00083_企業法務ケーススタディ(No.0034):株券がホニャララ団の手に渡ってしまう!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社海砂利リゾート 社長 有田 哲也(ありた てつや、36歳)

相談内容: 
先生、大変なことになりました。
高校の同級生で、25年前の創業時から一緒に頑張ってきた専務の上田がやらかしてくれたんですよ。
いえ、どうも前から上田の様子がおかしいなと思っていたんですが、上田の無断欠勤が続くのでいろいろと調べてみると、奴はえらい借金があるようで、それも相当あぶない筋から借りていたとのことなんです。
上田には当社株式10%に相当する株式を持たせていましたが、当社の他の発行済株式と同様、現在のところは、株券は発行しておりません。
ところが、先日、ホニャララ団とおぼしき人物から、当社の総務部に電話があり、
「オレは上田にカネ貸してんだけどよ。あんまり返さねえんで、上田の持ってる株式を質に入れさせたんだよ。でさ、オレもさ、質入れしてもらった以上、おたくの株券を持っときたいわけ。
上田宛に株券発行してやってくんねえかな」
とかいう連絡がありました。
当社はまだ株式公開に至っておりませんので、定款上株式譲渡制限を付けております。
しかしながら、再来年には株式公開予定であり、現状で素性の芳しくない方が株主として入ってきてもらうと困るのです。
当社の監査役の会計士の先生は、
「旧商法時代に設立された御社は、株券発行会社のままであり、会社法上株券を発行する義務があるので、正式に株券発行請求されたらすみやかに株券を発行せざるを得ない」
との意見です。
他方、主幹事となっていただく予定で株式公開の面倒を見てもらっている証券会社の方は
「株券が変な方の手に渡るならまず株式公開は無理」
と言っています。
ほんと、大変な状況です。
どうすればいいのでしょうか。
何かいい方法があればぜひ教えてください。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:株券発行は会社の義務
旧会社法(商法)の時代から、株式公開をしない企業の中には、
「ウチは株券発行していません。株券発行要求なんかあっても当然拒否します」
などということを平然とのたまうところが少なからずありました。
株券がややこしいところに流れると、たとえ株式譲渡に制限をかけていても少なからずトラブルが生じ、株式公開に差し支えるということから、主に証券代行(株主名簿管理人として行動する信託銀行)が
「株券なんか発行するな」
という指導をしており、これがいつのまにか
「ウチは株券していない取り扱いであることを告げれば、株主が株券発行を要求してこようがシカトしても構わないんだ」
という都市伝説になったのだと思われます。
しかしこのような会社の言い草には全く根拠がありません。
旧商法時代においては、すべての株式会社は、株主から株券発行の要求があれば、これに応じなければならず、法律上これを拒否することができないとされていました。
旧商法時代からの株式会社で、 「定款変更を実施し、株券不発行会社に移行する」という手続きをわざわざやるような「会社法的に意識高い系企業」であれば格別、この種の小賢しいことをしていない、多くのフツーの旧商法時代からの株式会社は株券不発行会社のままです。
監査役のいうとおり、やはり、株券発行を拒否する根拠がないのです。
ちなみに、現在の会社法下で設立された会社では、原則・例外が見事に逆転した制度構造となっており、デフォルト設定として、全ての株式会社は株券不発行会社とされています。
したがって、どうしても、紙の株券が大好きで株主に発行して現実の株券をもってもらいたくて仕方がない(変わった)企業については、定款に「当社は、株券発行会社とする」という条項を挿入し、会社法のデフォルト設定を上書きすることになります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:株券不発行会社
確かに、株券譲渡に制限をかけておけば、株券がホニャララ組の手に渡ろうが、ハニャララ連合の手に渡ろうが、ヘニャララ一家の手に渡ろうが、そのようなところから株式譲渡承認申請を拒否すれば足りるだけだとも言えますし、株主に株券をバンバン発行してやっても問題ないはずです。
しかし、
「そんな連中に株券を所持されてるだけでお尻がむずむずして寝覚めが悪い」
という企業は、とっとと定款変更し、株券不発行会社に移行したほうがいいかもしれません。

モデル助言: 
上田さんの債権者と称するホニャララ団の方からの株券発行請求ですが、取りあえず、委任状とかもありませんし、上田さん以外の第三者が
「株券よこせ」
だのなんだの電話口で怒鳴ったところで、法律的にはただの雑音です。
適当にあしらっておけばいいでしょう。
とはいえ、そのうち、正式に弁護士を立てて、上田さんの代理人として内容証明郵便とかで
「株券を発行せよ」
とオフィシャルに求めてくるかもしれません。
そうすれば株券を発行せざるを得なくなります。
このような事態に備えるのであれば、株券不発行会社に移行する以外手段はありません。
御社はまだ未公開会社なわけですから、臨時株主総会といってもそれほど手間はかからないはずです。
ただ、御社株主の中には、エラそうだけど会社法をあまり勉強していないベンチャーキャピタルの方々もいらっしゃるのですよね。
そういう残念な連中に逐一説明するのが少々面倒くさいかもしれませんが、とっとと定款変更して株券不発行会社になってしまえば、株券を出す必要は一切なくなります。
ま、そんなにビビる話ではありませんよ。
なお、上田さんに対する賃金や損害賠償請求権等があれば、訴訟提起して欠席のまま判決を取ってしまうことができます。
上田さんが行方不明ということであれば、このシナリオは現実的です。
判決が取れれば、この債権で上田さんの株式を差し押さえし、譲渡命令で会社のものしてしまうことができます。
この方法の検討も始めましょうか。
ホニャララ団が騒ぎ出す前に、臨時株主総会、定款変更、上田から株式を取り上げる手段の構築と実施、と超高速で完遂しましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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