00631_ビジネス弁護士の企業法務スキルレベル測定基準

弁護士は、各種難易度の高い各種試験(司法試験予備試験、司法試験、考試<司法修習修了認定のための、いわゆる二回試験>)や教育(法科大学院)や研修(最高裁司法研修所での司法修習)を経由した上で法律専門家としての国家資格を付与されており、高い法律実務の見識とスキルを有しています。

しかしながら、弁護士資格を得るまでに習得すべきスキルは、 人権問題や殺人・窃盗・放火・強盗という物騒な刑事事件、土地建物・債権に関する民事紛争に対する対処スキルがほとんどで、会社法で学ぶケースも、企業社会では滅多にお目にかからない(もし事件になれば日経1面を飾るような)アブノーマルな病理現象を対象したものです。

他方で、
企業法務において必要とされる法的三段論法は、
大前提(法規)は、ヒト・モノ・カネ・チエという経営資源の調達・動員(活用)・廃棄 に関しては、労働法(ヒト)・環境規制や表示偽装に関する不競争法等(モノ)・金商法や有価証券上場規程や銀行取引約款(カネ)・知財法等(チエ)であり、営業に関しては独禁法(B2B)や消費者保護規制(B2C)であり、司法試験の必修科目とはされておらず、選択科目として1科目、個別で勉強する機会がある、あるいはロースクールで選択科目として学ぶ、という形でしか触れません。

また、小前提(ケース)は、日常の企業活動となりますが、事業家やサラリーマン経験があれば格別、社会人経験やビジネス経験がないほとんどの弁護士は、企業活動や企業社会の実情は、全く知見をもたないという事態が出来し得ます。

特に、上場企業やIPOに関する企業法務サービスを提供するとなると、
大前提(法規)については、司法試験科目で聞かれる会社法だけでは全く足りず、金商法、企業会計原則、有価証券上場規程及び証券取引所の定めるガイドライン等のソフトロー、さらには、幹事証券会社内部のルールや取扱規則といった様々な規範及びその背景原理(制定趣旨)を学ばなければなりません。

加えて、小前提(ケース)についても、ROI・ROE・ROA・EPS・PERといった各種指標や、資本市場や各投資家(機関投資家、外国人投資家、個人投資家等)に与えるインパクト、各段階利益の意味、開示実務といった、「財務やIR関連部署に所属せず、投資活動に縁のない一般のサラリーマン」ですらあまりわかっていない投資関連の実務・実情に関する知見が必要になります。

こういうこともあり、弁護士が、企業の顧問弁護士やビジネス弁護士として、企業法務に関するサービスを業務として遂行するには、弁護士資格及び資格取得のプロセスで得られた学習成果や知見では全く不足しており、司法試験や考試(二回試験)とは全く別次元の理論・実務についての知見を実装する必要がある、といえると考えられます。

(以上については、企業法務三段論法:弁護士資格だけでは企業法務を取扱うことが困難な理由に詳細を述べています)

このように、弁護士が、企業の顧問弁護士やビジネス弁護士として、企業法務に関するサービスを業務として遂行する上で、法務の各スキルアイテムについては、弁護士それぞれについて有意な偏差(ばらつき)があり、弁護士自身としても、起用・外注選定責任者としても、カウンターパート(サービス窓口)・外注管理責任者(室長、部長、最高法務責任者あるいは経営者)としても、その高低を測定し把握しておくべきと考えられます。

モデル的なもので、完全なものではないのですが、各スキルアイテムについてスキルレベル測定基準を策定してみました。

もちろん、あるスキルアイテムについてはこのレベル、別のスキルアイテムは違うレベル、といった形で、スキルアイテム毎に別異の評価となることがあり得るところです。

企業顧問弁護士・ビジネス弁護士の各スキルアイテムのレベル
【B-・NGレベル 】当該スキルを要求される業務について一切タッチさせてはいけないレベル :
まったく理解できていないか、間違って理解しているが、知ったふり、わかったふりをしている。いわゆる「有害な無知」の状態。

