00241_管轄地・仲裁地の重要性

日本国内の会社同士の取引なんかですと、ある程度中味のしっかりした契約書を取り交わし、日常のコミュニケーションがしっかりしている限り、トラブルが裁判に発展するなんてことはありません。

とはいえ、いざ裁判になった場合、弁護士として一番気になるのは裁判管轄です。

サッカーや野球の場合、
「試合の場所がホーム(当地)であるかアウェー(敵地)であるかは、試合結果を左右するくらい重要」
などと言われますが、これは裁判でも同じです。

私の場合、東京地方裁判所の裁判ですと散歩感覚で行けるのですが、地方での裁判は移動の時間やこれにかかるエネルギー(弁護士は膨大な書類を持ち歩く必要があり、遠隔地への移動は大変体力を消耗します)は非常に重くのしかかります。

依頼者にとっては、日当や稼働時間報酬というコスト負担の問題が生じます。

これが海外になると、アウェーでの裁判や仲裁はさらに不利になります。

裁判官なり仲裁人は現地の文化や言語を基礎に手続を進めますし、当然ながら、相手国の弁護士を採用しないとこちらの言い分が満足に伝えられません。

仲裁期日のほか、相手国の弁護士との打合せに要する時間やコスト、コーディネイターのコスト、証人等社内関係者の渡航による事業活動への影響等々を考えると、紛争を継続するコストは、ホームでやる場合に比べ、ケタが1つないし2つくらい違ってきます。

国際仲裁において仲裁地を相手国とすることは非常な不利を招き、トラブルが生じても仲裁でこれを是正する途が事実上閉ざされてしまうことになりかねません。

要するに、国際取引契約で、
「取引紛争が生じた際、相手先の管轄地や仲裁地で解決する」
という条項が定められたら最後、機能的な意味解釈をほどこせば、
「紛争が生じたら、訴訟や仲裁手続きはギブアップし、相手のいうなりになる」
ということ同義といえます。

そのくらい、管轄地や仲裁地の定めは契約上重要性を帯びています。

こういう言い方をすれば、
「そんな、まさか、トラブルなんて、そうしょっちゅう起こらないでしょ」
といって、ビジネスサイドや営業サイドから楽観的な見解を示される場合があります。

しかしながら、経験上、国際取引においては、相手の企業と、話も通じず、言葉も通じず、感受性も常識も通じない、と考え、警戒してちょうどいいくらいです。

しかも、大きなカネや権利がかかわると、相手の立場の配慮や、信義誠実や、紳士的な振る舞いというのは、大きく後退し、暴力的な強欲さが浮上してきます。

加えて、万国共通の契約ルールは、
「書いてないことはやっていいこと」
「甘い、ぬるい、ゆるい記載で解釈の幅がある契約条項は、我田引水の解釈をして差し支えない」
「契約の穴は、いくらでも都合よく解釈していい」
という、品位のかけらもない、野蛮なものであり、取引がうまくいってうまみや利益の取り合いになる場面でも、取引がうまくいかず責任を押し付け合う場面のいずれでも、トラブルの種は山のように存在します。

そういった意味では、紛争を予知して、紛争になった場合の対処イメージを具体的に把握しながら、ホーム戦か、アウェー戦となるか(=戦いをギブアップして、不戦敗を受け入れるか)という、契約条件設計上の態度決定課題は、真剣に考えておくべきテーマといえます。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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