01000_企業法務ケーススタディ(No.0320):任せる際には、トコトン相手を疑え!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2016年11月号(10月25日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」九十二の巻(第92回)「任せる際には、トコトン相手を疑え!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
東南アジアの食品加工工場

ライバル企業への人材流出を防げ! 従業員の自由を剥奪せよ!
これまで国内で調達していた冷凍食品を、社長の知り合いの紹介で、東南アジアにある圧倒的な低コストを売りにした食品加工会社に製造委託するプロジェクトが持ち上がりました。
契約条件、契約書、現地の工場視察や品質管理や安全体制等も未了であることから、法務部長は、スタートにはあと半年くらいはかかると見積もったところ、社長は、
「そんなことは後からでいい。
こういうのは信頼関係で進めるもんだ。
とにかく、来月までにはすべて済ませるように」
と、指示を出しました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:中国産冷凍餃子農薬混入事件
数年前、大きな社会問題となった
「中国産冷凍食品に有毒性の農薬が混入していた」
事件は、原因の特定が困難で問題の長期化を招きました。
当時、テレビ等で紹介された中国現地における加工ラインの衛生状況は、現代の日本人の衛生感覚からは、明らかに容認の限界を超えている、と感じられるようなもので、
「そもそも、日本人の口に入るものを中国の工場で生産するということに、相当な無理があったのではないか」
との論調さえありました。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:「委ねる」ことの難しさ
物事には、委託になじむものとなじまないものとがあります。
また、委託になじむものであっても、委託するにふさわしい相手先とそうでないところというものがあります。
法律の世界においては、
「委ねる」
ことにまつわる失敗が原因となった事件が実に多く存在します。
「委ねる」
という決断をする多くの当事者は、安直な理由で、ロクな検証もフォローもせず、見ず知らずの人間に、財産や権利や印鑑を委ねてしまい、その結果、委ねられた方が勝手な行動をして、大きなトラブルが発生します。
大抵のケースでは、第三者を巻き込んで取り返しのつかない状態に陥っており、権利も財産も失くすことがほとんどですし、身に覚えのない債務まで負わされるケースすらあります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:「海外食品製造委託」はさらに難しい
スペックが定量的に決められ、スペックからの逸脱が目に見える形で判別でき、長期間の在庫によって品質が劇的に劣化することもないようなものであれば、コスト面の最適化だけで頻繁に調達先を変更しても、大きな問題は生じにくいと考えられます。
しかし、口に入るものや、品質低下・劣化が生命や健康に悪影響を及ぼすような製品には、一定の品質、それも衛生状況における絶対的な基準というものが存在しますし、これをクリアしない限り、どんなに廉価に生産・加工できても意味をなしません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点4:目先の人間関係に波風を立てておかないと、後から津波がやって来るぞ!
「委ねる」
ことを、コスト面の利点だけを捉えて安直に考えることはリスクです。
不安や危険を正しく認識し、物事を安直に考えるという悪い思考上のクセ(楽観バイアスや正常性バイアス)の補正を行い、
「不愉快な事態を想定したムカつく議論」
を事前に徹底して行い、考えられるリスクはすべて解決シナリオを想定して、文書化(契約書化)していく必要があります。
大きなリスクが生じかねない大事なプロジェクトであれば、キックオフ前に、きちんと人間関係に波風を立てておくべきです。
「より良き人間関係を構築するために最も必要なことは、相手を徹底的に信頼しないこと」
です。
それで、話が壊れるなら、多少のコスト面の有利性も吹き飛ぶようなリスクが潜んでいることがうかがえるわけですから、現状維持や、さまざまな課題に対処しうる別の委託先の開拓も含めて、再検討した方がいいかもしれません。

助言のポイント
1.製造委託、加工委託、信託、委任、代理など、他人に何かを「委ねる」ときには、リスクが不可避的に発生すると心得よう。
2.長期的で良好な信頼関係を構築したいなら、関係構築前に、「本当に大丈夫か」「オレを納得させる確証を持ってこい」「もし話が違ったら、どう責任をとるんだ」と、相手をトコトン信用しない、不愉快な議論を投げかけ、思いっ切り、目先の人間関係に波風を立てておくこと。
3.スペックの保証、条件遵守の確約、万が一の場合のケツの拭き方、といった取引実施にまつわる「相手がムカつくような議論」を徹底して行ったら、それを逐一文書で記述し、契約書化しておくこと。
4.「相手を信用しない、万が一の場合でも自身の身を守る功利的な意味での正論」を感情的に拒絶するようであれば、交渉破談・現状維持も視野に入れて考えよう。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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