<※注:資格ある弁護士については、法律についてこのレベルであることは、一般的にはおよそ想定しがたいところである。
しかし、法的三段論法の小前提たるビジネス現場の状況等の把握・認知・解釈・評価に関しては、事業家やサラリーマン経験があれば格別、社会人経験やビジネス経験がないほとんどの弁護士として、企業活動や企業社会の実情について致命的に誤解ないし曲解している場合もありえ、また、ROI・ROE・ROA・EPS・PERといった各種指標や、資本市場や各投資家(機関投資家、外国人投資家、個人投資家等)に与えるインパクト、各段階利益の意味、開示実務といった、「財務やIR関連部署に所属せず、投資活動に縁のない一般のサラリーマン」ですらあまりわかっていない投資関連の実務・実情に関する知見が不足し、あるいは致命的な誤解・曲解している可能性・危険性、を完全には排除できない。
また、法的三段論法の大前提たる法規についても、ヒト・モノ・カネ・チエという経営資源の調達・動員(活用)・廃棄に関しては、労働法(ヒト)・環境規制や表示偽装に関する不競争法等(モノ)・金商法や有価証券上場規程や銀行取引約款(カネ)・知財法等(チエ)であり、営業に関しては独禁法(B2B)や消費者保護規制(B2C)であり、司法試験の必修科目とはされておらず、選択科目として1科目、個別で勉強する機会がある、あるいはロースクールで選択科目として学ぶ、という形でしか触れられない。また、上場法務については、 会社法だけではまったく足りず、金商法、企業会計原則、有価証券上場規程及び証券取引所の定めるガイドライン等のソフトロー、さらには、幹事証券会社内部のルールや取扱規則といった様々な規範及びその背景原理(制定趣旨)を学ばなければならないが、これらは選択科目にすら存在しない。したがって、これらの法的三段論法の大前提(法規)に関する知見が不足し、あるいは致命的な誤解・曲解している可能性・危険性、を完全には排除できない。 >
【B0・デフォルトレベル 】当該スキルを要求される業務についてブリーフィングなしに補佐補助を任せると過誤修正が多くなり却って時間や手間を要するので、判断を一切伴わない単純事務しか任せられないレベル:
当該スキルアイテムに関連する概念や用語をテレビや新聞でみたことがあるが、実は、まったく理解できないし、何のことかも知らない、わからない。ただ、そのことをわきまえている。いわゆる「無害な無知」の状態。

<※注:同上>
【B1・ジュニアアソシエイトレベル 】体系・全体構造・概要把握レベル・当該スキルを要求される基本的業務(ルーティン)について補佐補助を任せられるレベル: 
当該スキルアイテムに関連する概念や用語についてだいたいどういうものかが、頭で理解できる。完全に習得するために必要なロードマップを理解・把握しており、分野の深みや奥行きや、ケース演習(仮想経験)や実践(実地経験)を含めた経験の重要性が理解できる。
【B2・アソシエイトレベル 】当該スキルを要求される基本的業務(ルーティン)について責任者として自律的に執務ができるレベル・ルーティンフロー(業務の基本・手順・段取り)やルーティンオペレーション上派生する典型的な問題点を理解・把握しており、自主的に課題発見・特定・処理できるレベル:
当該スキルアイテムに関連する概念や用語すべてについて机上学習レベルで了している。また、基礎的な実務経験も終えている。パートナーの逐一の指示や監督がなくとも基本的実務を自律遂行できる。また、応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)についても、補佐・補助を任せられ、あるいはパートナーの指導ないし監督の下、実務対応を遂行できる。パートナーの指示や監督にしたがい、手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ)の実務支援ができる。

