00049_企業法務ケーススタディ(No.0013):メインバンクから、社外役員の選任を求められる干渉をしてこられた場合の対処法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社東海スタイル 社長 野村 聖子(のむら せいこ、46歳)

相談内容:
当社は、長年、地元民間銀行、通称ジミン銀行、をメインバンクとしてがんばってきたんですけどね、昨年、ジミン銀行から助言されたリストラ策を拒否して、事業拡大のため営業人員を増強したのですが、これが見事に裏目に出ちゃいました。
このままでは年内には資金繰りが破綻するので、先日、ジミン銀行からの貸付金のリスケジュールを相談するため、土下座覚悟で
「ジミン銀行詣(もうで)」
をしました。
担当役員の大泉さんからは、散々厭味を言われた挙げ句、リスケジュールの条件として、経営陣を刷新することを求められました。
で、その内容が、ひどいのなんのって。
私が代表権のない会長になることや、夫のツルヤスや友人のキャサリンを役員から辞任させることはまだガマンできますが、新しい社長に、株式会社江崎ファッションの佐田ゆかりを迎えろ、と強硬に言われました。
江崎ファッションは、当社のライバル企業ですし、佐田ゆかりとは、大学こそ同期ですが、犬猿の仲。
嫌がらせとしか思えません。
ジミン銀行の大泉さんは
「リスケジュールしてほしいんでしょ。
条件呑めなきゃ、御社は民事再生でもしてもらうしかないですな。
そうしたら、大口債権者である当行主導で、いずれ、江崎ファッションさんに二足三文で、営業譲渡しちゃいますよ」
と言い放って、仕事だか遊びだかわからない用事でアメリカ旅行に出かけてしまいました。
彼が帰ってくるまでに、当社としてどう対応したらいいか決めなきゃなりません。
先生、どうしましょう。
佐田ゆかりに代表権譲くらいなら、死んだ方がマシです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:優越的地位の濫用と
本件においては、銀行の強引で高圧的な干渉行為を、何らかの法律違反に問えないか、ということがポイントになります。
ここで、出てくるのは、独禁法です。
独禁法は、競争を無くす行為である私的独占やカルテルを禁止する、というイメージが強いですが、この種の、経済的に強い立場を利用した不当な干渉行為も、公正な競争を歪める行為と考え、
「優越的地位の濫用」
として禁止しています。

モデル助言:
御社の事業戦略上の失敗は失敗として反省しなければなりませんが、ジミン銀行さんもちょっとやりすぎですね。
教科書的に言えば、公正取引委員会への被害申告、要するにタレコミですね、を行って、排除措置を求めるわけですが、手続に相応の時間を要する上、公正取引委員会が動いてくれるかどうかも微妙なところです。
下手に動いて、こちらの動きを察知されると、
「江戸の仇を長崎で取る」
の諺どおり銀行が報復措置に出て、交渉の余地なく、全面戦争になる危険があります。
ですので、独禁法一本で正面からゴリ押すというのは賢い方法とはいえません。
独禁法の話は、問題を指摘する際のスパイスの一つくらいの扱いにしておき、基本的には浪花節路線で交渉すべきですね。
顧問弁護士から
「佐田ゆかりさんがライバル会社である江崎ファッション社の社長の地位を維持したまま、弊社の社長職を兼任すると、利益相反の問題も出てくる。
どうしても佐田ゆかりさんが新社長になるなら、江崎ファッション社を辞めてもらう必要がある。加えて独禁法上の不公正取引に該当する」
との指摘を受けたので、なんとか再考いただけないか、という感じがいいでしょう。
とはいえ、
「もはや失うものはない。全面戦争突入だ」
というときには躊躇せずに独禁法カードを切るべきですし、いつでも被害申告できるよう、事実経緯をまとめておき、関連証拠は揃えておきましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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