00075_企業法務ケーススタディ(No.0029):食品加工委託先の偽装行為防止法

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社木村商事 社長 木村 洋一(きむら よういち、41歳)

相談内容: 
当社は、東北の食品加工会社に、OEMで、当社ブランドのシューマイやギョーザやハンバーグやらを作らせてスーパー等の小売店に卸しております。
ところで、最近、北海道の食品加工会社が、牛肉コロッケに豚肉や羊肉入れたり、賞味期限切れたコロッケをもう1回作り直したり無茶苦茶やっとったことがニュースになってます。
先日、当社の卸先の大手スーパーのサトームイカ堂の部長さんとゴルフしたとき、
「御社の製品は大丈夫でっか?
委託先さんの管理はちゃんとやったはるんでしょうな。
今度、契約の状況とかチェックさせていただきますからね」
と釘をさされました。
委託先の会社探してきよった役員はクビになって辞めてもうてますので、どんな委託先でどういう話し合いがあり、委託の取決めしたのかは私自身ようわかってません。
委託先との契約書についても、クビにした前の経理部長が紙ぴら1枚の頼りないやつを適当に作りよったみたいですが、こちらが判子押した契約書のコピーしかない状況です。
おそらく、こちらが押印したのを委託先に送っただけで、まだ相手が押印したのが返ってきてないんやと思います。
何せ、当社もそうですが、委託先はええ加減な会社ですから。
取引の力関係上、こちらからきちんとした契約書作って
「ちゃんと判子押せ」
ゆうたら、委託先も仕事ほしいでっさかい応じるでしょうが、どんな契約書にしたらよろしいでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:契約自由の原則
民商事法の世界では、契約自由の原則という理屈があります。
これは、どのような契約を締結するかは当事者間の自由であり、公序良俗に違反しない限り、裁判官が理解して判決書ける程度に明確な条項を取り決めてあれば、どんな契約上条項も法的に有効なものとして取り扱う、という原則です。
逆に、契約相手を漫然と信頼して、本来契約内容にしておくべきことを契約内容として明記せず、
「いざとなったら誠実に協議して対応しましょう」
みたいな法的に無意味な取決めで誤魔化すことも自由です。
無論、その場合、契約相手方に対して
「書かれざることは、どんなに道義的にひどいことをやろうが、法的には問題なし」
ということを許すことになります。
要するに、
「契約相手にやられて困ることがあれば、性悪説に立って、すべて契約条件として事前に明記しておき、法的に縛っておけ。
逆に、この種の管理を面倒くさがって、契約を曖昧にしたのであれば、ひどいことをされても文句はいうな」
というのが契約自由の原則の正しい帰結です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:性悪説に立った契約書
今回のケースでいえば、これだけニュースで食品加工における偽装が取り沙汰されていて、しかも卸し先から今後厳しい管理を要求されることが予告されているわけですから、木村商事としては、当該委託先を
「信頼に足り得る取引先」
としてではなく、
「契約書で縛っておかないと、あらゆる悪さをする危険のある、信頼できない奴」
としたうえで、性悪説に立った契約書を取り交わし、厳格な法的管理を実行することが求められます。
・輸入肉や指定外の肉を排除する等の使用食材の厳格な指定
・食材仕入先についての調査義務
・加工にあたって使用する機械の洗浄や清掃の頻度
・加工人員の除菌を保持すべき体制の確保
・加工にあたって使用する水の指定
・委託先の監査権限
・偽装があった場合のペナルティ条項
等、委託先をとことん信頼せず、信頼を裏切る行動に出たら即座にかつ徹底的に当該行動に対する代償を払わせるような契約条項を考案しておけば、委託先もナメた行動をしなくなります。
本来遵守して当然の契約条項を
「そんなの厳しいからヤだ」
とか言って忌避するような委託先は、
「ずるをしても文句を言わないでくれ」
というのを求めているのと同じわけですから、とっと契約を解消し、信頼に足る別の委託先を探した方がいいということになります。

モデル助言: 
食品加工業界では、契約書が一切なく、伝票だけで巨額の取引をしているケースも多いと聞きます。
信頼関係重視といえば聞こえはいいですが、そんなのは面倒くさい法務管理をサボる言い訳です。
各取引の契約書の整備など必要な法務管理を
「面倒くさい」
「法務部を抱えるお金なんてない」
「トラブルになっているわけでもないのに弁護士費用払うなんてばかばかしい」
ということで後回しにしておくと、あとで必ず、ズルをする取引相手に足をすくわれることになります。
契約自由の原則は、
「契約で面倒くさい取り決めをしない自由」
も保障しておりますが、
「契約で面倒くさい取り決めをしない自由」
を存分に満喫された方には、自己責任の帰結として、
「取り決めをしなかったことによるリスクを背負わされる」
という過酷な法的帰結が待っています。
契約書を厳格な形で取り交わすことにより、相手先の不正は予備や未遂の段階で止めさせることが可能となり、結果として品質の維持に貢献します。
ま、取引規模や御社における本OEM事業の重要性も含めると、きちんとした契約書を作っておいた方がいいでしょうね。
少し時間をいただければ、サトームイカ堂の部長さんにも評価いただけるような契約書のドラフトを送りますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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