法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を除き、基本的業務全般(企画・運営から実施・総括)について、自己の責任でクライアントの質疑に応答し、 解決案の起案作成や成果物の校正・確認等ができる。
政策法務・戦略法務については、パートナー(シニアパートナーを含む。以下、同じ)の指揮や監督にしたがい、企画や補助・補佐ができる。
予防法務・内部統制法務については、新奇分野や応用分野を除き、基本的業務全般(企画・運営から実施・総括)について、自己の責任でクライアントの質疑に応答し、解決案の起案作成や成果物の校正・確認等ができる。
紛争法務や存立危機事態対処については、パートナーの指揮や監督にしたがい、企画や補助・補佐ができる。
【B3・パートナーレベル 】当該スキル分野について応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)に対応できるレベル・手順や事務構造や組織構造の軽微な改変(マイナーチェンジ)に対応できるレベル:
実地経験や仮想訓練(該当スキルについての資格試験やワークショップ)によって応用実務(ボーダーラインケースや新奇課題)に十分な知見と対応能力を獲得している。
該当スキル分野に関するビジネスの現場知見(小前提としてのビジネスのメカニズムや段取りや手順)と専門的見識の双方について、クライアントから一定の評価を得ている。クライアントの法務以外の業務責任者と対等に情報交換(取材・情報収集を含む)や意見交換(議論)ができる。アソシエイト・ジュニアアソシエイト・パラリーガル等の指揮監督や管理統括等ができる(部下のミスをすべて自己の責任として負担しうる監督業務を遂行できる)。
通常事件・通常事案について、責任者として、ゴールデザイン・課題抽出・方針選択・チーム組成・納期等の計画を策定・提案し、予算折衝等の上、経済性・合理性を維持した状態で、プロジェクト受注を完遂できる。また、通常事件・通常事案について、責任者として、クライアントの満足度及び法律事務所経営充実度双方の課題を充足した状態で、業務完遂しうる。
取締役会で、単独で報告業務を遂行できる。
クライアント社内研修講師を務められる。
新しいことや、未経験なこと、正解なき課題について、思考枠組みを用いて自力で一定の提案レベルの企画を策定できる。

法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を含めすべて
の業務全般(企画・運営から実施・総括)について、自己の責任でクライアントの質疑に応答し、解決案の作成や解決モデルの確認等ができる。
戦略法務・政策法務については、基本的業務については取締役会での報告レベルまで対応できる。新奇分野や応用分野については、シニアパートナーの指揮監督の下、企画や補助・補佐ができる。
予防法務・内部統制法務については、 基本的業務の統括(ゴールデザイン・課題抽出・方針選択・チーム組成・納期等の計画を策定・提案し、予算折衝等の上、経済性を維持した状態で、プロジェクト受注を完遂できる。また、通常事件・通常事案について、責任者として、クライアントの満足度及び法律事務所経営充実度双方の課題を充足した状態で、業務完遂)ができ、新奇分野や応用分野については企画や補助・補佐ができる。
紛争法務については、基本的業務の統括(ゴールデザイン・課題抽出・方針選択・チーム組成・納期等の計画を策定・提案し、予算折衝等の上、経済性を維持した状態で、プロジェクト受注を完遂できる。また、通常事件・通常事案について、責任者として、クライアントの満足度及び法律事務所経営充実度双方の課題を充足した状態で、業務完遂)ができ、新奇分野や応用分野についてはシニアパートナーの指揮監督の下、企画や補助・補佐ができる。
存立危機事態対処については、シニアパートナーの指揮監督の下、企画や補助・補佐ができる。
【B4・シニアパートナーレベル】当該スキル分野に関して、手順や事務構造や組織構造の新規構築や大規模改変、応用実務課題や有事状況(存立危機事態)対処や国際紛争事案を含め、社外専門家の最終責任者としてあらゆる対応・統括ができるレベル:
ビジネスの知見と専門的見識について、クライアントの役員レベルや外部からも一定の評価を得ている。
存立危機レベルの事件や事案について、責任者として、ゴールデザイン・課題抽出・方針選択・チーム組成・納期等の計画を策定・提案し、予算折衝等の上、経済性を維持した状態で、プロジェクト受注を完遂できる。
また、存立危機レベルの事件や事案について、責任者として、クライアントの満足度及び法律事務所経営充実度双方の課題を充足した状態で、業務完遂し得る。
取締役会で議論に参加できる。外部で講師を務められる。  

法令管理・文書管理については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括できる。
戦略法務・政策法務については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務を統括でき、取締役会での議論参加ができる。
予防法務・内部統制法務については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務の統括ができる。
紛争法務や存立危機事態対処については、新奇分野や応用分野を含めすべての業務の統括ができる。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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