企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。
相談者プロフィール:
株式会社スッキリ・ソリューション 社長 佐藤 公次(さとう こうじ、38歳)
相談内容:
先生、おはようございます。
当社は、銀行や証券会社に対して、クライアント企業内部のシステム開発要員としてシステム・エンジニアを派遣しております。
ま、要するに、一匹狼のエンジニアに2次発注し、当社の名刺を持たせて、客先での開発に従事させるというわけです。
この種の仕事は波がありますので、当社としても、受託の見込みが不透明なまま、大量の要員を抱えるのはリスクです。
社会保険や有給休暇、さらには福利厚生の負担なんかしていたら商売あがったりですし。
ところで、先日、同業の会社に税務調査が入ったようなんです。
その会社は当社と同じく、各エンジニアを独立事業者として取り扱い、外部請負のような形で契約をしていたようなんですが、各エンジニアが全く税務申告をしていなかったらしいんです。
社長は、各エンジニアが脱税しているだけで会社は特に問題がないと思っていたようなんですが、税務調査では、
「各エンジニアとの契約実態は雇用だから、会社が源泉徴収税額を払え」
と言われたそうなんです。
当社も事業実態は同じですし、各エンジニアは、税務申告などしたことない様子です。
私としては、雇用という形での費用が固定化するリスクを避けたいのですが、他方で、エンジニアが税務申告をしないことが原因で、後ろから税務署からとばっちりを受けるのも御免被りたいところです。
何か、いい解決策ありますでしょうか。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:請負と委任と雇用の区別
「お金をもらって仕事をする」
というのは経済的には単純な話ですが、法律的には、それが請負ないし委任なのか雇用なのかはなかなか悩ましいところです。
悩ましいといっても、理論的な議論だけならいくらでも悩めばいいのですが、設例のように税務の問題が絡むと、議論の方向性を誤ると無用な税務リスクに発展するので、慎重に取り扱う必要があります。
各エンジニアが独自の裁量で仕事を遂行し、勤怠管理や作業報告義務等も一切行なわないということであれば、独立事業者との請負ないし委任契約ということになるのでしょうが、エンジニアに仕事の裁量がなく、勤怠管理に服し、作業報告義務までも課されているのであれば、契約名目にかかわらず、雇用という法律関係が形成されているものと見られます。
請負や委任というのは、独立の事業者として義務を遂行するものであり、誰かの指導命令に服するということとは相いれませんから、当たり前といえば当たり前の話なのですが、世の中には契約の名称だけ
「請負」
や
「委任」
としておけば税務署も同じように法的におかしな理解をしてくれる、などということを考えられる会社もあるようです。
もちろん税務署はこんな話をまともに受け取ってくれるほど甘くはありません。
本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:雇用認定を避けるための方法
理論上の回避策としては、まず、エンジニアに法人を設立させ、法人間契約とすることが考えられます。
ただ、新会社法で設立が従来に比べ簡単になっているとはいえ、エンジニアの数を考えると、設立手続き負担の重さはあまりに非現実的です。
あと、エンジニアに独立個人事業主であることの客観的状況を具備させる方法として、商法11条に基づく屋号登記を実行させるとともに、税務署に個人事業開始届を提出させるという方策も、理論上の選択肢としては考えられます。
これに加えて、会社で税理士を用意し、税理士が管理する金融機関の特別口座を準備し、各エンジニアから半強制的に申告税相当の金銭を預かり、この口座にプールし、確実に税金を支払わせるという方法もアイデアレベルでは考えられます。
しかしながら、このような方法であっても、下請法や独禁法上の優越的地位の濫用の問題は回避し得ませんし、さらには近時社会問題になっている偽装請負等の問題については、未解決のリスクとして残ってしまいます。
モデル助言:
実態が雇用であるのにもかかわらず、雇用認定を避けるなどということは所詮小手先の解決法にはなり得ません。
この種の彌縫策を続けると、事業が大きくなるにつれ、リスクがどんどん増大しますし、健全な事業展開を望めなくなります。
問題の根本的な解決のためには、正攻法しかあり得ません。
すなわち、現場での作業をエンジニアの裁量にゆだねるのではなく、御社として指揮命令や管理を続けるのであれば、雇用という契約処理をきちんとするほかありません。
御社の作業実態を観察しない限り何とも言えませんが、エンジニアの個性や裁量が反映されるような業務を請け負っているわけではないようですので、雇用という形態は動かしがたいと存じます。
ただ、雇用と言っても、終身雇用以外の雇用契約もあり得るわけで、更新のない期間雇用としておくことでしょう。
もちろん、期間雇用といえども解雇権濫用法理の適用があり得るところですが、このようなリスクは顕在化するとは限らないわけですし、発生した時にコントロールする、と腹をくくるほかありませんね。
著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所
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