00222_企業法務ケーススタディ(No.0177):下請事業者よ、よきに計らえ

相談者プロフィール:
スーパー・コスゲ株式会社 代表取締役 小管 龍一(こすげ りゅういち、40歳)

相談内容: 
せんせっ! ども~! 今日は、先生にうちの新規事業のことを相談しようと思いましてね。
うちは、じいさんが始めた町の小さいスーパーだったんですけど、今や資本金1500万、従業員数100名超の大手スーパーとなりました。
次は、今流行りのプライベートブランド商品(PB商品)を作って売り出そうと思ってるんです。
まぁね、昔からスーパーやってれば出入りの業者も多いし、PB商品の話をしたら、いろんな業者が
「安くするんで自分のところにやらせてください!」
なんていってくれちゃいまして。
「おおよろしく~」
とか適当にいっておいて、どの程度できるのか、作らせるだけ作らせてみようと思って。
できが良ければ買えばいいし、悪ければ買わなければいいんでしょ。
それでね、PB商品売り出しの日は、特売日にして、たくさんのお客様にうちの商品買ってもらおうと思ってるんです。
売り出し日には、出入り業者の従業員に手伝いに来てもらえば、余分な人件費もかからないし。
これって、下請法ってやつに違反するのかなぁなんて思うんですけど、よく分からないし、友達の吉田ってやつも
「下請法なんて違反したって50万払えばいいんだから、業者から吸い上げちまったほうが得だぜ」
っていってますし、こんな感じで問題ないですよね??

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:下請法の適用範囲
親事業者と下請事業者の力の差によって生じる
「下請いじめ」
を取り締まるために下請法(下請代金支払遅延等防止法)が制定されています。
下請法における
「下請取引」
に当たるか否かは、取引当事者の資本金(出資の総額)の額と取引の内容で決まります。
まず下請法が適用されるのは、
1 資本金の額(出資の総額)が3億円以上の事業者が、個人または資本金の額(出資の総額)が3億円以下の事業者に対し、製造委託等をする場合
もしくは、
2 資本金の額(出資の総額)が1千万円を超え3億円以下の事業者が、個人又は資本金の額(出資の総額)が1千万円以下の法人たる事業者に対し製造委託等をする場合で、親事業者が、物品の製造加工や修理、映像コンテンツやデザインの作成、運送等のサービス提供を他の事業者へ委託する場合
と、なります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:下請法の禁止行為
下請法は、下請取引が公正に行われることによって、下請事業者を保護しようという目的で制定されました。
そこで、下請法は、親事業者によって下請事業者に対し従前より行われていたものの、その力関係から泣き寝入りしていた行為、つまり、買いたたきや下請け代金の減額、下請代金の支払いを遅延することや作らせておいた商品の受領を拒否すること、不当に返品すること、物を強制的に購入させたり下請事業者の従業員を強制的に働かせたりすること等を禁止しています。
また、口頭発注によるトラブルを未然に防止するため、親事業者は発注に当たって、発注内容を明記した書面を交付しなければなりません。
具体的には、
1 親事業者と下請事業者の名称
2 委託を行った日付
3 下請事業者による作業内容
4 納入日
5 納入場所
6 納入物の検査をする場合はその検査が完了する日
7 下請代金の額
8 下請代金の支払期日の他、手形決済の場合等特別の約束がある場合には金額や期日等
をさらに明記する必要があります。
この書面交付義務に違反すれば、50万円以下の罰金が課せられます。
小管さんがおっしゃるように下請法に規定されている罰則は、最大でも50万円の罰金しかありません。
しかし、下請法に違反した場合は公正取引委員会及び中小企業庁による勧告や公表が行われると規定されています。

モデル助言:
まず、スーパー・コスゲ株式会社は資本金1500万円ですから、今回PB商品製造の委託先業者が資本金1千万円以下の会社であれば下請法の適用範囲内ということになります。
そして、スーパー・コスゲ株式会社は、製造施設を持たない小売業者ですが、PB商品製造を外注することは、製造委託として下請法の対象となります。
したがって、PB商品製造を委託する場合には、必ず取り決めた取引条件が履行されるように発注書面を交付する義務がありますし、作らせるだけ作らせて、できが良ければ買うし、悪ければ買わないという受領拒否なんて許されません。
また、特売日に出入り業者の従業員を手伝いに来ることを要請することは、親事業者が下請事業者の従業員を強制的に働かせたとされるおそれもあります。
このような下請法違反を行えば、公正取引委員会や中小企業庁による公表がされます。
「ブラック企業」
扱いされて、かなり白い目で見られたり、採用にも支障をきたしたりすることもあり得ます。
また、民事訴訟としても損害賠償請求され、小管さんが支払った委託代金と相場価格の差額のみならず、その利息も請求されます。
下請法を甘く見ない方がいいですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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