00081_企業法務ケーススタディ(No.0036):労働組合から団体交渉の申入通知がやってきた!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社オーシャン・パシフィック 社長 野島 芳雄(のじま よしお、27歳)

相談内容: 
先生、昨日、労働解放ユニオンってところから、こんなのが郵便で送られてきたんですよ。
何すかこれ。
「組合加入通知書及び団体交渉申入書」
って、意味わかんないんすけど。
そこに書いてある、江頭ってのは知っていますよ。
中途で入ってきた人間なんですが、先月クビにしたんですよ。
まあ、入社して2、3カ月はそれなりにまじめにやっていたんですが、試用期間が過ぎると、勤務時間中にエロサイトはみるし、ネットの株取引はやるし、営業に出たら出たでサボるし、どうしようもない奴だったんですよ。
経理から
「江頭が半年以上仮払の清算をしない」
っていうクレームがあって、追及したんですよ。
そしたら、個人の借金の返済に流用したことを認めたので、さすがの私も堪忍袋の尾が切れて、その場でクビを言い渡したんですよ。
その日のうちに荷物をまとめて会社から出ていったところまではよかったんですが、そしたら、こんなのが来ちゃって。
解雇を撤回して、仕事に復帰させろなんて書いてある。
ホント、訳わかんないですよ。
だいたい、当社は労働組合を認めたこともないですし、それに、労働組合ってのは、賃上げとか残業時間とか、労使全体の話をするものでしょう。
こんな一不良社員の解雇問題に口出しするなんて、どうかしてますよ。
とにかく、
「こんなの関係ねえ!」
って思ってますし、この通知は無視しようと思っているんですが、一応、顧問の鐵丸先生にも意見を聞いておこうということになりました。
無視しといていいですよね。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:労働組合
日本の多くの企業では、企業毎に労働組合が結成され、いわゆる
「御用組合」
という形で企業とそれなりに仲良く共生している例が多いです。
しかし、労働組合一般についていえば、日本国憲法により労働組合を結成する権利が認められており、労働組合を作るのに、一々会社の了解が必要というわけではありません。
そもそも労働組合を作ること自体、漁業協同組合や農業協同組合等を作るときのような意味不明な制約があるわけではなく、かなり自由にできるものです。
すなわち、2人以上の労働者が
「組合作ろう」
「そうしよう」
と意気投合し、地方労働委員会に規約等が労働組合法に適合していることを確認しさえすれば、原則として、労働組合法上の労働組合として、その活動に手厚い保護が与えられます。
本件のように、企業内の労働組合が存在しない状況において、従業員が企業外の独立系労働組合の組合員となることは可能ですし、その場合、当該独立系労働組合が会社に対して団体交渉等を行うことも可能です。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:団体交渉事項
本ケースは、組合員の解雇という個人的な問題を、団体交渉の目的たる事項として、企業外の独立系労働組合から団体交渉が申し入れられています。
確かに、一個人の労働契約に関する問題を、企業内のことをあまり知らない労働組合からとやかく口を差し挟まれるのは奇異な感じがします。
しかし、本件のような問題も
「団体交渉を申し入れた労働者の団体の構成員たる労働者の労働条件その他の待遇や団体的労使関係の運営に関する事項であって、使用者に処分可能なもの」
である以上、義務的団体交渉事項として、会社は交渉に誠実に応じるべき義務を負います。
会社が、かような交渉事項に関し、正当な理由なく交渉を拒絶した場合、労働組合法に違反する労働組合活動の妨害行為(「不当労働行為」といいます)として、様々なペナルティを負担することとなります。

モデル助言: 
「解雇した江頭氏側に相当問題があり、しかも本人が一度は解雇に応じているのに、なんで突然出てきた部外の者と話し合わなければならないんだ!」
という野島さんの気持ちもわかります。
ですが、ご説明したとおり、先方の団体交渉申入は法的根拠を具備したものであり、
「そんなの関係ねぇ!」
というノリで根拠なく交渉を拒否したりしたら、不当労働行為として、直ちに地方労働委員会に訴えられます。
また、一旦、交渉がはじまりますと、先方は、労働法の理論と判例を頭に詰め込んだ切れ者の交渉担当者が出てきます。
組合側が法と判例を基礎に理詰めで解雇の撤回を求めるのに対して、
「そんなの関係ねぇ!」
とか言って交渉に協力しない場合も、やはり不当労働行為となりえます。
とはいえ、誠実交渉義務といっても、会社は労働組合の主張をなんでもかんでも承諾しなければならないというものではなく、合理的根拠を示して妥結を拒否することは許されています。
すなわち、
「これこれ、こういう法的理由で当方は解雇を正当と考えており、貴方の解釈は本件にはあてはまらない。
これ以上の交渉しても接点を見いだし得ないので、後は裁判所の判断を仰ぐほかありませんね」
というような対応は認められています。
いずれにせよ、理論武装をして交渉に臨みましょう。無論、当職も立ち会いますよ。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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