00056_企業法務ケーススタディ(No.0017):とにかく急ぐ場合に、もっとも早く債権譲渡を完遂するための手法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社135R 会長 長谷川 君彦(はせがわ きみひこ、51歳)

相談内容:
おう、鐵丸先生、元気か。
相変わらず、調子よさそうよのぅ。
儲けまくってるそうやんけ。
今日は、ちょっと相談乗ってんか。
ゆうても、相談ちゅうほどのことでもないんやけどな。
先生、島田和七(しまだわしち)ちゅう漫才師覚えているか?
そうそう、あの、声のでかいヤツや。
俺、あいつと知り合いなんや。
あいつが売れんようになったころに、1000万円ほど貸してやったんや。
ちょこちょこ返してきよって、元本700万円になってるんやけどその後まだチンタラ返すようなことゆうてけつかる。
さすがに
「ええ加減、耳そろえて返せ」
ちゅうことゆうたら、
「カネないんやけど、債権もってるさかい、これで堪忍してくれ」
ゆうて、なんや借用書もってきよった。
どうやら、和七が、大阪にいる漫才師仲間の
「中田カボス」
ちゅうヤツに500万円貸しとったらしい。
俺に借りたカネ返さんと、知り合いにカネ貸しとってん。
ええ根性しとるで、ほんまに。
和七もカボスもあんましカネもっとらんみたいやけど、カボスの方は、なんや、今度家に道路ができるゆうことで、結構な立退料もらうらしい。
ゆうても、カボスは根っからの博打好きで、何時カネがなくなるかわからん。
カボスがまだカネもっとる間に、和七から手に入れた借用書もって、取り立て行こう思てんねん。
ああ、もちろん金属バットもってなんかいかんよ。
あくまでジェントルマンとして払おうてもらうんや。
なんか、気ぃ付けとくことあるか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点:債権譲渡を完遂するために必要な「対抗要件」の内容と具備手法
長谷川さんとしては、和七に
「債権を長谷川さんに譲渡した」
旨のカボス宛通知書を書かせて、カボスに送りつける必要があります。
なお、この通知書は、内容証明郵便で郵送すべきです。
すなわち、借金でクビが回らなくなった人間が債権者から追い込みをかけられると、1通だけでなく、2通、3通と債権譲渡通知を書かされることになり、ひとつの債権をめぐって譲受人同士の激しい争奪戦となります。
法律上、このような事態になった場合、
「内容証明郵便“以外”の通知方法をした譲受人」
は債権争奪戦の参加資格がないものと扱われます。
すなわち、最後まで確実に債権をわが物にするのであれば、
「内容証明郵便」
で債権譲渡通知をしておく必要があります。
そして、内容証明郵便で債権譲渡通知した譲受人が複数いる場合通知到達順で勝敗が決せられます。
従って、送付する際は速達扱いとしておき、また、到達が争われる場合に備えて配達証明も付けておくべきです。
ちなみに、あまり知られていませんが、債権譲渡通知以外の方法として、譲渡対象債権の債務者(事例の場合、カボス)に債権譲渡を承諾させる文書を差し入れさせ、これに確定日付を付しておくという方法も可能です。

モデル助言:
教科書的に言えば、内容証明郵便による債権譲渡通知書式を和七のところに持っていって、押印させ、速達でカボスのところに送るべきですね。
借用書を持っているだけでは、法的には不完全な債権譲渡ですから。
それより、もっと手っ取り早い方法がありますよ。
和七ってヒマなんでしょう。
和七と一緒にカボスのところに直接行かれたらどうですか。
カボスから
「和七から長谷川さんへの債権譲渡を異議なく承諾します」
という文書を作成し、公証役場で確定日付を取ってくる。
譲渡通知にこだわって速達郵便が届くの待っているなんてトロいもいいとこです。
どんなに速達が早いといっても、新幹線で大阪に直接乗り込んだほうが早いに決まってますから。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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