00082_企業法務ケーススタディ(No.0037):社内不祥事を勝手にマスコミに公表された!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社黒福本舗 社長 黒田 福三(くろだ ふくぞう、27歳)

相談内容: 
いやー、先日の問題は大変でした。
当社の主力製品、白玉を黒い漉し餡でくるんだ
「黒福餅」
の売れ残りを、冷凍保存して、もう一度売っていた問題ですよ。
今後は廃棄在庫は養豚業者に売却して売却証明文書をもらうようにしたり、製造過程の安全性を第三者委員会によりチェックしてもらったり、いろいろ改善した結果、営業再開の目処が立ちました。
ところで、まず今回の件をいきなりマスコミに通報した従業員の処分について相談したいんです。
本人は、全く悪びれておらず、辞める気もサラサラないようで、今も職場にとどまっています。
とはいえ、彼の上司は
「なんで私に相談せずにいきなり公表したんだ」
と悩んだ余り自殺未遂を図り今も療養中ですし、彼の同僚たちに至っては
「愛社精神がないのか!」
と憤り、私的制裁を加えかねない状況です。
そりゃ、私としても、当社として誤解を招くようなことをしたことは悪かったとは思いますが、内部でやりなおす機会もなく、いきなりマスコミで報道されても黙って認めろというのは釈然としない気分です。
今回のことは現場主導でやってしまっていたわけなんですが、私としては、きちんと現場の声を聞いていたら放置するつもりはなかったですし、今後はこういうことは会社内で処理できるようにしていきたいと考えています。
そこでなんですが、まず彼は解雇できるんでしょうか。
それと、今後、いきなりマスコミに公表するのではなく、まず企業内部できっちりと不正をなくすための行動を従業員に推奨する方策として何かできることはありますでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:公益通報者保護法
談合、各種食品偽装、リコール隠し等々、最近、企業内部の不正が多く報道されるようになりましたが、これらの不祥事報道のきっかけのほとんどが企業の従業員等の内部告発によるものだと言われています。
そして、このような内部告発した従業員が、後に解雇されたり、職場で様々な不利益を受けることもよく知られた話です。
企業のこの種の報復から内部告発者を守るため、2006(平成18)年4月に公益通報者保護法が施行されました。
ちょっと前まで、企業内で秘匿されている
「表立っては言えないような事情」
を口外しないことは従業員のモラルとされ、逆に、その種の事情を口外するときは辞職覚悟で行うものとされていましたが、この法律により、
「企業内部の不正を公表するには、辞職を覚悟しなくてもいい」
という新たな企業文化が確立されました。
企業としては、
「コンプライアンスの観点上、企業内不正の密告は奨励される」
という理屈が法制化されたことを理解しなければならず、
「この対策を怠ると、信じていた身内からの裏切りにより簡単に企業組織が崩壊すること」
を認識する必要があります。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:内部通報制度を設けるメリット
公益通報者保護法は
「従業員が企業内の不正を発見すれば、どんな場合や状況にかかわらず、ベラベラしゃべってよく、解雇もされない」
ということを定めているわけではありません。
とくに、従業員のタレ込み先がマスコミの場合、通報を正当化するためのハードルは相当高くなります。
そして、内部通報制度を設置することにより、従業員による企業内不正の外部公表行為は相当抑止されます。
すなわち、公益通報者保護法上も、企業内部の自浄を高めるべく、
「社内不正の発見に際して、上司を通さず直接経営トップに通報するための仕組(内部通報制度)」
を設けた場合、従業員は、いきなり企業内不正を外部公表するのではなく、まずは企業内部の自浄に協力すべく、内部通報制度の利用をすべきことが原則として定められているからです。

モデル助言: 
まず、今回マスコミに社内不正を知らせて外部公表した従業員の処遇ですが、解雇は難しいですね。
御社に、事件前から適切な内部通報制度があれば、
「適正な内部通報制度を利用せず、何故、いきなり外部公表に加担したんだ」
ということで従業員を責めることも考えられます。
しかしながら、御社にこういう制度がなかったわけですし、また、今回のような不正は
「個人の身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合」
として、法律上も外部公表への加担を理由に解雇するのは困難です。
とはいえ、今後を考えるのであれば、きちんとした内部通報制度を設け、この種の社内不正がいきなり外部に公表されるリスクを少なくしておくべきでしょうね。
無論、こういう後ろ向きの業務を社内で行うのが困難であれば、当弁護士法人が通報窓口となる形での運用も可能です。
といいますか、内部通報制度が適切に利用されることにより社内の風通しがよくなりますし、不正は確実に減少することは経験上明らかです。
「不正を外に漏らさないため」
ではなく、
「不正自体を減らし自浄により企業をよくするため」
に早急に導入すべきですね。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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