00427_DMを民間宅配便メールで送ると違法とされる理由

国民が自分の意思を他人に対して安心確実に伝達する手段が確保されることは、近代国家においては非常に重要です。

例えば、政治批判を含む議論以外のビジネスの分野でも、競合する第三者に秘密のまま自分の意思を意図する相手へ確実に送る手段が整備されていなければ、自由な競争すら危ぶまれますから、
「安価で、安心確実に通信を行う」
ことは、重要なインフラといえます。

憲法21条2項も、
「検閲は、これをしてはならない。
通信の秘密は、これを侵してはならない」
と規定して、国民が持つ
「通信の自由」
を重視しています。

これをうけて、郵便法は、郵便事業株式会社に対して、
「総務省令で定められた料金」
のもと、法令で定められた様々なサービスの提供を要求しています。

さらに、同法79条は、サービスの提供を担保するために、
「郵便の業務に従事する者が殊更に郵便の取扱いをせず、又はこれを遅延させたとき」
について、
「1年以下の懲役又は30万円以下の罰金」
まで定めています。

そして、同法4条は、同社に法令上厳しい責任を課す一方で、通信インフラたる郵便事業が確実に実施されるように、
「信書」の取扱い
については、一定の例外(「民間事業者による信書の送達に関する法律」による例外)を除いて、原則として同社に独占権を与えております。

他方、同法76条は、同社以外の者が
「信書」
を運んだり、同社以外の者に対して信書の送付を依頼した場合には、
「3年以下の懲役又は300万円以下の罰金」
を科しています。

要するに、
「ショボい業者が安物の郵便サービスをやると、秘密がダダ漏れしたり郵便が届かなかったりして通信に対する社会的信用が低下するので、アングラなサービスはまかりならん。郵便事業株式会社みたいなマトモな御用達商人に全部任せろ」
ということです。

郵便法4条は、
「信書」
について、
「特定の受取人に対し、差出人の意思を表示し、又は事実を通知する文書をいう」
と規定しています。

これでは何が
「信書」
にあたるか否かがわかりにくいところですが、総務省は、
「信書に該当する文書に関する指針」
で具体例を示しています。

これによれば、ダイレクトメールは
「特定の受取人を選別し、その者に対して商品の購入等を勧誘する文書」
であるから信書に該当する、とされていますから、
「信書」
の範囲は世間相場よりも広いです。

その他の具体例としては、
「見積書、契約書」「業務を報告する文書」「表彰状」
などが挙げられています。

ちなみに、ヤマトホールディングスは、

「信書」の定義がお客さまに分かりにくいにも関わらず、信書をメール便で送ると、荷物を預かった運送事業者だけでなく、送ったお客さままでもが罰せられることが法律に定められています。(中略)以上の経緯を踏まえ、法違反の認識がないお客さまが容疑者になるリスクをこれ以上放置することは、当社の企業姿勢と社会的責任に反するものであり、このままの状況では、お客さまにとっての『安全で安心なサービスの利用環境』と『利便性』を当社の努力だけで持続的に両立することは困難であると判断し、クロネコメール便のサービスを廃止する決断に至りました。(クロネコメール便の廃止について | ヤマトホールディングス

として、2015年(平成27)年3月31日をもってクロネコメール便のサービスを廃止することを決定しています。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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