01707_🔰企業法務ベーシック🔰/企業法務超入門(企業法務ビギナー・ビジネスマン向けリテラシー)18_BtoC(あるいはB2C)営業(コンシューマーセールス)に関する法とリスク(消費者保護規制)

私人の間で取引を行う際には、民法や商法のみが適用されるのが原則であり、その際、当事者(特に、契約当事者が双方とも企業の場合)は、当事者の自由に決定することができる任意規定の部分については、当事者間の交渉により、自由にその内容を決定するのが通例です。

ところが、企業の営利活動が消費者に向けて展開される場合(コンシューマーセールス、消費者向営業)では、情報量や交渉力に勝る企業が、劣る消費者を食い物とする構図が是正されることなく放置されることがあるため、消費者を保護すべく、様々な法律規制が制定整備されています。

これらの消費者を保護する法律は、民法や商法等の一般法を大きく修正し、消費者を強く保護する方向で規定されており、通常の商取引の感覚で経済合理性の追求を徹底し過ぎると思わぬところで責任を追及されることになるので、注意が必要です。

企業間で行われるコーポレートセールス(法人向営業)では、多くの企業は、漫然と民法・商法の適用を前提とした取引は実施せず、競争優位を確立するために、自己に有利な多数の特約を作り出し、契約関係に盛り込んでいきます。

しかし、コンシューマーセールス(消費者向営業)においては、対等な当事者間において予定されている自由な取引は一歩退き、消費者の利益を、法令が保護することになります。

例えば、消費者契約法8条は
「事業者の損害賠償の責任を免除する条項の無効」
を規定し、さらに同法10条は、
「消費者の利益を一方的に害する条項の無効」
までも規定しているところであり、
「自己に有利な特約」
を締結したと思っていたものが、法令によって無効とされることがあります。

この消費者契約法ですが、施行当初、
「通常のBtoC(あるいはB2C)セールスを展開している、わりとマトモそうにみえる堅気の企業や事業者」
の皆様は、
「あんなのは、キャッチセールスとか霊感商法とか押し売りとか、そういう特殊なご商売をなさっている方だけに適用される問題であって、学校とか大手企業とかウチのような清く正しく美しい組織には関係ございませんっ!」
「立派で、しっかりとした、我々のようなところには、当然適用なんかされません。適用除外です。聖域です」
と思って、高をくくっていました。

しかしながら、そんな適用除外条項などありません。

この法律は、
「BtoC(あるいはB2C)セールスビジネス」、
すなわち、
「一般消費者向けの商売」
をやっていれば、大企業であれ、老舗企業であれ、上場企業であれ、学校法人であれ、一般社団法人であれ、ありとあらゆる組織や法人に適用されます。

実際、消費者契約法施行後、この法律が活用され、社会的にも大きな事件となった消費者問題は、私立大学を合格した受験生から大量に訴えられ、大学がことごとく敗訴しまくった、「学納金返還」問題でした。

わかりやすく解説しますと、当時、いわゆる
「すべり止め大学(本命の志望校以外に、保険として、受験する大学)」
を受験して合格した受験生や親は、第1志望の合格発表前に、すべり止め大学から
「いったん納付された入学金や授業料などの学生納付金は理由のいかんを問わず返還しない」
として、かなりの金額を取られ、泣き寝入りする状態でした。

そこで、この問題の解決に、出来上がったばかりのピカピカの消費者契約法が
「伝家の宝刀」
として使われ、それまでの大学側のやりたい放題・取り放題に学生・親側は、
「学納金不返還特約は,消費者契約法9条1号により無効」
として反撃を加えました。

結果、最高裁で、大学は軒並み手痛い敗訴を食らい、
「入学できる地位の対価という趣旨もある入学金はさておき(入学してなくても、入学できる地位は得ているから)、受けてもいない前期授業料までぼったくるのはやりすぎ(入学が辞退された以上、大学側に実害が生じていないのに、賠償を要求するのはおかしいから)」
とお叱りを受け、現在では、このような悪弊はほぼ一掃されています(例外もありますが)。

以上のとおり、消費者契約法は、
「キャッチセールスとか霊感商法とか押し売りとか、そういう特殊なご商売をなさっている方」
の専売特許のような限定適用されるものではなく、ご立派な活動をなさっているご立派な大学も適用射程となる、
「消費者保護のために発動される、聖域なき究極兵器」
ということです。

このように、コンシューマーセールスにおいては、自らの扱う商品やその供給形態が消費者を保護する法令の規律を受けるか、受けるとして、その法令の内容や行政処分例、裁判例はどのようなものがあるか、について十分に検討しつつ、ビジネスモデルを構築する必要があります。

民法商法等の一般的な規定のみに従ってビジネスモデルを構築すると、後になってから大幅な修正ばかりでなく、当該ビジネスモデルを断念せざるをえないという事態すら発生しかねませんので、注意が必要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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