01940_オーナー経営者が弁護士起用の前に留意すべきこと_その1_弁護士の関与のあり方

有事における法的な交渉は、その実体も仕組みも、すべて、複雑な形式知と経験に基づく暗黙知で構成されており、素人がタッチすると、たいてい失敗します。

有事における法的な交渉において、プロ(弁護士)の介入は早期なほどよい、というのは鉄則です。

ですから、有事が発生すると、多くの企業は、弁護士を起用します。

さて、弁護士を起用する前に、オーナー経営者がすべきことがあります。

それは、
「弁護士の関与のあり方」
について、オーナー経営者自身が態度決定することです。

弁護士の関与が
1 企業の利益の実現やリスク・損害の逓減・排除なのか、
2 企業の中にいる特定の方々の立場やメンツやプライドやメンタリティを健全に維持することなのか、
は、重要な論点となり得ます。

当然のことながら、弁護士は、倫理上も道義上も(2ではなく)1を優先する、という立場を固持します(し、それは、長い目でみれば、クライアントの利益に適っています)。

要するに、弁護士は、作戦協議において、禁忌も遠慮も一切無用で、ただひたすらに、作戦原理に基づいて1を優先して交渉事をすすめていきますが、その過程で、
「それは、あまりにも峻烈すぎるのではないか」
「相手方は、今までの取引先なのに」
「このことが、噂となって他の取引先にも広がったら・・・」
と、法務の専門知見の欠如した管理職が、あらぬ心配を口にし始め、その挙句、
「その表現では相手方を刺激しすぎるのではないか」
「もう少しやわらかく交渉した方がいいのではないか」
「社長、本当に、あの弁護士のやり方でいいと思っているのですか」
「このやり方をすすめるのであれば、私はついていけません」
などと、妥協論を唱え、弁護士のやり方を批判することが、(会社の規模や形態・業種にもよりますが)少なくありません。

オーナー経営者が、1を優先させて、管理職の意見を退ければ、作戦目的は達成できるでしょう。

しかし、オーナー経営者が、2を優先させて、管理職の意見を聞き入れ、弁護士のやり方を退けると、内部による利敵行為に足を引っ張られることとなり、作戦目的の達成はなし得ません。

平時では、
「そんなの当たり前だ」
「何を今さら」
「そんなことは、わかっている」
と一笑に付されれそうですが、有事においては作戦目的達成のカギとなるほど、1・2の論点は重要性を帯びてくるのです。

有事における法的な交渉の成否は、オーナー経営者が
「弁護士の関与のあり方」
についてどれほど理解しているかにかかっている、といっても過言ではありません。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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