00080_企業法務ケーススタディ(No.0035):ベンチャーキャピタルから株主代表訴訟を提起すると通告された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社バブルネット 社長 大芝 透(おおしば とおる、53歳)

相談内容: 
先生さあ、ちょっとさあ、大変なんだけどさあ、聞いてくれるかなあ。
うちってさあ、カネが足んなかったもんでさあ、メーンバンクの支店長さんから紹介を受けたベンチャーキャピタリストの小堺ってのに
「トゥギャザーしようぜ!!」
ってお願いして、出資してもらったわけさ。
でさ、小堺が取締役会に出席するようになったんだけど、こいつがとんでもない奴でさ。
数字は読めない、ベンチャービジネスはわかんない、英語はできない、ITに至ってはEメールすら使えない、大馬鹿だったわけさ。
この間の取締役会で、小堺があんまりアホな意見ばかり言うもんだから、こっちもキレちゃって、最後に
「シャラップ! バカはひっこんでろ」
って言ってやったわけさ。
小堺の野郎、顔を真っ赤にして、何を言い出すかと思ったら、
「当社は御社の株主ですよ。
そんな口聞いていいんですか。
わかりました。
御社の財務資料を徹底的に洗い直して、代表訴訟を提起します」
なんて言って帰りやがった。
野郎、当社の取引先の中にオレのダディが経営している会社が入っていることとか、司法書士業務とか社労士業務をオレのワイフのブラザーに発注していることとか、いろいろ嗅ぎ回っているらしい。
ま、どうせロクなことを言ってこないと思うけどさ、株主代表訴訟なんてのがよくわかんないもんでさ、なんか対抗策とかあればさ、先生からアドヴァイスほしいわけさ。
というわけでさ、ティーチ・ミー、プリーズ!

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株主代表訴訟
株式会社の取締役が会社に迷惑をかけた場合、本来、会社がチョンボした取締役に損害賠償をすべきなのでしょうが(この場合監査役が会社の代表として訴訟提起します)、現実問題として、会社を牛耳る取締役に対して、役員仲間である監査役が責任追求するなんてことは期待できるはずもありません。
その結果、取締役としては、絶大な権限を利用して会社の財産を食いちらかすことが可能となってしまいます。
そこで、会社法は、あまりにもひどい場合に、株主が会社に代わって、取締役に対して損害賠償請求することを認めています。
とはいえ、株主の代表訴訟を無制限に認めると濫用される弊害の多く出てきます。
すなわち、暴力団やライバル企業が株式を取得して代表訴訟を濫発すれば、対象企業を事実上機能停止に追い込むことが可能となってしまいます。
そういうわけで、会社法は、取締役の専横を防止する制度として株主代表訴訟を設けつつ、濫用されないような仕組も同時に設けています。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株主代表訴訟防御策
会社の経営陣の方々から、よく
「株主代表訴訟は怖い」
という言葉を聞きますが、
「饅頭怖い」
の落語のように本質を理解せずただ抽象的に怖がっているため、防御策をほったらかしにしているところがほとんどです。
本質的な対策としては、取締役において代表訴訟の原因となるべき任務懈怠あるいはこれと疑われるべき行為を減らす努力が必要です。
問題となりそうな取引や行為については、代表取締役の独断には付さず、取締役会できちんと議論するとともに、議論と承認可決された経緯を議事録に漏らさず記録しておくことにより、代表訴訟のリスクが相当程度逓減されます。
あと、代表訴訟提起前に株主から会社宛に、
「お前んとこの悪徳役員を訴えろ」
という内容の訴訟提起を求める書面が参ります。
ほとんどの会社は当該書面をシカトしますが、シカトの結果、怒り狂っている株主相手と役員との仁義なき直接対決を誘発してしまいます。
ケースによっては、株主の言い分どおり訴訟提起をしてあげて、話が通じる者の間で適正に解決した方がいい場合もあります。
最後に、防御策というより責任軽減策として、役員賠償責任保険に加入することや賠償額の制限を定款に盛り込むことも考えられます。

モデル助言: 
まず、相手方が問題としそうな取引、法律上取締役会の承認が必要だったものや、道義上取締役会に付議しておいた方がよかったものを洗い出してください。
議事録を遡って作成することは厳禁ですが、事後の承認を得ることは可能ですので、問題となりそうな取引については、事後的であれ、法的クリアランスをやっておいた方がいいでしょう。
それと、小堺が取締役会で面罵されて個人的な恨みをいだいていた経緯を書面として残しておきましょう。
代表訴訟提起が不当な害意を目的とするものである場合、訴訟自体却下されることもありますので。
究極の手段としては、小堺から会社に対して訴訟提起を促す通知が来たら、これを放置せず、小堺の要望どおり会社が訴訟を提起することですね。
この場合、相手は小堺ではなく、見知った監査役となります。
どうせ裁判するなら、敵意を抱いている人間より気心の知れた人間の方がやりやすいですから。
ただ、気心知れた監査役に露骨な馴れ合い訴訟をしていい加減なことをしてお茶を濁そうとしても、このような不当な手法に対しては会社法で制限措置が設けられていますので、この点は十分注意すべきです。
ま、そんなことより、いい気になって他人を無用に怒らせるのは、トラブルを増やすだけですから、今後の会社運営はくれぐれもご自重ください。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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