00829_信頼関係の耐用年数

貸しや借りがある相手に、貸しや借りの精算のため、どちらかが有利な(相手方に不利な)契約を特に期間を定めず、一定期間続けるとします。

この契約はどのくらい続くでしょうか。

どのくらいの期間で、借りのある相手方から契約解約を言い出すでしょうか?

例えば、大きな契約の仲介をした場合のフィー(手数料)を徴求する代わりに、コンサルティング契約を長期間締結して、コンサルティングの存続期間中に受け取るコンサルティングフィーを期待してフィー精算とする、という場合を考えます。

この場合、仲介手数料相当のコンサルティングフィーを領収するために必要かつ十分なコンサルティング契約期間を契約上定めていれば問題はありません。

他方で、口頭では仲介手数料相当のコンサルティングフィー精算のため複数年更新することを約束していたものの、書面上はこのような長期間契約とせず、年次更新制度を取っていた場合、どのくらいの期間、契約が存続し得るでしょうか。

これは、
「信頼関係の耐用年数」
に関わる問題といえます。

この信頼関係の耐用年数ですが、私の実務感覚でいいますと、だいたい4年、と考えています。

すなわち、どんなに愛情に満ち満ちていて、あるいは、どんなに感謝に耐えない、一生恩に着る、終生忘れない等という高ぶった気持ちを持っていたとしても、4年もすればすっかり消失する、と考えられます。

この私の実務感覚に基づく推定は、有名な人類学者であるヘレン・E・フィッシャーの考えによっても裏付けられます。

ヘレン・E・フィッシャーによれば、
「人間の愛情の持続期間は4年で終了する」
という形で遺伝的にプログラムされている、とのことです。

すなわち、繁殖戦略上、生物のメスは、固定的に唯一のオスとだけツガイになるより、多数のオスと交尾をした方がより優秀な遺伝子を後世に残すことに有益です。

しかしながら、子供が小さい間、すなわち
「子供の父である現在の夫たるオス」
の支援や保護が必要な間に、メスが別のオスと交尾すると(浮気すると)、浮気に激怒した子供の父親(現在の夫たるオス)から遺棄されてしまいます。

そうなると、母子ともに死んでしまい、遺伝子を後世に残す根源が絶たれることになります。

このような事態を防ぐため、子供が乳離れするまでの間は、その子供の父、すなわち現在の夫との愛情が存続するようにプログラムされている、というわけです。

逆に、その期間が経過して子供が乳離れした後は、夫婦間の愛情が冷め、子供は自立し、メスは新たなオスを探すようになる、という繁殖に有利なシステムが遺伝的プログラムが人類に格納されている、というわけです。

そして、人間の場合、子供の乳離れ(授乳期云々というより、「親に完全に依存しないと生存できない状態から脱却できる」という意味です)は4歳ころ、とされており、したがって、その時点になれば、
「夫の遺棄があっても、(社会的にはさておき)生物学的に死に直結するほどの生存が脅かされる状況は訪れない」
という状況になりますので、夫婦の離婚は4年目が一番多い、という一般法則となって顕れる、という話です。

芸能バラエティ等をみていますと、芸能人は4年離婚が顕著に多いような気がします。

「世間体や社会の常識にとらわれず、本能や感性を発揮し、感情の赴くまま生きる」
というタイプの方が傾向的に多く、そういうった方々が、建前やモラルより、本能や感性を大事にするため、この遺伝的な偏向的習性にシンプルにしたがう、わかりやすい生き方をするからでしょうか。

いずれにせよ、このような
「人類が太古の昔からプログラムされてきた遺伝的なバイアス」
を前提とすると、
「どんなに愛情に満ちて、あるいは、感謝に耐えない、一生恩に着る、終生忘れない等という高ぶった気持ちも、4年ですっかり消失する」
という法則は非常に強固に働くものと考えられます。

大型プロジェクトに功績があったとして、プロジェクト成立後の商流に特段のエンゲージをするわけでもなく、
「年金」
のような口銭をもらい続ける、というタイプの契約をセットアップしても、4年経過したころには、どんなに功績が大でも、愛情や感謝や信頼関係が耐用期間を迎え、契約書のささいなほころびを発見されて、トラブルに至る危険性があります。

このようなリスクは、遺伝的に獲得された偏向的習性による不可避的な感受性によるもので、契約書という紙切れ一つで抑止できるものでもありません(無論、がっちりとした契約書を作成すれば相当程度抑止できるでしょうが、どんなに完璧で重厚な契約書でも、悪意の因縁をつけられて訴訟に持ち込まれる、という他者制御課題までを完全に排除することは不可能です)。

そういった場合は、
「プロジェクト成立後の商流に特段のエンゲージをするわけでもなく、『年金』のような口銭をもらい続ける」
という取引構造の欠陥に由来するものですから、プロジェクト成立後にもしかるべき有用なエンゲージできる
「居場所」
を見つけ出し、その
「居場所」
を一所懸命死守することで、プロジェクトが続く限りにおいて極力長く、
「年金」
ではなく、
「サービスの対価たるフィー」
をもらい続けることができるような
「(契約書設計ではなく)取引設計」
をひねり出すべきです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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