企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社オフィス・ワン・トゥー・スリー 代表取締役 間目 宏(まめ ひろし、62歳)
相談内容:
相談なんですが、実は、節税のことなんです。
といっても、先生に節税プランを考えてくれって言うんじゃないんです。
実は、ピーマン・シスターズっていう外資系の証券会社に勤めている大学時代の同期で御法川(みのりかわ)っていう調子のイイのがいるんですが、そいつが、節税商品買わないか、って言うんです。
私も仕組はよくわからないんですが、ファンドを通じて、アメリカの著名歌手が今度作るアルバムの権利か何かを買うことにより、多額の損金を私の会社が計上していいって言うんです。
先生もご承知のとおり、当社は、今期も来期も利益がかなり出るので、節税に頭を痛めていたところなんです。
売り込んでくる御法川は、
「大丈夫、任せろ、任せろ。
税金なんて払うヤツはバカだ」
なんて言って、やけに自信タップリなんです。
先生にはバブル期の変額保険の問題でもお世話になりましたが、ああいう失敗経験もあるので
「金融屋の口車に乗るとロクなことはない」
ってのが肌でわかってまして、心配になったんです。
先生、やっぱり、こういう節税商品って、問題あるでしょうか。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:節税商品に内在するリスクの本質
外資系の金融機関は、非常に優秀な方が多く、いろいろな金融商品を開発し、提供してくれます。
無論、中には、緻密な理論を構築して、安全で高収益を生むような商品もありますが、全ての商品がまともであるという保証はありません。
設例の商品は、民事組合のパススルーシステム(組合の損金を直接自己の損金として計上できる)を利用して、
「損金を買う」
仕組のものかと思われます。
本件の商品は、ちょっと前に興行用の映画フィルムを使った節税商品がありましたが、その応用でしょう。
「机上の」
税務理論としてはよく考えられていて、一見すると、効果的な節税ができそうなのですが、こういう
「実体の希薄な商品を使った、税務行政にケンカを得るような強引な損金処理」
を税務当局が笑って受け入れてくれるほど世間は甘くなく、どれも当局と大喧嘩に発展しています。
裁判所の判断だけをみると、飛行機と船はOKで、映画はヤバイ、なんて簡単に考えてしまいそうです。
しかしながら、税務署とのトラブルに巻き込まれた(最高裁までもつれこんでわけですから、事件に投入された時間やエネルギーや弁護士費用等はハンパなものではないでしょう)、という点では、飛行機や船のリース事業に参加した場合であっても相当シビアなリスクにさらされた、とみるべきです。
商品を売る側は、いかにも
「節税プランは完璧です」
ということを、セールストークに謳います。
ですが、売る側の金融機関は、売った後に顧客がどんな税務トラブルを抱えたとしても、
「損金計上できると判断するか、損金計上できると判断するとして、実際損金計上するかどうか等は、すべて自己責任だから、関知しない」
という態度を取ると思われます(もちろん、同情はしてくれたり、紛争対策のための税理士や弁護士を紹介してくれることはあっても、決して手数料を返したりはしてくれません)。
「いい話にはウラがある」
という警句は、実に的を得たものであり、たとえ売り込む側が、仕立てのいいスーツを着て、高価なネクタイをぶら下げ、学歴が高く、名の通った金融機関に勤めていても、セールストークを鵜呑みにするととんでもないトラブルに巻き込まれる可能性があります。
モデル助言:
御法川さんから渡されたパンフレットをみる限り、いかにもカネがかかった体裁で、横文字で大層な商品名が書いてありますが、御社が購入するのは、シンプルに言えば
「税務当局とのケンカの種」
です。
もちろん、節税手法には、確立した判例理論を保守的な形で運用したものもありますが、そういうものでも、税務当局と見解を異にした場合、最終的には自己責任でリスクを取らされます。
セールス担当の御法川さんは強気で調子が良さそうですが、手渡されたパンフレットを読む限り、
「販売用資料」
「金融商品取引法により規制されるべき開示資料ではない」
「税務的な判断まで保証するものではなく、当該判断は、別途ご自身の税理士等の専門家のご助言によりご判断ください」
なんて、無責任なことが相当書いてありますよね。
ま、最終的に、私に弁護士費用を払って、5年も6年も税務当局とのケンカを続ける根性があれば別ですが、もう少し、冷静に考えられた方がいいですね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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