00027_企業法務ケーススタディ(No.0004):揉め事を公にすることなく、こっそり、スピーディーに解決するための紛争解決手法としての仲裁

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
医療法人社団大藪会 理事長 大藪 毒太(おおやぶ どくた、40歳)

相談内容:
先生、どうもどうも。
この間の理事会ではオブザーバ参加いただき、いろいろご指導賜り、ありがとうございました。
どうもウチの理事の医者連中って、どいつもこいつも世間知らずで商売センスゼロなもんで、先生に喝を入れていただかないとダメなんですよ。
ところで、理事会後に行ったフレンチ、気に入っていただけました。
東麻布にいいイタリアンみつけましたから、次回理事会後は、また、そこ行きましょうね。
あ、そうそう。
今日の相談なんですけどね。
実は、最近、ウチの病院でちょっとした医療過誤がおきましてね。
いやいや、たいしたことないですよ。
水虫の患者にまちがえてプロペチア処方したら足の指に毛が生えてきた、ってそんなバカバカしい話なんですけどね。
でも、
「訴訟を提起して、公開法廷で、病院の医療管理態勢のいい加減さを洗いざらいぶちまけてやる!」
なんていうんですよ。
さすがにこれには参りましてね。
そりゃ、当病院も努力はしてますけど、どうしても漏れはある。
その度に、公開法廷で恥をさらしていたら、こちらも信用商売ですから、商売あがったりですよ。
ウチにもプライバシーってもんがあるわけですから、こういうの、なんとかできませんかね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:密室裁判でこっそり事件処理できる不起訴の合意・仲裁契約の利点
訴訟沙汰なんてあまり聞こえがいいものではありませんし、ましてや衆人監視の下で法的トラブルをあれやこれや議論するなんて事態は誰しも避けたいと思われます。
しかし、憲法では国民に裁判を受ける権利を保障しており、かつ、裁判は原則として公開で行なわれることになっています。
従って、紛争の相手方に
「こちらのプライバシーも考えて、訴訟を起こすな」
という権利はありませんし、特段の事情がない限り、裁判所に対して
「頼むからこの裁判については密室でやってくれ」
などと注文することはできません。
この問題を解決するためには、不起訴の合意(民事裁判について、相手と事前に合意して、「訴訟を起こさない」という約束をして、訴権を放棄させる)、さらには仲裁法に基づく紛争解決手法としての仲裁契約( 当事者が合意の上で、「裁判官でない、特定の人の判断に委ね、その判断に文句をいわない」との契約を行うこと)を活用することが考えられます。

モデル助言:
患者の方から医療過誤で訴えられるとすれば、治療契約における不履行という問題ですね。
ということは、治療前に患者の方と治療契約という契約をするわけですよね。
患者の方から、治療を受ける前に提出いただく書面とかがありますよね。
その書面に、
「紛争が起きた場合には、訴訟を提起せず、仲裁で解決します」
という旨誓約いただくような文言を入れておき、併せて看護士やスタッフの方にきちんと説明していただくような仕組みを考えられたらいいでしょう。
厳密にいうと、
「不起訴の合意をする」
とか、
「訴訟提起しても妨訴抗弁として却下されるべきことに異議を唱えない」
とかいう形で緻密に記載したり、加えて、相手方に守秘義務を課したりすることもできますが、一般人から徴収するこの種の合意文書はギチギチ書くと、かえって合意の有効性が疑われます。
ですので、フェアな内容をサラっと書いて、質問があればきちんと説明する、というソフトな運用姿勢が必要です。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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