した場合
では、取締役が競業避止義務に反した場合、どのような責任追及がなされるのでしょうか。
前述のように、会社と取締役は委任契約が締結されており、取締役は、会社にとって最善の策を取る義務があります。
そこで、本件のようにワンマン経営を行っていた会社の代表取締役が、競業避止義務に反して新しい会社を設立したケースについて、判例では、
「代表取締役が新しい会社を設立したのは、会社が代表取締役に対し、新しい部門を設置するようにとの委任があったと考えるのが合理的である」
として、
「当該委任義務の履行として、新しく設立した会社を元の会社の一部門とするか、子会社として引き渡す義務がある」(東京地裁判決・昭和56年3月26日『判例タイムズ』441号73頁)
としたものや、代表取締役および新会社に対する損害賠償請求が認められた事例(名古屋高裁判決・平成20年4月17日)などがあり、役員側に厳しい結果が出ています。

モデル助言: 
本件の場合、澤倍さんが新しく設立した
「もっとっと」
は、
「ほっとっと」
と同じくお弁当屋さんであり、近隣住民や会社等同じゾーンをターゲットにしています。
確かに
「ほっとっと」
は、まだ、関西地方に進出してはいないものの、開業準備に着手していたといえることから、澤倍さんが
「もっとっと」
を設立したという行為は、競業避止義務に違反する可能性はあり得ますね。
ゴミ株主といえども、騒ぎ出すと、
「ほっとっと」

「もっとっと」
の子会社とするようにいわれたり、損害賠償を請求されたりする可能性もあり得ます。
もうちょっと慎重にやるべきでしたね。
ズルい方法ですが、この際、ゴミ株主であるお兄さんをスクイーズアウトしちゃいましょうか。
スクイーズアウトなんていうと、上場している大企業だけの専売特許のように聞こえるかもしれませんが、定款変更して、種類株式発行する等いくつかしょうもない手続きをすればいいだけです。
ま、会社から追い出す際の手切れ金の額でモメる可能性があるので、額を釣り上げられないようにするため、
「もっとっと」
の新規出店はストップしておいた方がいいでしょうかね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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