00971_企業法務ケーススタディ(No.0291):約束を守らない消費者にはキツイお仕置き!?

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2014年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」六十三の巻(第63回)「約束を守らない消費者にはキツイお仕置き!?」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
某女優

約束を守らない消費者にはキツイお仕置き!?:
ウェディング事業部門の結婚式場のキャンセルポリシーは、申込書へサイン後は総額の50%、入金後は20%、そして、式の6か月前以降は一切返金をしない、としています。
先日、ある女優が式場予約し、現金で全額入金した翌日にキャンセルを申し込んできました。
当社はキャンセルポリシーにより一切の返金はしませんでしたが、相手方は、消費生活センターに駆け込む、ネットに書き込む、訴訟する、ビジネスを潰すと、騒いでいます。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:消費者契約法の適用
消費者契約法とは、消費者の利益を擁護することを目的としており、消費者保護に欠ける契約の取り消しを可能にしたり、消費者に不利な条項を無効としたりするほか、被害の発生や拡大を防ぐための差止め請求についても規定しています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:消費者の利益を一方的に害する条項の無効や差止請求
消費者契約法は、以下を無効と規定しています。
1.事業者の債務不履行による損害賠償責任を全部または一部免除する条項
2.事業者が消費者に対し何らかの不法行為を行った際、その損害賠償責任を全部または一部を免除する条項
3.売買契約や請負契約において、対象物に何らかの問題があった場合に、その問題によって生じた損害賠償責任を全部免除する条項
4.契約の解除に伴う損害賠償額の予定のうち当該事業者に生ずる平均的な損害の額を超えるもの
5.消費者の支払いが期日に遅れた場合、未払額に課される金利のうち年14.6%を超えるもの
6.民法等の任意規定よりも、消費者の権利を制限し、又は義務を加重する条項であって、信義則に反して消費者の利益を一方的に害する条項
しかし、消費者に不当な契約条項が含まれていても、一消費者が企業相手に交渉したり訴訟を起こしたりすることは困難を極めます。
そこで、消費者生活センターのような適格消費者団体が消費者を代表して交渉や裁判を行うことが可能となり、事業者が行う消費者に不利な行為につき差止めの請求を行うことも可能となりました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:社名公表によって信用ガタ落ちも
消費者契約法は、キャンセルに伴い事業者に生ずべき
「平均的な損害」
を超える額以上はキャンセル料として徴収してはならないと規定しています。
裁判例では、結婚式場のキャンセル料について、カップルが結婚式を挙げていたのであれば支払うであろう金額から、仕入れる必要のなくなった食材の代金や人件費、そして他のカップルに転売することによって得られる利益を差し引いた額が
「平均的な損害」
にあたるとされました (京都地判平成25年4月26日)。
設例の場合、キャンセルポリシーは無効とされかねませんし、適格消費者団体による差止請求がなされるおそれがあり、差止請求を起こされれば対応だけでなく、社名および事実の概要、裁判や和解の結果を公表されます。
そうなれば企業の信用はガタ落ち、ましてや縁起を重視するようなウェディング業界においては、評判の悪い企業であるとのレッテルが貼られてしまうこと必至です。

助言のポイント
1.消費者契約法は、企業には厳しく、消費者を徹底的に甘やかす、恐ろしい法律です。
2.消費者契約法はいかがわしい詐欺まがい商法をやっている会社にかぎらず、企業の規模や上場・非上場の別問わず、ありとあらゆるBtoC取引(コンシューマービジネス)に適用される。消費者向け商品・サービスを提供するすべての企業は注意が必要。
3.消費者契約法の世界では、たとえきちんと契約書があっても、消費者に不利な契約は、簡単に無効とされる危険がある。
4.消費者契約法に違反すると、「社名公表」されて会社の信用を失い、最悪倒産する。消費者契約法コンプライアンスは、民事問題のみならず、信用問題(ビジネスマター)であることを銘記しよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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