00438_「惻隠の情」から、取締役のミスの責任追及をあえて差し控えると、連帯責任のリスクが生じうる

取締役は、会社と委任契約を締結した受任者としての立場をもちます。

この義務の内容・水準は、
「医者の患者に対する義務」

「弁護士の依頼者に対する義務」
と同様のものと理解されており、取締役は、
「経営の専門家」
として、プロフェッショナル水準にて会社の利益を守る義務を負っています(善管注意義務。会社法330条、民法644条)。

この義務のひとつとして、取締役は、会社の財産を適切に管理・保全する義務を負っているとされます。

会社の財産が債権である場合には、適切な方法によってこれを管理するとともに、回収を行う義務を負っているとされます。

会社がある債権を有しており、ある時期においてその回収が可能であったにもかかわらず、取締役が適切な回収を実施せず、かつ、そのことに過失が認められる場合には、取締役の善管注意義務違反として、会社に対して損害賠償責任を負担することになります(会社法423条1項)。

では、具体的に、いかなる場合に、取締役が
「適切な回収を実施」
しなかったといえるのでしょうか。

「会社に債権があるが、債務者が支払わない場合にはとにかく訴訟を提起しなければならない」
というのでは、会社は勝訴する見込みもなかったり、あるいは、勝訴しても、相手が無一文で回収できない場合にすら訴訟を提起しなければならなくなり不合理といえます。

すなわち、
「訴訟を提起するか否か」
については、ビジネスジャッジメントとして、
「経営のプロ」
である取締役に、訴訟提起に伴うメリットデメリットを判断させる裁量(経営裁量)を与える必要性もあります。

この点、東京地裁2004年7月28日判決は、
「1 債権の存在を証明して勝訴し得る高度の蓋然性があったこと
2 債務者の財産状況に照らし勝訴した場合の債権回収が確実であったこと
3 訴訟追行により回収が期待できる利益がそのために見込まれる費用等を上回ることが認められること」
という要件を定立し、これらが充足されるにもかかわらず、取締役が提訴を放置した場合には、会社財産たる債権の適切な維持・管理を怠ったとして、善管注意義務違反を構成すると判示し、これは、東京高裁、最高裁でも支持されています。

つまり、
「勝訴が見込め、相手に財産があって回収でき、回収額が訴訟費用よりも上回る場合」
には、取締役は訴訟を提起すべきである、としているのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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