01614_企業法務部員として知っておくべきM&Aプロジェクト(5)_M&Aプロジェクトを成功させるためのポイントその1_概説

1989年に行われたソニーのコロンビア・ピクチャーズ・エンターテイメントをターゲットとするM&A(約5000億円で買収するも業績は振るわず)

2002年5月ころから開始されたウォルマートの西友をターゲットとするM&A(買収価額は非公表ながら、業績低迷)

2003年10月17日に完了したテスコのシートゥーネットワークをターゲットとするM&A(2012年6月18日 には、イオンが同株式の50%を1円で取得する予定であることを発表する形で、撤退)

2006年1月ころから6月ころまでに行われたセブン&アイホールディングスのミレニアムリテイリング(西武百貨店、そごうやロフト等)をターゲットとするM&A(当初1311億円で株式の大半を買取、さらに株式交換で追加取得した際、890億円相当の株式を発行し、投資総額2201億円で買収したが業績不振 )

2006年10月16日に行われた東芝のウェスチングハウスをターゲットとするM&A(6600億円で買収後、赤字続きで巨額損失を出したが、粉飾決算し、後に判明。損失判明後は、東証一部から東証二部への降格指定替え)

2007年8月14日に行われたHОYAのペンタックスをターゲットとするM&A(944億8200万円で買収するも、最終的には減損処理、デジカメ事業をリコーに売却)

2012年2月27日に行われた三井倉庫ホールディングスの三洋電機ロジスティクスをターゲットとするM&A(242億円で買収。その後、255億円の減損処理と、会長・社長の引責辞任)

2013年に行われた丸紅のガビロンをターゲットとするM&A(2800億円で買収し、1000億円もののれん代を計上するも、業績不振で、2020年3月期には最終的に500億円の評価損を計上し、丸紅は、連結最終損益が1900億円の赤字〔過去最大の赤字〕に転落〔2019年3月期は2308億円の黒字〕。)

2009年12月21日に行われたパナソニックの三洋電機をターゲットとするM&A(米国独占禁止法〔反トラスト法〕クリアランス等の各種課題クリアランスを経由して、予想以上に買収プロセスが長期化し、苦労の末、約6600億円で買収し、5180億円という巨額ののれん代を計上するも、2013年3月期には前期と併せて約5000億円の減損処理し、同期に7650億円の赤字を計上し、63年ぶりに無配転落)

その他、
キリンのスキンカリオールをターゲットとするM&A(1400億円の減損を計上)、
LIXILのグローエをターゲットとするM&A(グローエの中国子会社ジョウユウ社長の巨額横領が発覚し660億円の減損計上)、
NTTグループのディメンション・データをターゲットとするM&A(3000億円で買収するもいまだテコ入れ中)、
日本郵政のトール・ホールディングスをターゲットとするM&A(4000億円の減損計上)、
富士通のICLをターゲットとするM&A(1900億円で買収後、2900億円の減損計上)、
古河電工のルーセント・テクノロジーをターゲットとするM&A(1000億円の評価損計上)、
第一三共のランバクシーをターゲットとするM&A(買収後、3500億円の損害が発生)、
日立のIBM社のハードディスク事業をターゲットとするM&A(毎年100億円単位の損失垂れ流しが続いた)、
グリーのポケラボをターゲットとするM&A、
DeNAのiemoをターゲットとするM&Aなどなど

M&Aという営みは、
「吉本新喜劇でよくみる、全員コケる芸」
のように、面白いように、失敗し、失敗して、失敗し倒しています。

「M&Aの失敗例は、芸能人の離婚率とだいたい同じ比率なのではないか(おそらく90%近くが失敗)」
という私の感覚値もふまえて考えると、M&Aプロジェクトは、成功することが稀有で異常で例外な営みで、デフォルトでは、ほぼほぼ失敗するのが普通、ということになります。

しかしながら、この買物、どの企業も面白いように失敗します。

対象が
「企業」
ということであっても、突き詰めれば、卵や大根やカップラーメンや缶コーヒーと同様、単なる
「買い物」
に過ぎないM&Aです。

逆に、M&Aという営みを成功に導くためには、どのようなポイントをケアすることが必要なのでしょうか。

M&Aを成功させるためには、
(A)現実的な投資回収シナリオが機能する適正な買収価格あるいはこれを達成するためのハードな交渉
(B)PMI(ポストマージャーインテグレーション。M&A後の統合実務)による円滑な経営統合作業
(C)全体的な戦略の合理性
のすべてが必要です。

しかし、これらはいずれも日本企業にとって
「不得意中の不得意項目」
なのです。

不得意以前に、前記3つの成功要因を無視または軽視し、少なくとも、当該要因を逸脱した行動をしています。

だからこそ、日本企業は、M&Aという
「たかが買い物」
如きを、びっくりするくらい、アホみたいに、失敗し続けてきましたし、今後も失敗し続けるのだと思います。

初出:『筆鋒鋭利』No.0106-2、「ポリスマガジン」誌、2016年6月号(2016年6月20日発売)

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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