00086_企業法務ケーススタディ(No.0040):敵対的買収防衛策としての資金需要アピール術!

企業から、顧問弁護士に対して、以下のような法律相談が持ち込まれた場合の助言方針を検討してみます。

相談者プロフィール:
株式会社フレンドパーク不動産 社長 関山 浩(せきやま ひろし、45歳)

相談内容: 
新年早々の相談なんですが、実は、昨年秋から当社株買い占めと思われる動きが出てきているのです。
当社は5年ほど前の底値の時に駅前の不動産を買い集めていましたが、これら保有不動産の価値が上がっていることから、特定の投資家にとって当社保有資産は相当魅力的なはずです。
他方、当社は、IRもおざなりにしてきましたし、自社株買い等もせず、株価対策についてはほったらかしと言っていい状況でした。
当社株価のトレンドですが、特に材料がないにもかかわらず、昨年春頃から妙な上昇基調にあり、主幹事証券会社や財務部長からは警告が出されていました。
本腰を入れて対策を取ろうとした矢先の昨年11月に大量保有報告書が出され、外資系のファンドが大量に買い付けていることが判明したのです。
あと、当社は、過去に大量の転換社債を発行していたのですが、その後の株価改善を受けて社債の償還がないだろうと考え、確保していた償還原資は事業資金に使ってしまっていました。
そうしたところ、この転換社債も別の外資系ファンドが既に買い集めを始めているという噂も入ってきており、実に気味が悪い状況です。
一応、ブルドッグソースさんのものを参考に事前警告型の防衛策は導入しました。
しかしながら、当社は開発案件や新規事業をいくつも計画しており、事業資金が常に入り用の状態ですので、いざ有事になった場合、ブルドッグさんのように、敵対者を追い払うためのカネは持ち合わせていません。
初夢で
「当社において日本初の敵対的TOB成立」
という悪夢を見てしまったこともあり、私も不安が募っております。
何か妙案がありましたら、ご教示いただけませんでしょうか。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点1:買収防衛策としての第三者割当増資
買収防衛策としては、今や新株予約権や種類株を使った非常に複雑なものがトレンドとなっていますが、つい5年ほど前までは、買収防衛策といえば第三者割当増資が最もメジャーな手段でした。
すなわち、決して裏切らないお友達に株式を大量に発行し、敵対的買収者の持ち株比率を下げるという手法です。
実際、敵対的買収のターゲットとなった企業が、ドンパチの最中に、敵対的買収者の株式保有割合を薄めるため、露骨な増資を行い、裁判沙汰になったケースがいくつもありましたが、こういう裁判例の蓄積により
「主要目的ルール」
というものが確立しました。
曰く、現経営陣が敵対的買収者の持株比率の低下と支配権維持を主要な目的とした増資はアウト、資金調達が主要な目的である場合はセーフ、というルールです。

本相談を検討する際の考慮すべき法律上の問題点2:具体的資金需要のアピール
主要目的ルールを前提とすれば、
「会社に具体的資金需要があり、その調達方法として増資を実施し、その反射的な効果として、乗っ取り屋さんの思惑が外れるような支配比率の変化が生じた」
というシナリオであれば、乗っ取り屋さんを追い払うことは可能ということになります。
他方、具体的資金需要がなかったにもかかわらず、有事の真っ最中に、降って湧いたように新しい事業計画や具体的資金需要をアピールしても、世間からも裁判所からも
「でっち上げ」
と思われてしまい、増資は差し止められます。
で、優秀な企業法務弁護士と契約している一部の賢い企業は、こういう点を踏まえ、各種ディスクローズの際に、検討している事業計画や当該計画に資金が必要なことや、さらには資金調達方法としてエクイティ・ファイナンスも視野に入れていることを、
「ほら吹き」
と言われない程度にアピールすることを実施しています。
つまり、こういうことを常日頃からアピールしておけば、いざ乗っ取り屋がやって来たときも
「前から言っていたとおり、ビジネスにカネが必要になったので、増資をしただけですが、何か問題でも?」
という形で、実質は買収防衛目的の大量の増資を実施することが可能となる、というわけです。

モデル助言: 
御社もいろいろと開発案件や新事業立ち上げを考えているのであれば、馬鹿のひとつ覚えみたいに銀行融資だけでなく、エクイティ・ファイナンスも検討すべきですね。
もちろん、先程申し上げたとおり、お考えになっている開発の規模や新事業の概要を可能な限り具体化しておき、資金需要の規模や時期もある程度具体的にアピールしておいた方がいいですね。
もちろん、金融商品取引法の規制もあるので、ウソや誇張はだめですが。
それと、第三者割当増資で敵対的買収に対抗する場合、引き受けてくれるホワイトナイトが絶対必要です。
いざとなったときに頼れるお友達を、できるだけ増やしておいてください。
あと、増資に加え、新株予約権の発行も買収防衛効果があります。
役職員向けのいわゆるインセンティブ・ストックオプションの導入も可能ですし、
「新株予約権発行は増資と違って資金調達目的は必要ではない」
とされますので、事業提携を行う際に、提携アイテムのひとつとして新株予約権を発行しておくのもアリですね。
さっそく、各検討に取り掛かかりましょう。

著者:弁護士 畑中鐵丸 /著者所属:弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所

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