00753_チエのマネジメント(知的財産マネジメント)における企業法務の課題2:「知的財産権」の正体(知財のダークサイド)

知的財産権については、
「法律の専門家である弁護士ですら『知的財産紛争は一切取り扱わない』というスタンスを取る者も出るほど、取扱がやっかいな法務課題である」
といえますが、そもそも
「知的財産権の正体」
とは一体何なのでしょうか?

ここで、知的財産権の正体をわかりやすくお伝えするため、メタファー(暗喩)を用いて、解説します。

まず、
「時は天下統一の完了した織田・豊臣時代、東西を結ぶ大動脈たる整備された大街道、中山道や東海道」
をイメージしてください。

かつては、交通の自由が規制され、あちこちに勝手な関所が作られ、関所毎に通行料が支払わされ、流通コストが増大し、経済発展が歪められました、織田・豊臣によって天下は統一され、
「関所はいくつかあるものの、天下の往来は原則自由」
となりました。

ここで、
「現代における産業技術や文化市場におけるアイデアや表現が自由に往来する状況」
を想定し、これと、
「平和が訪れた豊臣政権の時代における中山道や東海道の大街道」
と同様のイメージをもってください。

産業技術や文化市場では、アイデアや表現が自由かつ活発に交換されることにより、どんどん高度化されます。これは、
「誰かが適当に作り上げた意味不明な関所や値段のよくわからない通行料」
のない、自由な往来ができる整備された街道によって経済が発展するのと同様です。

学ぶとは、
「真似ぶ」すなわち「真似る」こと
から転じており、模倣は産業技術や文化発展の原点ともいえます。

知的財産権というのは、基本的に、この
「現代における産業技術や文化市場におけるアイデアや表現が自由に往来する状況」
に、
「私人に関所を設けさせ、これを使って他者を威嚇したり、通行料をせしめること」
を是とする制度です。

すなわち、特定の要件を満たして(著作権以外の知的財産権は登録等も必要)、自分が作り出したアイデアや表現に権利が付与されると、
「アイデアや表現を自由に使える状況」
に対して一種の
「関所」
のようなものが作られてしまいます。

言い換えれば、技術や表現(知的財産権)を自由に使って、産業社会や文化市場で自由な活動をしようとすると、いきなり、
「そなたは、国からお墨付きを得て当方が設置しておる関所を勝手に通行しておる。通行を止めろ(差し止め)、通行料を払え(ロイヤルティや損害賠償を払え)」
といわれてしまうのです。

「知的財産権を積極的にどんどん認め、その権利を強力に行使させる」
というのは耳に心地よく聞こえます。

しかし、よく考えてみれば、
「知的財産権を次から次に認め、その権利を最大限行使させる」
というのは、喩えてみれば、
「せっかく、天下統一して、大街道を往来自由にしたにもかかわらず、また、各地方の権力に自由に関所を作らせ、通行料の徴求を許す」
のと同様、産業社会や文化市場の発展にきわめて有害といえます。  

このように、知的財産権の正体は、
「(アイデアや表現の自由な往来における)公認関所」
のようなもので、産業社会や文化市場の発展を阻害する、というダークサイドの要素を秘めたものなのです。

初出:『筆鋒鋭利』No.077-1、「ポリスマガジン」誌、2014年1月号(2014年1月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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