00274_「ライバルは特許侵害しているぞ!」と公言することが、競争者営業誹謗行為(不正競争防止法)とされるリスク

当方が特定の技術に関し特許権を有していて、ライバルメーカーの製造販売した商品が当方の商品と似ているからといって、直ちに特許権を侵害したことになるかは定かではありません。

すなわち、特許権があるといっても特定の技術範囲にしか及ばず、しかもこの範囲は、新規性・進歩性という要件をクリアする点から、出願後登録を得るまでの間に著しく狭められてしまうことが多々あります。

また、特許庁がお墨付を与えた特許権が裁判所でいきなり無効と判断されてしまうこともあります。

加えて、一般人の感覚で
「特許権が侵害された」
と思っていても、特許の範囲をよく観察すると、
「対象商品はギリギリ特許を侵害していなかった」
なんていうこともザラにあります。

対象商品が
「特許を侵害している」
との主張を裁判所に訴え出るならともかく、いまだ公的に確定していない
「特許侵害」
という事実を、あたかも特許侵害が既定の事実であるかのように装い、ライバルメーカーへの間接的な圧力を加える目的で取引先に触れ回るというのは不正競争防止法で禁止されている
「虚偽の事実を告知して競争者の営業を誹謗する行為」
と判断される危険があります。

特許権を侵害されたと考えた企業がライバル企業の取引先に
「特許権侵害の恐れあり」
との警告状を送付した事件で、競争者営業誹謗行為に該当するとして、通知の差し止め、損害賠償に加え、謝罪広告まで認められた裁判例もあるくらいです。

勇み足で過激なことをすると、逆にこちらが詫びを入れさせられる、というのが不正競争防止法の世界です。

別の高裁判決では、
「仮処分申立自体に告知性はなく営業誹謗行為には該当しない」
としつつ、
「申立行為や記者発表は民法上の不法行為になる」
と判断しています。

前述のとおり特許庁の判断を裁判所がひっくり返すことが特許法上認められており、
「特許権侵害を訴え出たら、逆撃をくらって、裁判で大事な特許がつぶされた」
なんて悲劇もよく聞きます。

真似られた、パクられた、と怒って感情にまかせて激烈な行動に出る前に、取りあえず、特許の有効性と侵害性の有無を今一度冷静かつ保守的に判断すべきです。

仮に、販売差止等を裁判所に訴え出るとしても、まずは競争者だけを相手に仮処分申立をした方が無難です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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