00942_企業法務ケーススタディ(No.0262):過労運転下命の恐怖!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2011年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」三十四の巻(第34回)「過労運転下命の恐怖!」をご覧ください。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
脇甘商事株式会社 従業員

過労運転下命の恐怖!:
当社の従業員が当社製品を運搬している途中で事故を起こし即死し、歩道上の老人に重症を負わせてしまいました。
老人に対しては、保険でカバーができそうです。
従業員との関係については、労災になります。
交通事故なので仮に従業員が生きていれば自動車運転過失傷害罪の存否が問題になるとのことで、当社の法務責任者として法務部長が警察に赴きました。
そして、再度、事情聴取されることとなりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:従業員に対する会社の義務
雇用主は
「賃金を支払う義務」
だけではなく
「契約上の信義則から派生する付随義務として、労働者の生命及び健康等を危険から保護すべき義務(安全配慮義務)」
をも尽くさなければなりませんし、
「労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする」
法律上の義務として、明示されるに至りました(平成19年施行、労働契約法第5条 )。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:過労運転下命(道路交通法違反)の罪
道路交通法は
「直接運転をしていたわけでもない使用者」
を対象に
「過労運転下命」
という刑事責任を問う条文を有しており(道路交通法75条1項4号、同法66条)、3年以下の懲役または50万円以下の罰金を定めています(平成19年に、懲役1年から3年へと罰則が引き上げられました)。
過労等の状態(過労や病気などの理由で正常な運転ができないおそれがある状態)での運転は、すべての人が禁じられているところ(同法66条)、そのような状態にある者に対して、使用者等が、業務に関し運転することを命じること、を禁じています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「過労運転」とは?
「過労運転」
かどうかについては、厚生労働省による
「自動車運転者の労働時間等の改善のための基準(改善基準告示)について」
「トラック運転者の労働時間等の改善基準のポイント」
という告示に沿っているといえます。
1.運転手の拘束時間(運転時間や休憩時間を含む)は、1か月293時間を超えてはならない(労使協定があれば、320時間まで延長可能)。
1日単位で、13時間を超えてはならない(拘束時間を延長する場合でも、最大16時間)。
2.勤務終了後、継続して8時間以上の休息期間を与えなければならない。
3.1日の運転時間は、2日(始業時刻から48時間)平均で9時間。
4.連続運転時間は、4時間まで。
注意点として、休憩所において車内で寝ている状態などは、休息期間ではなく、拘束期間に含まれます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:警察からの聴取は使用者側の証拠固めの場合も
本ケースでは、使用者側の刑事責任を問うことを考えて、証拠固めのために、任意で聴取を行っている可能性も十分にあります。
仮に刑事手続が使用者側に対して開始されることになれば、死亡した従業員遺族から多額の損害賠償請求を受ける可能性も十分にあります。

助言のポイント
1.従業員の起こした交通事故とはいっても、使用者である企業側の人間に刑事責任が発生する可能性がある。
2.「過労運転」!? 意味がよくわからなかったら、厚生労働省の告示を見るか、それも難しいようだったら電話で聞こう。
3.何はともあれ適正な労務管理が重要だ。ここで無理をしてコストを削減したとしても、後で極めて面倒なことになる。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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