00252_企業危機(企業有事)における企業法務:「正解なき企業法務課題」への対処方法

世の中に存在する問題には、大きく分けて2つの種類があります。

「正解が存在する問題」

「正解が存在しない問題」
です。

1つ目の、正解が存在する問題についてですが、これは、知っているか、知らないか、で解決ができるか否かが決まる問題です。

会社法の何条に何が書いてあるか。
取締役会による承認決議を欠缺した利益相反取引の効力はどうなるか。

この問題は、
「物知り」
に聞けば、簡単に解決できます。

昔は、この
「物知り」
が、非常に希少性のある価値ある資源でしたが、インターネットとグーグルが登場して以降、
「物知り」
の価値はなくなりました。

どんな物知りでも
「グーグル先生」
には勝てませんし、グーグル先生以上に便利でスピーディーに対応できる、正確な解答ができる物知りはいません。

加えて、グーグル先生は早朝深夜だろうが、休日だろうが、何時、何時間酷使しても文句ひとつ言いませんし、しかも、グーグル先生のギャランティーはタダ(無料)です。

クイズ東大王とかそういった
「物知り」
がテレビでもてはやされていますが、今の世の中、人間の
「物知り」
は完全に陳腐化しており、
「テレビの中の見世物」
くらいにしか使いようがありません。

弁護士も同様で、正解が一義的に決まっている単純な法律知識については、Yahoo知恵袋で十分であり、弁護士の根源的な価値は、以下に述べるような課題(正解なき問題)への対処能力と、この裏付けとなる場数(特に、修羅場の場数)と経験知に移行しているような気がします。

次に、
「世の中に存在する問題のもう1つの種類」

「正解が存在しない問題」
です。

株主から提訴要求通知が来た場合、監査役として、応じた方がいいか、無視して代表訴訟に移行させた方がいいか。
会社として代表訴訟に補助参加した方がいいか。
第三者委員会を組成した方がいいか。
誰を委員に選べばいいか。
事務局をどこに委任するか。
課徴金納付命令に応じた方がいいか、争うべきか。
リーニエンシーを使って自主的に談合を申告すべきか。

企業において企業危機(企業有事)やその他企業の病理現象が発生した場合に、こういう
「正解なき企業法務課題」
が浮上します。

こういった問題は、どんな物知りに聞いても答えは出てきませんし、グーグルで検索しても無理でしょう。

スーパーコンピュータでもAIでも無理です。

東大教授に聞いても無理でしょう。

なぜなら、正解が存在しませんから。

ただ、正解は存在しないいものの、現実解、最適解、最善解と言われるものはあります。

すなわち、
「正解なき課題に対する態度決定課題」
としての選択肢がいくつかあり、その全てが
「不完全な要素を含む不正解」
なのですが、その中でも、プロコン分析(長短所分析、功利分析、ダメージないしリスク・ベネフィット分析)上、
「一番マシな不正解」
というものが想定されるだけです。

そのような、
「正解が存在せず、 態度決定課題としての選択肢がいくつかあり、その全てが不完全な要素を含む不正解である状況」
において、もし、
「これが唯一無二の絶対的正解だ」
と豪語する人間がいたら、その人間は、
「詐欺師」

「有害で危険な世間知らず(か知ったかぶり)」
のいずれかでしょう。

たまに、威風堂々としていて、
「私は、この手の問題のプロだ」
と言い張る、自称専門家ないし
「物知り」
が企業有事の際に颯爽と登場し、その類稀なる知性とインスピレーションで、1つの選択肢を正解として指し示し、当該選択肢にしたがって、全資源を動員したが、悲惨な結果を招いた、という例があります。

構造的に正解が存在しない課題を、正解が存在するタイプの課題と見誤り、かつ、
「態度決定課題としての選択肢がいくつかあり、その全てが不完全な要素を含む不正解である状況」
において1つの選択肢のみ正解と決めつけてそれに全てをかける、という博打のように無謀な危機対処は、本質的に大きなリスクをはらみます。

したがって、どんなに威風堂々としていて、どんなに立派な経歴で、どんなに頼りがいがあって、どんなに高いスーツを着て高いネクタイを首からぶら下げていても、この種の
「詐欺師」

