00007_「企業法務」のオペレーション種別からの分析・整理の視点

企業法務に要求されるミッションをオペレーション(具体的活動)面から考察しますと、企業法務活動が、単に契約書のチェック、顧問弁護士(契約法律事務所)へ委任した訴訟案件の管理(争訟法務)だけにとどまらないことが理解認識されます。

次に、企業法務活動として行うべき多種多様の活動を、一定の合理的基準で、分析・整理していきます。

おおまかなフェーズ解析をしますと、法務活動は、
「日常ルーティンから、重要な事業上の意思決定や手法選択の段階を経て、紛争発生を意識した予防措置を講じる段階、さらに、予防措置を超えて紛争が発生し、これが発展・拡大する」
という法的危機の段階的発展推移に対応する形で、

1 アセスメント・環境整備フェーズ(フェーズ1)
2 経営政策・法務戦略構築フェーズ(フェーズ2)
3 予防対策フェーズ(フェーズ3)
4 有事対応フェーズ(フェーズ4)

の4段階に区分されます。

歴史的、沿革的には、企業法務の黎明期においては、企業法務の所掌範囲は、もっぱら
「4 有事対応フェーズ(フェーズ4)」
にのみフォーカスされていました。

この時代においては、そもそも企業が法律に直面するのは、訴訟や紛議が発生し、紛争処理、事件処理というイレギュラーでアブノーマルな事態対処の場面に限られており、対処のほとんどは、顧問弁護士等社外の専門家によって担われていました。

当時(日本産業界の法務部黎明期とも言える時代)、有事における事態対処の状況を把握し、対処上の態度決定(戦略上の選択肢が分岐する場合における意思決定)場面で、トップをサポートするため、弁護士の報告・連絡・相談の一次窓口として、あるいは、軍事監察のような形で、弁護士の法廷活動を傍聴席から臨戦監察する役割を担う部署として、企業法務部(あるいは法務室、法規室)という組織が独立して設置されていました。

このように、原初的な企業法務組織は、
「紛争処理」
「事故処理」
が中心課題でした。

しかし、その後、企業活動が拡大し、これに併せて法務プラクティスが高度化され洗練されていくとともに、アドホック(対処療法的)な
「紛争処理」「事故処理」法務から「予防法務」へ、
さらに、
「予防法務から戦略法務へ」
という形で法務ニーズの発展的拡大が意識されるようになり、これに伴い、
「企業法務」
の具体的内容も、
「4 有事対応フェーズ(フェーズ4)」
から
「3 予防対策フェーズ(フェーズ3)」
へと拡大的発展を遂げました。

その後も、法務のテーマは予防法務から戦略法務へ、 危機管理や危機予防という消極的・受動的なリスク管理だけでなく、経営意思決定プロセスに法的観点や外部視点を加え、経営政策全体としての合法化・健全化の担保とすべき、
というスローガンとともに、企業法務の所掌範囲はさらなる拡大的発展を遂げ、
「3 予防対策フェーズ(フェーズ3)」
にとどまらず、経営意思決定プロセスや事業手法をも取り込む形で、
「2 経営政策・法務戦略構築フェーズ(フェーズ2)」
も含むべきもの、と拡張して理解認識されるようになりました。

また、企業活動を
「カタチ化、見える化、言語化、文書化、フォーマル化」
する、すなわち、秩序や記録を担う、一種の
「企業内“行政”活動(文書による統制活動)」
とも言うべき管理活動も、重要性の希薄なルーティンなどではなく、企業にとって
「法務安全保障」
の重要な前提を構成する、という点が意識されはじめ、企業法務の重要な活動の1つとして、法務オペレーションの内容として取り込まれていきました。

この種の
「企業の文書管理や記録管理」
は、かつて、総務部や庶務部のルーティンの一部として認識されていました。

上場企業の総務部にとって最重要任務は、最低年に一度行われる定時株主総会というイベント運営でした。

しかしながら、総務部の運営哲学に
「法務安全保障」
という点が強く意識されてこなかったこともあり、昭和末期・平成初期のいわゆる
「総会屋」
が跳梁跋扈した時期に、総務部が総会屋の言いなりになってしまい、刑事事件を含む、商法に違反(会社法施行後における会社法違反)する多数の事件やスキャンダルが発生しました。

このように、総務部の組織ミッションにおいて
「法務安全保障」
という観念が欠缺あるいは希薄であることが企業における致命的な弱点として露呈したことが契機となり、また、企業法務活動を十全化、充実化する動きも相俟って、かつては、総務や庶務のルーティンとして
「法務安全保障」
という側面を強く意識されることなく捉えられていた、
「企業内行政活動」
とも言うべき
「1 アセスメント・環境整備フェーズ(フェーズ1)」

「企業法務」活動
の1つとして意識され、法務部所掌業務として取り込まれるようになるトレンドが生じたものと推測されます。

複雑多岐にわたり、実体や射程範囲が把握しにくい
「企業法務」
ですが、このような
「日常ルーティンから、重要な事業上の意思決定や手法選択の段階を経て、紛争発生を意識した予防措置を講じる段階、さらに、予防措置を超えて紛争が発生し、これが発展・拡大する」
という法的危機の段階的発展推移に対応する 4段階のフェーズ区分にしたがって、整理・分析していくことで、機能的な活動区分や所掌デザインが可能になるものと考えられます。

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著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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