01059_「企業法務」の具体的内容>アセスメント・環境整備フェーズ(フェーズ1)>文書管理(フェーズ1B)

「法務活動の前提環境を整備する」
という法務活動の中には、法令管理に加え、文書管理というものもあります。

契約書が適正に保存管理されるべきことは当然として、定款、議事録、許可証、登録証などの重要法務文書の管理も重要な法務活動の一環です。

すなわち、これら法務文書は、紛争発生時の証拠として活用されることを想定して、一定の歴史的事実を正確に記したものであり、これを利用する可能性が最も高いのが法務セクションであるからです。

そして、文書管理上の最大のリスク、すなわち
「所在分散による紛失事故」
を予防する意味でも、重要法務文書は法務セクシヨンにおいて集中した原本管理がなされるべきです。

仮に法務セクシヨンが原本管理をしない場合であっても、保管部門に対して適切な管理指導を行うことは
「法務部の重要な支援活動の1つ」
と位置づけられます。

なお、文書管理、すなわち、活動や状況を、ミエル化、カタチ化、言語化、文書化、フォーマル化するという活動については、軽視されがちです。

「本当に何があったか、どのような状況か、何が行われたか、は、自分たちが一番よく知っている」
「事実が捻じ曲げられるはずはない」
「説明すればわかってくれるし、説明するなんて簡単」
という楽観的なメンタリティーによるバイアスが作用していると思います。

このような集団バイアスによって、記録管理という営みが全般として軽視されがちで、このことが訴訟やトラブルにおける重大な耐性欠如となって、無残な結果をもたらします。

泣く子と地頭には勝ない、といいますが、法曹界では、役所と銀行には裁判で勝てない、という俗説があります。

要するに、銀行相手の訴訟や、国相手の国家賠償請求、税務争訟、また、これも一種の国相手の訴訟と言えますが、刑事事件においては、たいてい(90%前後の確率で)、訴訟の相手方が敗訴の憂き目に遭う、という経験上の蓋然性が存在する、ということです。

この理由について、
「裁判所が銀行や国といった強者やエスタブリッシュメント側にシンパシーがあり、不公平に味方するから」
ということがまことしやかに語られますが、私は邪推、都市伝説の類だと考えます。

すなわち、訴訟において、国や銀行が圧倒的な強さを発揮するのは、その文書管理能力の高さにあるから、と考えます。

相当規模が大きく法務組織が充実している特定の一部上場企業を除き、一般市民や一般事業会社においては、まともな記録管理や文書管理がされていません。

1ヶ月前、半年前、数年前の出来事について、5W2H(いつ、誰が、どこで、何を、どのように、いくら、どの量を、どうした)ということを、痕跡を添えて、明瞭に説明しようとしても、日常からその意味と価値と重要性を理解し、そのための予算とマンパワーがあって、適切な組織が整備され、継続的組織的に記録管理活動をしていないと、スマートかつスピーディーにこなすことは不可能です。

例えば、最強の中央官庁と言われる財務省(旧大蔵省)を例にとってみると、新卒総合職でもっとも優秀・有望な事務官の配属先は、主計局でも主税局でも国際局でもなく、大臣官房文書課(かつては秘書課文書係)であった、と仄聞します。

そのくらい、中央官庁の文書管理を重要視し、重きを置いている、ということであろう、と思われます。

すなわち、中央官庁でも、銀行でも、活動や状況を、ミエル化、カタチ化、言語化、文書化、フォーマル化するという活動をことのほか重要視しており、そのためのマンパワーやこれを支える予算整備に資源動員している、ということを表しています。

一般市民や一般事業会社が訴訟を起こしたり、巻き込まれたりした場合、訴訟代理人弁護士が就いている就いていないにかかわらず、日常の記録管理体制が不備・不十分とうこともあり、
「具体的事実を、5W2H(いつ、誰が、どこで、何を、どのように、いくら、どの量を、どうした)というフォーマットにしたがって、痕跡を添えて、明瞭に説明する」
ことがほとんどできておらず、
「これは不当」
「これは不正義・不公平」
「正義に反する」
といった形で、論拠や根拠もなく、イデオロギーを一方的に展開するだけ、という状況が傾向として多く見受けられます。

「汝(当事者、弁護士)、事実を語れ、我(裁判所)、法を適用せん」
という行動原理に忠実に従う裁判所としては、具体的な事実を誠実に語らず、正義や公平といったイデオロギーを振り回したり、裁判所の職分を冒して一方的に
「法を語る」
側を嫌悪・忌避し、しっかりとした記録を基礎に具体的事実を痕跡を添えて明瞭に説明する国や銀行の主張を是として、後者を有利に扱う運用をするのは、当然といえば当然です。

いずれにせよ、文書管理、すなわち、活動や状況を、ミエル化、カタチ化、言語化、文書化、フォーマル化するという活動については、決して軽視されるべきではなく、中央官庁や銀行を範とし、企業規模に応じたしかるべき資源動員を行って、適切適正に遂行されるべき課題として捉えるべきです。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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