「有害で危険な世間知らず(か知ったかぶり) 」
の言うことを鵜呑みにし、結果、構造的に正解が存在しない課題について、他の選択肢の検討や、プロコン分析等をふまえず、
「これが唯一無二の正解」
と誤信した(させられた)状態で、リスキーな行動に盲進するような愚を犯すべきではありません。

もちろん、企業がこのような愚劣な状況に陥るのは、誘導する
「詐欺師」

「有害で危険な 世間知らず(か知ったかぶり) 」
が最も悪いですが 、企業トップの幼稚さ・未熟さにも原因があります。

「経営上の課題については、必ず唯一無二の正解があるはずで、この正解が絶対発見できるはずだ」
と誤信し、その
「正解らしきものを唱える頼りがいのある権威者の説」
に飛びつくのは、未熟で愚かとしかいいようがありません。

大事な決断の際に参考すべき助言の採否・優劣は、
「話している人間の“ラベル”ではなく、話している内容の“レベル”で」
決めるべきです。

「パニックは人を愚かにする」
とはいえ、思考を放棄し、無批判に権威に飛びつく姿勢は、非難されても仕方ありません。

企業危機(企業有事)において企業法務上の対処課題を検討し、実践する上では、まず、目の前の課題を、正解が存在する課題か、正解が存在しない課題かを、見極めるべきです。

正解が存在する課題であれば、グーグルで検索する、また、外部資源(顧問弁護士)を活用して、答えにたどり着けばいいだけです。

仕事の世界では、カンニングは推奨行動ですから、カンニングスキルを発揮して、とっとと答えを探し出すべきです。

他方、正解が存在しない課題については、どうすべきか。

絶対やってはないけないのは、
「正解が存在しない課題を、正解が存在する課題として誤解し、正解を探そうとしたり、ある1つの選択肢を正解として提示する」
という行動です。

正解を探そうとする行為自体、無駄で無意味ですし、
「正解が存在しない課題について、 ある1つの選択肢を正解として提示する 」
ことは、誤りであり、有害であり、職業倫理的に許されないことです。

企業法務を実践する上で、正解が存在しない課題に遭遇したら、まずは、やるべきは、
「正解を探そうとする努力」
を放棄することです。

そして、想像力を駆使し、ありとあらゆる選択肢を抽出することです。

この点において、タブーなき議論を展開し、極論・暴論を抽出し、両極論間の広範なスペクトラムに存在する中間解を描き出すことが、選択肢を豊富にする上では有益です。

そして、各選択肢に、できるだけ客観的で冷静なプロコン分析を加え、決裁者・判断者に上程します。

「態度決定課題としての選択肢がいくつかあり、その全てが不完全な要素を含む不正解である状況」
において、参謀的立場にある企業法務関係者(法務部員や顧問弁護士)が果たすべき役割は、ここまでです。

最後の態度決定は、選択によってもっとも深刻なダメージを負担する責任者、すなわち、企業トップが行うべきであり、企業トップ以外は行なえません。

そして、企業トップが、プロコン分析を交えて、自己の判断として選んだ選択肢(不完全な要素を含む不正解群の中の1つであるが、プロコン分析上、一番マシな不正解として選ばれたもの)を、
「参謀としてではなく、実践部隊としての企業法務チーム」
が、今度は、
「最適解・最善解を、正解にする」
努力を尽くすのです。

そのためには、あの手、この手だけでなく、奥の手、禁じ手(倫理上・慣習上の禁じ手という意味であり、法令違反を推奨する趣旨ではありません)、寝技、小技、裏技、反則技(これも倫理や慣行を無視したものを意味し、法令違反を含みません)を含め、あらゆる知見やスキルを総動員するべきです。

無論、状況がスタックしてしまったら、今度は、ゲームチェンジを行うため、ゲームチェンジにおける選択肢を抽出する、という形で、粘り強く、丹念に、前記のプロセスを継続することになります。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

【本記事をご覧になり、著者・所属法人にご興味をお持ちいただいた方へのメッセージ】
当サイトをご訪問いただいた企業関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいたメディア関係者の皆様へ
当サイトをご訪問いただいた同業の弁護士の先生方へ

企業法務大百科® 開設・運営:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

弁護士法人畑中鐵丸法律事務所
弁護士法人畑中鐵丸法律事務所が提供する、企業法務の実務現場のニーズにマッチしたリテラシー・ノウハウ・テンプレート等の総合情報サイトです