01942_法務課題解決プランが複数同時に進行する弊害とトップの役割

企業が、ある法務課題について、顧問弁護士に支援を依頼し、具体的行動を計画・準備・着手し、顧問弁護士が代理人として対処している最中に、企業内にて、不協和音が生じることがあります。

ほとんどの場合、ある取締役(責任役員)が不安や不満を発し、複数の取締役(責任役員)に伝播し(あるいは、根回しらしきものが行われ)、進行中(フェーズが変わったとはいえないようなタイミング)に、プラン変更をトップに迫り、トップが押し切られる形でプラン変更を決意する、というような場合です。

言い出しっぺの取締役(責任役員)は、独自の方法、独自の手法、独自のネットワークでの解決を試みます。

他方で、トップは、顧問弁護士に対し、事をなすにあたって挨拶をしておくという意味合いで、
「進行中のプランに並行する形で、別プランも進めようと思う」
「進行中のプランに並行する形で、別プランを進めるが、どうだろうか」
と、連絡をすることもありましょう。

たいてい、別プランの手法等が顧問弁護士に明らかにされることは、ほとんどありません。

相談を受けた顧問弁護士としては、その手法が適法・適正である限りにおいて、特段、許否についてコメントを差し上げるものではありません(手法等が明らかにされないとなると、コメントのしようもありません)。

そして、別プランの手法等が奏効し、法務課題の解決に一歩近づいた(あるいは近づいたように見えた)としても、ガバナンス実務のテクニカルな問題として、手続き等の各種の純法的課題や事務課題が出来することは、容易に想定されます。

そのような法的課題対処においては、(もちろん、法的に適正妥当であることが前提ないし条件とはなりますが)法技術介入の要素ないし契機が存在しますし、その限りと前提においては、顧問弁護士独自の資源動員と、その成果による成功・不成功という事態が確認されます。

したがって、顧問弁護士としては、

・本件については、純粋な法的事案、独立の事案として、継続して遂行する
・別プランの試みについては、その詳細を知らされていないことからも、顧問弁護士は関知できないし、その適否についても、何らコメントできないし、適正性等を保証するものではない(詳細が知らされていないのであれば、意見すら形成できない)
・単純な一般論として、今後、事案全体をより複雑にする可能性も否定できないので、この点に留意していただきたい、とのコメントを提示せざるを得ない

という形で、態度を整理することとなります。

しいて言えば、法務課題の解決は、正解や定石なき営みであり、いってみれば、ゲームであり、ギャンブルです。誰が、どのようなモノサシ(前提リテラシー)を用いて判断するかによって、結果が変わってきます。

トップが右往左往し、プランが複数同時に進行するのは、
「船頭多くして船山に上る」
「役人多くして事絶えず」
となりかねない、ということは確実に言えます。

結局のところ、蓋然性に依拠するあらゆる事象や課題について、最終決断を行い、失敗をした場合に恥をかき、自責・他責を含めて、想定外や不可抗力を含めて、全責任を負うサンドバッグ役となるのは、企業経営者以外にはいない、ということなのです。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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