00022_企業法務ケーススタディ(No.0003):きちんと本質を理解して臨めば、国際取引交渉で不利で弱い立場に追い込まれることはない

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
目蒲技研 会長 下丸子 カマ太(しもまるこ かまた、70歳)

相談内容:
いやー、先生、いつもお世話になっています。
で、今日の相談なんですが、実は、ご存じのとおり、当社は、いわゆるニッチ産業つうんですか、テレビその他の家電のリモコンのボタン、キーボードのキートップといった、入力装置の製造に特化して長年やってきてまして、この辺りの特許については何件も取っていますし、この種のボタンやキートップに限っては市場シュアは世界的レベルなんです。
昨年、キーボードで入力する際に、大昔に流行った
「北東の拳」
っていう人気アニメの主人公の
「アータタタタ」
っていう甲高い特徴的な叫び声と連動するようなシステムを作ったら、大人気になりました。
このシステムは、実は、目の不自由な方向けのシステムとして、日本の他にアメリカと欧州の主要国に特許出願し、すでに公開されています。
先日、アメリカの大手メーカーから、是非ともライセンスを受けたいという申出がありました。
当社としては、人気商品であり、今後多数のオファーが来ることも考えられるので、有利な条件であれば、この契約をまとめたいのですが、私も社長をやらしている義理の息子も英語はからきしダメで。
そこで、特許出願した弁理士さんから紹介された、
「ドナルド・マイケル」
っていう日本語が片言で話せるインチキ臭いコンサルタントの方にお願いして進めていました。
ですが、どうも話合いが相手ペースでうまく丸め込まれているような気がして。
マイケルさんは
「ドンマイ、ドンマイ、ドンマイケル」
をくりかえすだけで、不安でたまりません。
どうしたらいいのでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:バーゲンニングパワーの正しい用い方
まず、契約交渉における立場を強くするため、こちらの強みをよく認識し、主導権を握るような交渉設計をする必要があります。
そのためには、
「契約の自由」
という私法の根本原理を正しく理解し、
「なんだったら破談にしてもいい。
破談が嫌ならこちらの言うことに応じろ」
と強気で迫ることです。
破談して困るのは、こちらではなく、相手側です。
バーゲニングパワー(交渉の優位性)を回復するためのブラフとしてはかなり効果を発揮すると思います。
加えて、契約書を作成する段階では、徹底的にこちらに有利なものとなるよう、強く要求すべきです。

モデル助言:
下丸子さんは戦中派でしたっけ。
とにかく、青い目の人の前で無意味にビビる、という恐怖感からまず脱却してください。
今回の件は、この1社に決める必要はありませんし、明らかにこちらが交渉上の地位は上ですから、すべて仕切り直しとし、こちら主導で進めましょう。
マイケルさんは
「明日から、クビ。オシマイケル」
ということでやめてもらいましょう。
LOI(Letter of Intent。基本合意書)をみましたが特段排他的交渉権が設定されているわけではありませんし、その意味では、平行して他の企業と話し合いをすることは自由ですよね。
相手には一応
「貴社の条件に魅力が感じず、交渉の進展にも希望が持てないので、他社にもサウンディング(打診)させていただく」
と通告しておきましょう。
とにかく、主導権を回復して、強気で進めましょう。
最後にゴール設定ですが、日本語で、日本法を準拠した契約にして、トラブった場合の裁判管轄も東京地裁に指定しておく、そんな契約書としておきましょう。
無論、同内容で英文の翻訳文書を作ってもいいですが、契約言語(Governing language)はあくまで日本語。
英文は、単なる、Translation for reference (参考のための訳文)扱いとして、優劣を明確にしておきましょう。
相手にとっては、不愉快で屈辱的でしょうが、契約自由の原則を盾に強気に出てもいいでしょう。
ア・プリオリに
「相手はわざわざ遠くからやってきてくれたわけだから、国際親善の意味でも相手を立てて上げるべきだし、相手に遠慮・配慮し、相手の立場も反映してあげるべきだし、国際契約なんだから、絶対英語で契約しなければならない」
などと考えず、
「ライセンスほしけりゃ、この内容で、日本語での契約に応じろ。
いやなら、ゴー・ホームだ」
という形で進めたってかまわないわけですしね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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