00864_「正解や定石のないプロジェクト」の戦略を立案し、戦略的に遂行する1:「逃げるが勝ち」「出口戦略」の重要性

まず、前提として、目の前にある業務の課題は、
「正解とやり方がわかっていて、経験さえあれば誰がやっても同じ結果が期待できる、陳腐なルーティン」
ではなく、
「正解がなく、あるいは正解があるかないかすらわからない、定石も不明で、誰も経験がない、未知のプロジェクト」
という前提です。

新規事業の立ち上げかもしれませんし、M&Aかもしれませんし、海外進出であったり、言葉も話も通じない企業との提携であったり、事件や事故の対処、さらには、有事(存立危機事態)の対処かもしれません。

そんなイレギュラーでアブノーマルな事案を委ねられた場合に、どう対処すべきか?

そこでは、戦略を立案し、戦略的に遂行することが求められます。

ところで、
「戦略が大事だ」
「戦略的に考えよう」
「チミには戦略というものがないのかね(怒)」
「ウチの上司はバカで、戦略センスとかナッスィングで、ホント、困っちゃうよ~」
とかなんとか、という形で、この「戦略」という言葉、本当に巷でよく耳にします。

しかし、また、この
「戦略」
という言葉ほど、曖昧で、無内容で、誤解されているものはありません。

私なりの理解ですが、
「戦略」
というものは、
「様々な環境要因や制約条件のなかで、現実的に達成可能な目的を決め、合理的に筋道を立てて、最小限の犠牲で、目的を段取り良く、達成するための方法論」
というものです。

戦略論の大家・ビッグネームといえば孫子(孫武)ですが、その“孫子イチオシの最強の戦略”は、
「三十六計逃げるに如かず(三十六計逃げるが上策なり)」
といわれるものです。

要するに、
「逃げるが勝ち」
「逃げて逃げて逃げまくれ」
ということですが、
「意識高い系の自信過剰な方々が多用する“戦略”という言葉のもつ、中世ヨーロッパの騎士道のようなヒロイックでロマンチックなイメージ」
とは、真逆の、
「姑息で卑怯で下劣でリアルな方法論」

「軍事思想の大家の壮大な思索の結果の最終解」
というのも、皆さんにとっては違和感があるかもしれません。

しかし、私個人としては、多いに納得しますし、とくに、投資や金儲けについていえば、この
「逃げることをベストとする戦略」
が最強であることは疑いようもありません。

すなわち、投資でカネを増やすコツは、
「勝ち逃げ」と「損切り」
につきるのです。

「意地商いは身の破滅」
という言葉があるように、
「意地やプライドや沽券で勝負を続けるのではなく、勝っているあいだにとっとと戦果を得て退却し、負けたらボロ負けしないうちに逃げちまえ」
という身もフタもない方針です。

逆に、勝ちに慢心していつまでも戦場に残っていると、想定外の事態に見舞われ制御不能のまま元本割れという憂き目にあうことになりかねませんし、損切りのタイミングを逸すると、最悪、全財産を失い破産することもある、というのも経験上理解されている現実です。

商売も同様であり、
「いかにして、どこに向かって、どのように逃げるか」
すなわち
「出口戦略」
がもっとも重要な戦略の根幹を形成します。

例えば、M&Aという難易度の高そうなプロジェクトを例にとって考えてみましょう。

M&Aなんて、いってみれば、企業を取引対象物とする金儲けのための取引の一種に過ぎませんし、株取引や不動産売買や中古設備の購入と同様、
「安く買って、とっとと高く売りつけ、しこたま儲ける」
「安く買って、ボロ雑巾になるまで金儲けのためにコキ使い、投資金額を大幅に超えて、カネを搾り取れるだけ搾り取り、要らなくなったり、損失を出すお荷物になったら、とっととポイ捨てするか、転売して誰かに押し付ける」
という経済活動の手法の一種に過ぎません。

ところが、日本の多くの残念な企業がM&Aでやっていることは、出口戦略を描かず、うまくいかなかった場合の想定(ストレステスト)すらおこなわず、
「妄想満載のバラ色の未来が永遠に続くこと」
だけを身勝手に思い描きつつ、無警戒に、エントリーし、出口のない閉塞状況に追い込まれ、貴重な時間とカネとエネルギーを消耗し続ける、という愚劣極まりないことです。

現実的で達成可能な出口ないしゴールを明確に描き、そこから逆算して、とっとと出口にたどり着く。

出口にたどり着いたら、ぼやっとせずに、とっとと勝ちを精算して逃げ去るか、利用するだけ利用し尽くして、要らなくなったり、損失を出すお荷物になったら速攻でポイ捨てするか、ババ抜きの
「ジョーカー」
のように誰かに押し付ける 。

このような
「逃げるが勝ち」
が戦略の基本です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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