00774_紛争・有事状況のゲーム環境たる裁判システムを理解する5:裁判所における事件処理の実体(3)旧司法試験・司法試験予備試験と民事訴訟手続の酷似性

「文書を重んじ、口頭での話を軽んじる」
という裁判所の行動様式は一見、噴飯もののように思えますが、見方を変えると極めて合理的なのです。

「書面を重視する」
という裁判所の合理的な行動哲学は、我が国最難関の実務法曹選抜試験としての旧司法試験や司法試験予備試験の選抜プロセス方式にも反映されており、ここに、法曹選抜プロセスと民事訴訟手続のプロセスの酷似性が看取されます。

旧司法試験や司法試験予備試験では、先行して択一式試験・論文式試験を行い、文書のみによって能力判定をほぼ終えてしまい、最後に、
「文書による能力検証に対する補完的検証と、不可避的に紛れ込んでしまう異常者・例外者の排除」
という目的のため、直接面談(口述試験)による最終能力確認を行います。

すなわち、合理的能力検証の極致とも言うべき我が国最難関試験としての旧司法試験や司法試験予備試験においては、法律家としての素養を判定するのにいきなり受験生と膝を突き合わせてグダグタ話を聞くような無駄なことはしません。

また、論文試験で不合格となった者に口述試験を実施し、
「論文でダメだった人間を、話を聞いてあげて救済する」
などという無駄なことも絶対行いません。

無駄ばかりか不正の温床となりますから、けだし当然です。

以上の法曹選抜プロセスを民事裁判になぞらえると、論文試験(主張と書面による証拠の優劣)でほぼ合格者(勝訴当時者)を決めてしまい、合格者の最終検証のために口述試験(証人尋問)を行う、という形で整理されます。

裁判所の本音でいうと、論文試験で不合格が確定した者(民事訴訟において、主張に法的根拠がないか、あるいは書面による証拠で立証できない側の当事者)に口述試験(証人尋問)など行いたくないのでしょうが、さすがに訴訟においてそういうことを露骨にするわけにもまいりません。

ですので、セレモニーと化してしまうことは百も承知ながら、手続も公正性を取り繕うため、とりあえず話だけでも聞いてあげて、ガス抜きをする、ということをしているのです。

とはいえ、旧司法試験や司法試験予備試験では論文で不合格となった者が口述試験で敗者復活することはほぼありませんが、実際の訴訟では、尋問で挽回して書証での不利を覆すというダークホース的な事件が2~3割あるというのが、面白いところです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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