00294_企業がうっかりやってしまいがちな、みなし公務員への贈賄罪

刑法198条は、
「賄賂を供与し、またはその申込みもしくはその約束をした者は、3年以下の懲役または250万円以下の罰金に処する」
と規定し、公務員に公権力の行使に関して何らかの便宜を図ってもらうために金品などを提供したりする行為を
「贈賄罪」
として禁止しています。

このような規定が置かれているのは、公務員がその職務に関して金品などの提供を受けるなどすると、公務員の職務の公正やこれに対する社会一般の信頼が害されるからです。

前記贈賄罪(刑法198条)における
「公務員」
について、刑法は、
「この法律において公務員とは、国または地方公共団体の職員その他法令により公務に従事する議員、委員その他の職員をいう」
と定義しています。

この定義によれば、民間企業の厚生年金基金の常任理事は、
「公務員」
に当たらないようにも見えます。

ところが、厚生年金保険法121条には、
「基金の役員及び基金に使用され、その事務に従事する者は、刑法(明治40年法律第45号)その他の罰則の適用については、法令により公務に従事する職員とみなす」
と規定されており、この規定により、公務員でも何でもない厚生年金基金の常任理事であっても、厚生年金保険法121条により、
「公務員」(刑法198条)
にあたる、ということになり、当該理事に対する贈賄も犯罪に該当することになります。

「厚生年金基金」
とは、厚生年金保険法に基づき、厚生労働大臣の許可を得て設立される企業年金を指しますが、
「厚生年金基金」
は純粋な私企業の年金というわけではなく、基礎年金(1階部分)、厚生年金(2階部分)、企業年金(3階部分)のうち公的年金である厚生年金(2階部分)と企業年金(3階部分)を合わせたもので(企業年金連合会HP参照)公的性質を帯びています。

たしかに、見た目や風体は
「純然たるサラリーマンのおじさん」
であっても、厚生年金基金の職員や役員は、
「公的年金の管理・運用」
という公的な職務を行っているんです。

そのため、厚生年金基金の職務の公正への信頼を保護する観点から、厚生年金基金の職員や役員は、刑法上
「公務員」
とされるのです。

ですから、民間企業の厚生年金基金の常任理事に対して、年金の運用の職務に関して接待をすると、贈賄罪の罪に問われる可能性が出てきます。

今どき、公務員に現金包むような、ドラマに出てくる、ギンギンにわかりやすい贈賄をやる企業はいないでしょうが、この種の
「民間にいる、地位も権力もなさそうな、やる気のない、ショボくれたおじさんが、実はみなし公務員だった」
というケースで、意識せずに、お金やプレゼントを渡したり接待攻勢を仕掛けて贈賄罪に問われるケースがありますので、注意が必要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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