00995_企業法務ケーススタディ(No.0315):非常識な裁判官をクビにしろ!  記者会見で圧力をかけてやれ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年6月号(5月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」八十七の巻(第87回)「非常識な裁判官をクビにしろ!  記者会見で圧力をかけてやれ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
裁判官 筋尾 徹(すじお とおる)

非常識な裁判官をクビにしろ! 記者会見で圧力をかけてやれ!
社長が社外役員を務める地元の電力会社は、裁判で負け、1日当たり約5億5千万円の損害を被ることになりました。
社長は、今日の記者会見で裁判官を徹底的に批判しようと息巻いています。
「なぜ、こんな常識外れの裁判官をそのままにしておく! 最高裁長官は何をやっている! 部下の不始末は上司の不始末、部下の不祥事は会社の責任、こんな当たり前のことも最高裁はわからんのか! 記者会見であの非常識な裁判官に圧力をかけ、最高裁長官にいいつけてクビにしてやる!」

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:確かに、裁判官も行政官僚も、一見すると似たようなもん
「行政官と裁判官は、バックグラウンドも出身大学も試験科目も酷似している」
ことから、フツーの感覚で判断する限り、仕事の哲学やスタイルが同じと考えるのが自然です。
しかし、似ているからといって、同じというわけではありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:裁判官には、上司もいない 指揮命令といったものもない
行政組織に属する公務員は、
「法律による行政」
「絶対的上命下服」
の2つの原理で厳しく規律されています。
個性の発揮は法律の軽視や指揮命令の混乱につながるため厳しく禁じられ、私情を排して公正・公平な法を実現します。
一方、行政官僚以上に強大な権力を振るう裁判官は、その職務権限を行使するにあたって、外部の権力や裁判所内部の上級者からの指示には一切拘束される必要がない、と憲法で保障されています(憲法76条3項)。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:裁判官をむやみにディスると、ディスった側の見識や教養が疑われる
裁判官が自由に仕事ができる設定になっているのは
「三権分立」
と深い関係があります。
国会は民主的多数決が幅を利かせ、また、議院内閣制を前提にすると、行政権力も、国会の多数派によって牛耳られます。
最後の最後に頼る人権保障の砦である裁判所まで、民主的多数決が幅を利かせると、少数者の人権は危険にさらされます。
そこで、憲法は、司法権を振るう裁判所という国家機関や当該機関を構成する裁判官については、国会や行政や世間やメディアや、さらには上司や上級審の裁判官からの干渉すらも遮断し独立・独裁権力として、事件解決に関する国家作用を取り扱えるようにしたのです。
実際に、特定の裁判官の職権行使について、同じ地裁の所長がメモを手渡して指導したことが、指導をした側の地裁所長が批判にさらされた(昭和44年「平賀書簡事件」)事例があるのです。

助言のポイント
1.裁判官には上司はいない。指揮命令もない。憲法上「独立した立場で自分の良心に従ってOK!」が保障された、ラディカルでフリーでロックンロールな独立権力。
2.だからこそ、裁判官には気を遣おう。最後まで気を抜かず、動静に注意して、過剰なまでに、説得と説明を尽くそう。「情報・説明・資料・根拠を包み隠さず、どんどん提供する」という方法で、ゴマを擦りまくり、こびまくろう。
3.想定外の判決が出されても、裁判制度や憲法上のシステムを理解せず、感情を暴発させて非難・批判をするのはNG。裁判所は、エレガントでない無教養な人種を好まない可能性がある。「江戸の仇を長崎で討たれ」ないとも限らない。
4.判決内容を感情的にディスる暇があったら、上訴等での説得補充や説明強化のための資料作りに取りかかろう。空気を読まず、ツバを吐きかけても、1つもいいことない。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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