01016_企業法務ケーススタディ(No.0336):勤労意欲のある留学生にどんどん働いてもらえ!

本ケーススタディーは、事例及び解説の概要・骨子に限定して要約・再構成したものです。
詳細をご覧になりたい方は、「会社法務A2Z」誌 2018年3月号(2月24日発売号)に掲載されました連載ケース・スタディー「鐵丸先生の 生兵法務(なまびょうほうむ)は大怪我のもと!」百八の巻(第108回)「勤労意欲のある留学生にどんどん働いてもらえ!」をご覧ください 。

当方:
脇甘(ワキアマ)商事株式会社 社長 脇甘 満寿留(わきあま みする)
同社法務部 部長 執高 鰤男(しったか ぶりお)

相手方:
後回(アトマワシ)日本語学院 経営者 後回 学(あとまわし まなぶ)

勤労意欲のある留学生にどんどん働いてもらえ!
労働力不足に頭を悩ます社長に、日本語学校を買収した旧友から、
「わが校の留学生を使ってはどうか?」
という提案があり、働いてもらうことにしました。
言葉の面では確かに難はありますが、素直で、真面目で、給料については文句をいわない、生徒にとっても、仕事はできる、お金は貯まる、と良いことずくめです。
部長は、長時間労働させて事故等が起こるといろいろ問題も出るのではないか、と案じています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:入管法とは
「日本に住んで、働く」
ということは、外国の方にとっては無茶苦茶難易度の高い、スペシャルなことです。
まず、日本にくるには、旅券(パスポート)が必要になります。
旅券は入国に使えるだけで、日本に一定期間滞在するには
「お上からのお許し」
が必要になります。
当該在留資格は、出入国管理及び難民認定法(いわゆる入管法)によって、日本に滞在する目的ごとに分類して資格(「外交」、「報道」、「留学」、「家族滞在」といった27種類の在留資格)を付与されることが必要になります。
働くこと(就労資格)については、かなり制限的で、日本国内にて就労する資格については、個別具体的に就労資格の種類が規定されており、外国人は、日本国から与えられた在留資格以外の活動は行うことができない、というシステムになっています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:外国人留学生の就労問題
学生の場合の在留資格は、
「留学」
というもので、長い期間、日本に滞在していい前提は、
「日本で勉強をする」
活動であり、当局から許可をもらって滞在している、ということです。
資格外活動としてアルバイトは認められていますが、
「学業の邪魔にならない範囲と程度」
という縛りが大前提になります。
この
「縛り」
が週28時間という制約で、絶対的なものです。
労働基準法とは、法の趣旨目的が異なりますので、労働基準法を遵守したから大丈夫、ということはありません。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点3:不法就労助長罪
ある日本語学校の留学生を、法律上の上限時間を超えて働かせたとして入管難民法違反の罪(不法就労助長罪)を犯した、ということで、学校運営会社の社長が起訴され、懲役2年(執行猶予3年)、役員も懲役1年6月(執行猶予3年)の有罪判決、法人としての会社も罰金100万円を命じられる事件があります。
不法就労をした留学生も、刑事事件にはならないとしても、行政法上の不利益措置、すなわち、在留資格取消、強制送還、その後5年間入国不可、を食らうことも想定されます。
人手不足という過酷な現実に直面し、善意と違法性の意識の欠如も相まって、 知らず知らずのうちに、法令違反を犯してしまいがちなのが、この不法就労助長罪です。

助言のポイント
1.国際化の時代といいつつ、入国管理実務は、排外的で、外国人にとてつもなく厳しい。
2.滞在も長期となると当局は渋い顔をするし、ましてや、日本で働いて稼ぐとなると、非常にハードルが高い。逆に、「日本に住んで、働く」という日本人にとって当たり前のことが、外国人には無茶苦茶厳しく制約される事柄である、という前提の認識をもつこと。
3.留学生は、例外的措置として、1週間28時間を上限とする就労が認められているが、この例外措置や就労上限は、徹底して遵守されないと、当局のお叱りを受ける。目先の人手不足や、留学生の「もっと働きたい」という話だけを前提にすると、いつの間にか不法就労助長罪に問われかねない。よく注意すること。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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